表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/66

共同戦線

 ベルが鳴るたびに、男たちは、侵入者を狩りに行く。

 それ以外は、この部屋から出ること以外は、自由なようだ。

 ここには、色々な男がいた。

 喧嘩になりそうなこともあったが、俺たち同士が攻撃し合うことは出来なかった。

 許可されていないのだろう。

 俺は、積極的に、狩に出ていくが、お目当の人物に会うことはできなかった。

 エド、そして……


「また、ベルがなったな。 今回のはやけにうるさいな」


 今度のは、音の大きさ、というよりはリズムが違った。

 強く訴えかけてくるような……そうだ。

 テンポが2倍速なんだ。


「これは、複数人で来いってことだよ。 倍速なら、2人でだね。 行くかいシリュウ」


 北の勇者、ギガイアである。

 見た目はこんなだが、かなりのツワモノだ。


「そうだな。 行くか」


 その発言が気に入らなかったのか。

 後ろから制止する声が聞こえる。 かなり大きい声だ。

 そこには、やはりこの男。

 スグスィヌが巨体を振りながら見下ろしている。


「邪魔だ。 今回も俺が行く。 1人でいい」


「そういうわけにもいかないんだよ。 2人じゃなきゃ、ドアが開かないよ」


 ギガイアが、彼を制止する。

 スグスィヌは、一度、多量の返り血を浴びて戻ってきたことがあった。

 それ以来、俺は積極的に狩に行くことにしたのだが、彼にはそれが気に入らないらしく、衝突することもしばしばだ。


「わかった。 俺も付いていく。 手出しはしない。 どうだ?」


「やけに物分かりがいいじゃねえか。 それでいいんだよ」


 表情が柔らかくなり、意外にもスムーズに付いていくことに成功した。

 どのみち、狩りでは、侵入者を無力化しないといけない。

 とはいえ、殺すのはやりすぎだと思うが。

 これはチャンスだと俺は受け取った。

 広間へと降りていくと、そこに1人の男がいた。

 小さいながらも、胸を張って立ち尽くしているその男は、俺のよく知る人物だ。

 エドとの再会だ。


「久しぶりだな。 エド」


「シリュウ!! 良かった。 生きてたのか」


 俺は、拳を構えるスグスィヌの前に、手のひらを差し出した。

 それは当然咎められる。


「なんのつもりだ?」


「知り合いなんだ。 話ぐらいさせてくれ」


「ふん。 甘ちゃんのお前が、やけに狩りにでたがるわけだ。 いや、面白いかもな。 お前が殺すならいいぜ」


 顎に手を当てて考えると、思考速度が3倍マシだ。

 この状況は、返答一つですぐに変わりいくため、慎重にならざるを得ない。

 もちろん、即答するのだが。


「分かった。 あいつは俺が排除しよう」


「殺すと誓え」


「……俺が殺せなかったら、お前の番だろう?」


 その答えに、彼は大きく声を出して笑った。

 その笑い声だけで、空気が大きく震えているのがわかる。


「いいだろう」


 その答えを聞いた後、俺は、ゆっくりとエドに近づいていく。


「お前、1人か?」


「え、いや。 助けてくれた人がいるんだ。 すぐに追いつくって言ってたけど」


 苦悶の表情が適切となるのだろうか。

 曇っているとも違う、何かに怯えた表情をしながら、それでも俺から距離を取ろうとはしなかった。

 俺は、右手に熱を貯める。

 それを鼓動とともに形作り、エドに向けて射出した。

 それは、エドの頬をかすめていき、壁へと衝突して消えた。


「おいおい。 その距離で外すのか?」


 俺は、無言のまま、再び同じく熱を形成し、射出する。

 今度は、スグスィヌのもとに向かって。

 だが、その熱は放たれない。


「……なんのつもりだ?」


「やっぱり、許可がないと攻撃できないか」


「なるほど。 やはり、貴様は裏切り者というわけか」


 今のは短絡的すぎたと反省する。

 これで、俺に裏切りの意思があることが明らかになってしまった。

 もちろん、だいたいわかってるんだろうが、それでも行動に移すかどうかはまた違う。

 俺の自由はさらに縛られるのだろう。


「エド、協力者はすぐに来るんだよな?」


「うっ、うん!! すぐにくるって」


「そうか、なら、こいつか」


 大きな魔力を持つものが近づいてくるのがわかった。

 その者が、俺の考えている通りの奴であるならば、この状況は彼女に任せていれば待っているだけで好転する。

 その距離は、もうすぐそこ。

 だが、近づくにつれて、殺意が混じっているのがわかった。

 そして、その者と接敵する。

 そいつは、俺の喉元に刃を突きつける。

 対する俺は、首を掴んで離さない。


「エド……レオン!!」


 かつて何度か手合わせをしたことがある。

 そいつは会うたびに力をつけて、俺に向かってきた。

 レオンのアロンダイトレプリカは、黒い光とともに、俺に殺意を向けてくる。


「「近づくなっ!!」」


 2人の声が重なった。

 そして、レオンが言葉を続ける。


「それ以上近づけば、俺の首から上は弾けて消えるぞ」


「へぇ。 わかってんじゃねえか」


「だが、お前は確実に殺す」


「殺せるかな?」


「殺すさ」


 2人が膠着状態に入った時、上から圧力がやってくる。

 スグスィヌが、大きく跳躍して、上からのしかかるように攻撃してきたのだ。

 俺がいるのに。


 2人は、距離を話して、スグスィヌを挟むようにしてそれを避けた。

 スグスィヌは、レオンに向けて体を向け、臨戦態勢をとる。


「ふーん。 やりごたえがありそうな奴じゃないか」


 まるで獣のように、スグスィヌは攻撃を仕掛けようとする。

 だが、その攻撃をレオンは避け、その魔剣でスグスィヌの身体を刻んだ。

 だが、傷がつくことはなかった。


「なにっ?」


 大きく飛びのいて、レオンは大げさに驚く。


「俺たちに、ダメージを負うことは許可されてないんだ。 普通の攻撃じゃ無効化されるぞ」


「なるほどな。 なぜお前がそっちにいるか納得した。 敵の手に落ちたのだな」


「お前こそ、なんでお前なんだって感じなんだけど。 あいつなら、全てうまく言ったのに」


「知るかっ!! お前の事情など」


「だけど、まぁ敵同士でも、味方になる瞬間ってあるよな」


「共通の敵……か。 くだらん」


「いいの? お前1人で」


 レオンは、ちらりとエドの方を見る。

 そして、魔剣を構え直した。


「ーー勝手にしろ!!」


「いいねぇ。 勝手にするぜ」


 俺は左手から、レオンは右腕から、呪術の力を放っていく。

 許可がなければ、スグスィヌを攻撃することはできない。

 だが、例外があることは見させてもらった。


「深淵の力を使うものが2人か……」


「弱っちぃお前の方に合わせてやるから、頑張れよレオン」


「ふんっ。 お前に合わせられるかな」


 2人は、スグスィヌに向けて距離を詰めていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ