門番の女性 その2
女というものは、男よりも筋肉がなく、背は小さく、柔らかい。
だから、ふつうにやれば、殴り合いなら男が勝つだろう。
一部の例外が相手なら、その限りではないだろうが、俺の目の前に立つ女性は、一般的なものであった。
可愛らしく、大きな瞳を持つ顔に、肩までかかる髪、肩幅は狭く、華奢で、弱々しい。
それに、やる気が無さそうといえば、心技体の内、2つでもう俺が勝っているだろう。
だが、俺は、警戒をしている。
この女性の放つ重圧は、ドラクエのブリザードやクリフトの様なもので、強力とか、圧倒というよりは、理不尽という感じだ。
「あんたも、ここを通さないつもりか?」
「うん。 それが命令だから。 あなたを殺してでも止めるよ」
「あぁ、そう。 なら、仕方がないな」
俺は、少しずつ後ずさりしながら、草むらへと向かっていく。
そして、俺は、そこにいたエドに、左手で触れた。
「何……」
「黙ってろ。 嫌な予感がする。 あいつはなんとかしてやるから、その後は1人でも頑張れよ」
「えっ。 僕1人じゃ無理だよ」
「知るか。 もともと1人でやろうとしてたんだろ? 男なら頑張れよ」
その会話は、女性まで届かない様、小さな声で行なったが、向こうから見れば不自然極まりないだろう。
ゆっくりとこちらへ近づいてきた。
「そこに、誰かいるの?」
「ん? 逃げる算段をな……だが、必要なさそうだ」
俺は、草むらから出て、女性の前に立った。
冷たい空気は、肌だけではなく、吸い込んだ先の肺からも身体を冷やす。
「そう。 そろそろ始めてもいいかな?」
「あぁ、始めるか」
そう言うと、彼女の身体が光りだす。
その光は眩く、目を少し閉じながらも、彼女の姿は見失わないよう目は逸らさない。
そして、その光は消えていく。
目くらましとう言うわけではないようだが。
「あれ? もう一度」
そして、再度、先ほどと同じ赤い光が辺りに広がっていった。
それに身体が照らされて、血管がよく見える。
しかし、目を瞑るほどの光ではなく、その間に何か動こうという意思もない。
「なんだ? 暗い部屋でモノ探しに便利なスキルか?」
今のところ、俺の身体に不調は出ていない、周囲にも、変化は見られない。
だとすると、彼女自身に何か変化があるのが自然だろうか。
俺がそう考えていると、彼女は次の行動に移った。
両手を上げだしたのである。
そして、次に放つ言葉は、俺の予想の外をいった。
「こうさーん。 私の負け」
瞳が淀んでいるため、判断に困る。
「なんのつもりだ」
「だって、私のスキル効かないんだもの。 無駄にボコられたくないし」
ちらりと倒れている女に目線を向けながら、彼女はそう言った。
俺は、腕を下ろして、草むらに視線を渡す。
そこから、エドが出てきて、俺の横に立った。
「こいつも連れていくぞ。 いいな?」
「うん。 だってダメだって言ったらボコるんでしょ?」
「そうだ。 じゃあいくぞエド」
そう言って、ドアを通って中に入ろうとした時、ボソリと彼女は呟いた。
「気をつけてね」
俺は、あえて立ち止まることはせず、そのまま中へも入っていった。
中は、意外に大きく広がっていて、一室のようになっていた。
そこでは、1人の女性が待ち構えていた。
ガブリエルであった。
「なんだよ。 すぐそこに嫌がったのか」
俺は、肩に手を当てながら、ガブリエルに近づこうとするが、腰に違和感を覚えて止まった。
そこには、エドの手があり、腰を掴んで俺を制止しているようだった。
「違う。 ガブじゃない」
その声は震えている。
その時、俺の目の前に、その女はやってきた。
「ふん。 どうして僕がこんな……君、例の。 そうか、そうなんだ」
彼女が俺の首を掴むのに、抵抗をすることができない。
気道を圧迫され、呼吸が苦しい。
空気が通るたびに、喉に鋭い痛みが走る。
「何……のつもりだ」
「この目を見て」
俺と、彼女の目が合うと、俺の視界が狭くなっていき、やがて消えた。
真っ暗なそれに慣れた頃に、光が差し掛かった。
「ここは……どこだ?」
そこは、何かの一室だった。
施錠をされていない普通のドアに、それなりに揃っている家具。
そして、男が何人かいる。
その中には、この国に突入する前に確認した資料にあった人物がいた。
「おまえ、たしか。 北の勇者か」
「ん? 僕を知っているのかい?」
装備も整っているようで、いますぐにでも戦えそうな雰囲気だ。
別に目が死んでるわけでもないし、ガブリエル様〜なんて、うわごとのように言っているわけでもない。
「あぁ、北国が支配される前の、レジスタンスのエースだったよな?」
「今では、これだけどね。 君も捕まったのか?」
「あぁ……なぁ、お前ほどのやつなら、脱出することも、ここを制圧することもできるだろう」
「うん? そうだね。 帰る場所があるならそうしたいけど」
その瞳は、どこか遠いところを見ていた。
座った体勢から、ゆっくりとうなだれて言葉を続ける。
「僕には帰る場所がなかったみたいだから」
「そうか。 レジスタンスはもう堕ちてたんだったな」
「へぇ。 気づいたんだ。 やるね」
「やり口が露骨すぎるんだよ。 バレてもいいってことだろう」
「……そうだね。 この通り、効果絶大だ」
その時、ベルが鳴りだした。
俺たちの視線は、その音の方向へと向けられる。
そして、勇者が立ち上がろうとした時、それを制止する声が聞こえた。
「いい。 俺がいく」
そうして、1人の男が出ていった。
「これは?」
「うん。 侵入者がいた時、こうやって呼ばれるんだ。 そして、僕たちが排除するんだ」
俺は、ドアノブに手をかけて、回す。
ここまでは、通常と変わらず、難なく行うことができるんだが、そこからが違った。
どうやっても、そのドアが開かない。
まるで固定されているように。
「どういうことだ」
「無理だよ。 許可されてないから」
「許可って?」
「ガブリエルに会ってきたんだろ? あの人のスキルで、完全に支配されているのさ。 僕たちは」
「……そうか。 それで」
「あまり絶望してなさそうだね」
「そうみえるか?」
「うん。 心なしか、笑ってみえる」
「ふーん。 お前、表情を読み取る力はすごいな」
そう言って、俺は座り込んだ。
そして、わざとらしく、笑顔を作る。
「それは、どうして笑えるんだい?」
「2人も、頼れる人が残されてるからな」
俺は、そこに寝込んで、楽にしていった。




