最強の助っ人
こんなものは、ただの勘でしかない。
だが、俺にとっては勘でしかないことが、俺以外にもそうであるとは限らない。
目の前の天使はガブリエルではない。
そのことに、エドは確信を持っていた。
「いいえ、私はガブリエルだよ」
「悪いが、俺はお前よりも、こいつを信じるのでな」
目の前の天使は、顔をしかめて、こちらをにらんだ。
「まぁ……どちらでも良いけどね」
空中に、円形の光が現れる。
それが乱回転しながら持ち場について、俺に向けて、矢を放った。
「だが、遅いぞ?」
「速さはいらないんだよ」
俺の身体は動かない。
動かないから、避けられない。
先ほど試したが、こいつを攻撃することはできなかった。
つまり、俺たちを支配するのは、この天使だということだ。
「なるほど」
俺は、精一杯強がるが、まずい状況だ。
逃げることすらできない。
スキルだけは無駄に使用でき、ゆっくりと光の矢が近づいてくる光景を見せ続けられる。
なんとかする方法を考える。
周囲を見渡した。
勇者の姿がない。 だが、関係ないだろう。
エドは論外として、レオンも、反応しきれてない。
もうダメか……いや、この魔力は。
「強がりかい?」
「いや、間に合った」
「なにっ?」
突如、床が盛り上がり、光の矢を受ける。
貫通こそすれど、抵抗を受けたその矢は方向を曲げ、俺はと命中はしない。
「……これは一体なんだい」
天使が、状況を把握できていない。
俺も、こんなタイミングで合流できるとは思っていなかった。
「遅かったんじゃないのか?」
「僕以外にうつつを抜かすようなら、助けはいらないかと思いましてね」
かつて、7大罪と呼ばれていた。
俺の相棒。
「フェロー。 お前以外には見向きもしねえよ」
「こんな時だけ都合のいい……まったく」
ドレスに身を包みながら、俺前へと立ち、天使に交戦の意思を見せつける。
「ふっ。 なんだその格好」
「シリュウには言われたくありません。 まるで奴隷ですよ」
「まぁ、脱獄奴隷だからな。 間違いない」
俺たちの懐かしの会話を遮るように、光の矢が随時飛んでくるが、フェローは振り返ることもせず、全て撃ち落とした。
「誰ですかあれは」
「さあな。 しかしやるねえ。 ノールックで」
「ふん。 褒め方が雑すぎますよ」
触手のようにうねる床と壁は、だんだんと天使を包囲していく。
天使は、空を飛びながら、光の矢で壁を削りながら避けていくが、だんだんと追い詰められていく。
「……なぁ、フェロー」
「わかってます。 ほら、これで逃げられない」
唯一の逃げ場を塞ぎ、フェローがこちらはまた振り返る。
それを俺は、咎めるように叫んだ。
「違うっ!! 後ろだ」
フェローは振り返らない。
壁の触手を自身にぶつけて、大きく動く。
触手は、相手を遮るように、配置された。
だが、フェローの前髪はいくつか切られ、空を舞う。
「……これは」
その正体は、ギガイアだった。
未だ操られるギガイアが、こちらを攻撃しているのだ。
そして、その攻撃すら、フェイクだった。
本命の斬撃は、すでに壁を破壊していて、天使は空へと逃げていく。
そしてしばらくすると、俺の身体が自由になったり
「距離が離れると……そういうスキルか」
「えっと、すまない。 逃してしまった」
「気にするなよギガイア。 ほら、みんな生きてる」
今回、結局命を落としたのは、スグスィヌだけだった。
灰すら残さず燃え尽きたのは、哀れではある。
「さて、この人たちは……説明してもらえますかシリュウ」
「うん。 カクテキウマウマだ」
「ちゃんと説明してください」
俺は、状況をまとめて、フェローに伝えた。
この国へ、フェローと侵入したのち、別れてしまってから、奴隷になったこと。
エドはそこで出会った、ギガイアとジャイヤは、その後。
そして、レオンが共闘してくれたことを。
最後に、ガブリエルはここにはいなかったことを。
「ふーん。 で、レオンはどうするつもりですか?」
殺意を込めた魔力が、レオンを襲っている。
その意味は、ここで敵対するなら確実に殺す。 ということだろう。
「……俺はまだ、弱い。 今回はパスを」
「いや、それをわかってるなら来いよ」
思わず言ってしまった。
だが、それは本心からくるものであった。
「どういう意味だ」
「鍛えてやるよ。 だから来い」
「……足手まといだぞ。 俺は」
「今回、1番の足手まといは俺だったしなぁ」
誰一人笑わなかった。
ここ、笑うところなのに。
「シリュウ。 彼がかつてしたことを覚えていますか?」
「ギスハーンにボコられた後に、俺にボコられた」
「……覚えているならいいんです。 今回だけよろしくお願いしますねレオン」
「…………こいつら、いつか絶対コロス」
ここからの俺たちの行動だが、まずは協力者との合流をということになった。
それは、フェローがありかを知っていた。
レジスタンスすら、信用できないこの場所で、真のレジスタンスとの合流が可能なそうだ。
そして、それは、思っていたよりも近かった。
「……ここです。 すごく忌まわしいですけどね」
フェローが教えてくれた場所は、刑務所のような場所だった。




