スグスィヌとの決着
ダメージ、正確には外皮に影響を与える因子を全て無効化する。
振動でさえ無効化されるものだから、毒など内側からの攻撃でしか効果は現れない。
もっとも、毒が許可されてるとも思えないが。
だが、呪術は違う。
これは、魂に直接影響を与えるものが多い。
だから、効果は期待できるはずだった。
しかし、すぐに効いているようには見えない。
例えるなら、1ダメージを繰り返すように。
「ふん。 なまっちょろいぞ」
せっかく態勢の抜け道を見つけたのに、スグスィヌ自身が元々すごく硬かったというわけだ。
しかし、どこにそんな精神力があるんだろうか。
「くっ。 こんなものじゃないぞっ!!」
スグスィヌはレオンに集中的に攻撃を仕掛ける。
許可がないため、俺への攻撃ができないからだろう。
レオンは、それを避けながら、攻撃に転じている。
凄いことに、一度もスグスィヌに触れさせてすらいない。
甘い部分もある。攻撃を大げさに避けはものだから、俺との対角線にスグスィヌが外れて、俺が攻撃出来なくなる。
仕方ないから、俺が合わせてやるのだが、しかしそれでも避けることができるのは、以前の彼からは考えられないものだった。
しかも、その動きには自然さが感じられる。
おそらく、昔からこれくらいはできたのだろう。
どこかで、慢心があったのが、誰かとの出会いでそれを失って動きを取り戻したようだ。
彼は、避けること自体は下手なものの、攻撃と防御のバランスがいいため、隙があらば、常に攻撃し続けることが出来ているのもいい。
「ふん。 疲れてないだろうなレオン」
「ああっ!! 誰にものを言ってんだ」
2人の呪術が重なった時、スグスィヌの身体が倒れた。
おそらく、呪いが回ったんだろう。
声は出なかった、黒い炎に纏われていることから、一瞬で喉まで焼けたのが推測された。
だが、恐ろしいのはここからだった。
その黒く固まった皮膚がひび割れて、中から新たなスグスィヌが現れる。
ちょうど、脱皮のように。
「これはどういうことだ」
レオンの問いに、スグスィヌ自身が答えた。
「俺のスキルだ。 新陳代謝を過剰発達させて、全ての病を治癒させる。 で、ガブリエルの支配を逃れてやった」
「へぇ。 それで、どうふるんだい? 木にでも登ってミンミン鳴くのか?」
「……やっぱりお前から殺してやるよ。 シリュウ」
勢いよくこちらに拳を向けてたんでくる。
それをひらりと避けて、脚をかけて転ばせる。
そして、頭の上に脚を乗せてやる。
「レオン。 共同戦線はまだ続いているのか?」
「……もう、お前1人で十分だろう」
「そうみえるか?」
俺の身体が持ち上がる。
特別、何かをされたわけじゃない。
ただ、スグスィヌが立ち上がったのである。
ダメージを負ったはずの場所が剥がれて、綺麗さっぱりとなっているのが確認できた。
そして、ニヤリと笑う、不気味な笑顔。
「ふん。 効かねえなあ」
スグスィヌは、拳を振るう。
それを呪術の光に灯された拳で払い、へし折る。
だが、それは直ちに修復される。
スキルとしては、俺とよく似たタイプのスキルだ。
攻撃転用ができない代わりに、俺よりも生命力が高いようだが。
まるでゴキブリだな。
気持ち悪いったらありゃしない。
「何をすればいい?」
「ありったけを打ち込め。 合わせてやるよ」
アロンダイトが黒く光る。
それに合わせて、俺も左手を燃やした。
「ふん。 何をするつもりか知らんが、俺を殺せるかな?」
俺は、そのセリフを聞いて、少し哀れになった。
「いっそ死ねれば楽なのにな」
アロンダイトが、心臓を貫く。
それに俺は、合わせて黒炎を灯した。
光に合わさって、炎は全身に広がっていく。
「おいレオン。 そんなものじゃないだろ?」
「ふん。 当たり前だ!!」
光が強くなるのに合わせて、俺も炎を強くあげる。
完全に全身に炎が回った後、俺たちは距離をとった。
「こんなもの……消えねえ」
「おいシリュウ。 何をしたんだ?」
「お前の呪術にシンクロさせた。 この炎は触媒がなくなるまで消えないよ」
「触媒?」
「この醜い肉体だ」
他には燃え移ることなく、のたうち回りながら炎を上げていく。
明るくはないが、黒い光は、強いひかりだった。
周囲は照らさず、されどそこにあるのがわかる。
スグスィヌが諦めるまで、その炎は消えることはないだろう。
そして、スグスィヌを討伐したその瞬間、アロンダイトが俺の頬をかすめようとする。
俺は、それを最小の動きで避けた。
「どうした? お友達になったとでも思ったのか?」
「いや、だけどエドの手前、最後までは手伝ってくれるのかと思ってな」
俺は、アロンダイトの刃を掴む。
それを動かそうとレオンは体を大きく揺らすが、ビクともしない。
「俺は、お前を倒すために、ここに来たんだ」
「そうか。 ちっぽけなやつ」
「なんだと?」
「そう怒るなよ。 俺と同じ、穴のむじなだ」
「一緒にするなっ!!」
急に、かかる力が強くなる。
俺は、片手の握力じゃ掴みきれなくなり、咄嗟に離して距離をとった。
俺がいた場所には、何回か剣が往復していくのがみえる。
集中しているはずなのに、その剣筋は目で追うのがやっとだ。
「なんだよ。 まだ力残してたのか? なら、こいつ相手にも真面目にやれよ」
「黙れっ!! お前を殺す」
「しょうがねえ。 そんな暇はないが、相手してやるよ」
と、臨戦態勢をとる俺たちの間に、エドが割って入ってきた。
手を伸ばし、俺たちの接近を防ぐ。
「ダメだよ……やめてくれよ」
「どけ。 邪魔をするな」
「退かないよっ!!」
レオンの言葉に、エドは強く反応する。
震えを隠すこともできないのに、こいつは、俺たちの間に入ってきたのだ。
「……おいレオン。 エドに免じて、今回は協力しようぜ」
「なんだとっ」
「その後なら、いつでも相手してやるから」
「……分かったよ」
レオンは、剣を収めた。
その時、エドの腰が抜けたのか、その場にへたり落ちる。
そして、黒炎が消えた。
「……死んだか。 なぁ、お前ら、とりあえず俺は足手まといだからよろしくな」
「は? どういうことだ」
「俺は、ガブリエル様の支配下だからな。 まぁ、なんとかして見せるけど」
そして、俺たちは今後のプランについて話し合っていくのであった。




