アジト包囲戦
「あぁ、まずいな」
アジトは、大きな魔力を持つ天使に囲まれていた。
どれも、男の天使。
おそらくは、ウリエルのコピーだろう。
「ははっ。 お前達のアジトなんてもう特定していたのよぉ。 残念だったわねぇ」
ラファエルに拘束されながら、1人の女が笑いながら言った。
ミカエルは、光の手枷足枷で身動きは取れないが、それでも余裕綽々といった表情でこちらを見る。
その瞳には、未だ自信が見られていた。
「ラファエル。 ちょっと行ってくる」
「うん。 頼んだぞ」
俺は、羽を展開して飛んでいくと、ウリエル・コピー達はこちらを振り返る。
数十体を超える天使達は、その大きな羽で空を白に染める。
そして、大きな魔力を1つに、白い大きな矢を放ってきた。
義腕でそれを防ぐが、防ぎきれずに左腕が吹き飛ぶ。
それを瞬時に回復させながら俺はさらに接近しようとするが、その時には次の矢が構えられていたる。
「へぇ、俺を知っている戦い方だな」
遠くから、ミカエルの声がする。
「へへん。 Gの意思が取り込まれたコピー達は強いわよぉ」
まるで、自分の研究の成果を自慢するかのように、彼女はしたり顔をして見せる。
だが、かすかにその腕が震えているように見えた。
白い空からは、先ほどと同じ規模の矢が二本、飛来する。
それを、義腕で再び防ぐが、先ほどよりも大きく俺の身体は損傷する。
「出し惜しみしてる場合じゃないか」
俺は、潜在魔力を解放する。
羽は12枚、身体には、深淵の骸骨が纏われる。
心臓は高鳴り、周囲の時が止まっていく。
今、作られていく光の矢は、4本。
その矢を2本、形成途中に触れ、掴んで、握力で破壊する。
それは、綺麗に崩れて、重力に沿って落ちていく。
「あと、2本か」
ウリエル・コピー達の顔がこわばっていくのがわかる。
光の矢は完成していて、明後日の方向に飛ばされようとしていた。
その先には、ラファエル達がいる。
さて、俺は義腕を両腕に伸ばして、光のやや受け止めた。
光の矢は、俺の体に取り込まれて、その光を失っていく。
そして、その義腕を閉じて、抱きしめるようにウリエル・コピー達を包んでいく。
力を失っていき、体を崩壊させていくコピー達の表情は、安らかだ。
「ありがとう」
どこからか、どのコピーからか、分からないが、そう聞こえた。
太陽の香りが立ち込めて、瞬時に変えた時に、コピー達の姿はなくなった。
俺は、地上へと降りると、アジトのみんなが近寄ってきた。
安堵の表情を浮かべている。
「お前達よく耐えてくれたよ」
「来るのが遅すぎです。 シリュウ……でも、ありがとうございます」
フェローや、ストちゃんの身体はボロボロであった。
俺は、彼女達の頭を撫でるように触れ、魔力を注ぎ込む。
「シリュウ様。 そんなこともできるのですか?」
「あぁ……ほかに傷ついた奴はいないのか?」
ウリエルに対抗できる力を持つのは、あとはギガイアがいるか。
俺は、ギガイアの方を振り返ろうとする。
その時、俺の胸を貫くものがあった。
その刃に見覚えがある。
勇者の剣、そして、俺の背中に立つのは、ギガイアだ。
「なんのつもりだ?」
「見ての通りだよ。 君は、ガブリエル様の敵だろう?」
「へぇ、なるほどね。 でも、いいのか? お前じゃ俺の足元にも及ばないだろう」
突如、上からレオンがアロンダイトを振りかざしながら降ってくる。
ギガイアは、それを身体をひねり、蹴りで突き飛ばした。
「くっ、すまん。 シリュウ」
「お前から謝罪が聞けただけでおつりだよ」
俺は、まっすぐと歩いて、刃を胸から抜いた。
一瞬、大きく血が流れていったものの、すぐに止血して、傷口も塞がれていく。
「ふうん。 やはり外傷に対してはすごいね。 だけど、内側からはどうかな?」
ギガイアは、ウリエルとラファエルに囲まれるが、剣を振り、避けさせた後に蹴りと拳で突き飛ばした。
その隙を、俺はつこうと動くが、身体が途中で止まった。
「……毒か」
身体が重い、特に瞼が重かった。
思考が鈍っていく、まるで脳に靄がかかったかのように。
「ご名答。 まったく、象でも瞬で眠る毒なのに、化け物だねえ」
剣が首へ向けて、横に振られる。
睡眠に対して、アドレナリンを分泌して対抗し、代謝を増やすことで解毒を図る。
だが、思考が……目が冴えていくと同時にそれに気がついた。
ーー間に合わない。
俺が動くことができる時には、首は飛ぶだろう。
首が飛んだくらいでは死なないが、むざむざ勇者を逃すわけにもいかない。
「シリュウ様!!」
その時、ストちゃんの身体が、剣の軌道に割り込むのが見えた。
その小さな手を剣を挟み込むように動かす。
そして、それは白刃どりの形で剣を止めた。
後2秒、その時間で俺は自由になる、
だが、ギガイアは剣を手放し、膝を落とす。
逃げられる。 そう思った瞬間、彼の身体は土の檻に囚われた。
彼は、その檻を拳で破壊するが、それまでにかかる時間は、2秒はゆうに過ぎている。
「くそ。 残念だったなぁ」
「そうだな。 残念だっただろう」
俺は、義腕でギガイアを掴み、その力を殺さない程度に奪う。
脱力し崩れ落ちていきながら、ギガイアは笑っていた。
「何がおかし……おい、ラファエル!! ミカエル達は?」
「それなら……なっ、逃げられたか」
ミカエル達の姿はどこにもなかった。
拳に力が入る。
睨むようにギガイアを見下ろした。
「そう睨むなよ。 僕にだって守りたいものがあるんだ。 仕方ないだろう」
「……ラファエル、こいつには逃げられるなよ」
俺は、しばらくそこに立ち尽くしていた。




