助っ人は最強
その場所は、暗く、黒い。
不気味である。
そこから向けられた視線は、ヘカトンケイルにも匹敵するものである。
ヘカトンケイルというものをよく知らないが。
その正体は、殺気である。
アジトからは、近づくものに対して全てに殺気を向けられている。
ふと、ベルの音が鳴った。
近くから、本当に近くからである。
そう、隣に立つ、フェローの手元から。
その音が鳴り響くと、殺気が消えた。
「さぁ、入りましょうか」
ドヤ顔だ。
フェローが、澄まし顔で進んでいった。
俺たちはそれについていく。
そこには、数々の男たちがいた。
主に、年寄りと、子どもが。
「おお。 おかえりフェロー」
ある部屋にたどり着くと、おっさんが1人、こちらに近づいてくる。
フェローの顔にはシワが寄っていて、苦そうだ。
おっさんの手が、フェローの腰に伸びていく。
「やめてくださいっ!!」
その手をフェローは払う。
その瞬間には、ひどく大きな音が鳴った。
「ううー。 ひどいのう」
「このセクハラ親父め」
「……この光景はなんだよ」
「ん? 男か……おお。 ギガイア、生きてたか」
「ラファエル様、お久しぶりです」
ラファエルと呼ばれたその男は、首を書きながらこちらを見上げていた。
その顔には、妙な笑みが浮かんでいる。
「おいおい。 バラすなよ」
変に笑いながら、ヘラヘラとして見せたが、その名前は、聞き捨てならなかった。
「ラファエルだと?」
「ん。 バレちゃあしょうがない」
俺がラファエルだと、ポージングで証明して見せる。
その背中から現れた羽は、確かに天使のものだった。
「なぜお前が、レジスタンスに」
「そりゃあ、男たちの人権を守るためさ」
「へぇ、そりゃすごい」
「信じてないなぁ。 まぁ無理もない」
羽をしまいながら、ラファエルを名乗る男は、羽の片付けを行い始めた。
「あーあ。 これ出すと部屋が羽まみれになるんだよな」
「……なぁ、味方なんだな?」
「うーん。 それは、君次第かな」
なおもヘラヘラしながらラファエルは、こちらへと向かってきた。
俺の前に立ったかと思うと、目利きするかのように、俺の全身を舐め回すようにみる。
そして、俺の背中に立ったかと思うと、尻を触られる。
「なんのつもりだ」
「……知らんのか? ここが、どういう集まりか」
「知らん。 やめっ。 ……やめろ」
「そんなこと言って、身体は正直じゃねえか」
「バカ……そんなこと……ないし」
「ふっ。 おじさんと隣の部屋……行こうや」
「ラファエル……さん」
「なんだい?」
「やさしくしてね」
「もーちろんさー」
次の瞬間、俺たちは後頭部を殴打され、小1時間眠ることとなった。
フェローの力で、できる限り最大限の力で殴られたのだ。
だが、後悔はしていない。
俺は、そこにネタがあったら乗るのだ。
「なーにバカなこと考えているんですかシリュウ」
「なんで心を読むんだよ」
「言ってなかったですけど、ここの人たち、本物の方々ですよ?」
「本物って?」
「あぁ!!」
「……答えになってないぞ」
「まぁ、せいぜいお尻には気をつけてくださいね」
「なるほど……で、今どこへ向かっているの?」
俺たちは廊下を歩いている。
男たちの視線を浴びながら、フェローはそれを気にすることなく歩いていた。
フェローは。
「シリュウが捕まったから、人員の補充を頼んだんですよ。 その方が来たので迎えにです」
「へぇ……でもうちのギルドにそんないい奴がいたのか?」
俺は手を頭に当てて考えた。
足取りが気づかぬうちに止まっていたようで、フェローがこちらを振り返り答えた。
「ついこの間、自然覚醒したのが1人」
「へぇ、自然覚醒……」
俺の声のトーンが下がりながら、言葉を続ける。
「自然覚醒か」
「どうしたんですか?」
「自然ってことは……そういうことだろ」
覚醒とは、スキルを手に入れる瞬間のことであり、本来はーー昔の人間は、スキルを自然に使えるようになっていたらしい。
20歳になれば、誰でも覚醒できる量産型宝具でスキルが使えるようになるのだが、稀に自然に覚醒する人間がいる。
「えぇ。 そういうことです」
フェローが、ドアノブに手をかけて、ひねり、ドアを開ける。
そして、そこには、1人の女の子がいた。
懐かしいその女の子は、俺を見るなり一気に近寄って、抱きしめてくる。
とても、懐かしい香りだった。
「お久しぶり。 シリュウ様」
「まさか、本当にストちゃんが来るなんてな」
まぁ、とりあえずきてしまったものは仕方ない。
今後の計画は、円滑には行くんだろうが。
俺は、この子を巻き込んでいいものか、悩んでいくのであった。




