最初の街で女に囲まれる
車といえど、質は悪いようでやけに揺れている。
それは、車というより、もはや船の縦揺れである。
三半規管が弱いものにはたまらないだろう。
俺は、スキルで誤魔化しているが、健常者でも今すぐ吐き出すだろう。
密かに、平気そうな顔で運転しているエドに嫉妬してしまう。
「まーだかかりそうかね」
「しばらく長旅になりますよ」
俺は地図を開いて、今後の経路を確認する。
街や山を越えていき、たどり着いた先が目的地。
本当に長い旅になりそうだ。
「なぁ、お前がガブリエルに会いたい理由ってなんだよ」
「え……そんなの、どうでもいいじゃないか」
「そうだな」
「えぇー。 聞くのをやめるのか」
「だってどうでもいいし」
「どうでもって」
道を走っていると、ゆっくりと車が減速していった。
また、限界がやってきたのだろう。
「あー。 どうする?」
「また、何処かで落ちてるやつ探しますか」
ここは、北国でも最果てである。
ジャンクが道に落ちていて、特に、何度か車がそのまま落ちているのを見つけている。
「次の街まであと少しだろ」
「の、ようだけど」
「しょうがねえなあ。 ほら、背中に掴まれ」
俺は、上着を脱いだあと、少しかがんで掴まりやすい体制をとる。
それをエドは、警戒したかのように腕を構えた。
「え、どうするんですか?」
「乗ってみればわかる」
「怖いんですけど」
「置いてくぞ?」
俺の言葉に、エドは観念をした。
背中に仰々しく捕まる。
そして、俺は立ち上がり、足に力を込める。
「ほら、着とけ」
そう言って、俺は上着を背にいるエドの上に掛けて、腰や脇の下あたりで縛る。
「で、どうするつもりで」
「喋んな。 舌噛むぞ」
俺は、走り出した。
その速度は、地上最速のターターを超える。
景色が勢いよく変わっていく、その様はまさにコマ送り。
先の戦いと下着泥棒で鍛え上げられたこの脚力は本物と言わざるを得ない。
「うっ、うわぁぁああああー!!」
「サイッコーだろっ」
シリュウは、およそ30キロメートルを15分でたどり着きました。
さて、どのくらい筋肉に負荷がかかったでしょう。
答えは、全くかかってない。
これがスキルの力なのです。
「……おい。 これはどういうことだ」
「ちょっと、隠れてくださいよ」
エドは、裾を引っ張って、裏路地まで連れて行く。
エドに俺の巨体を動かすだけの力はないが、俺がエドに合わせて動いてやった。
「女しかいないな。 男はみんな引きこもりか?」
「いや、男はみんな奴隷にされてるんだよ。 だから、街では男ってだけで目立つんだ」
「ふうん。 そう、女しかいないのはたまらないけど……」
俺は、エドから上着を奪って、肩にかけた。
エドが一瞬、寒そうにしたため、肩を持って自分に引き寄せる。
「えっと、どうするの?」
「手始めに、この街から奪ってやるか」
俺の中の罪が動き始めた。
無論、ただ目立ちたいから、派手な動きをするわけではないがり
「ちょっと、余計な動きはやめようよ」
「また捕まるからか? 安心しろよ。 お前は怖がりでいかん」
「そんなー」
俺たちは、大通りを歩きながら、街を見て回る。
金がない、服がボロい、そして男。
北国では、いやでも目立つ三点セットだろう。
すぐに囲まれて終わり……そう思っていたのだが、違った。
「ねぇー。 君たち、男だよね」
女たちが群がってきたのだ。
まるで、男なんて初めて見たと言わんばかりの態度。
警戒され、囲まれて、捕まえに来ると思っていたそいつらは、なぜか俺たちをちやほやしてきた。
「あぁ、文無しでな。 服と、暖かい飯が欲しいんだけど」
「いいわよ。 奢ったげる。 そのかわり……」
「その代わり?」
「奴隷がうちにも欲しかったのよね」
騒ぎにするのは簡単だった。
やはり、ここでは男が歩いているだけで、この大騒ぎだ。
「とりあえず、飯を奢れよ。 そしたら、こいつをくれてやるから」
「えぇー。 ちょっと、本気じゃないよね」
「さて……な」
エドが、驚いた顔でこちらを見る。
恐怖。
これからされることを無駄に想像して、震え上がっている。
「いいわよ。 で、君はどうしたら奴隷になってくれるの?」
「んー。 服が欲しいな。 後は、暖かい風呂か」
そう言い終えると、遠くから気になる言葉が聞こえている。
「ねぇ、この人たち効いてなくない」
「大丈夫。 もう呼んだから」
何かが来ることを確信した俺は、それを待ち構えることにした。
おそらく、捕らえに来るのだろう、エドをどうするか。
「エド、聞け」
小声で話しかけた。
「なっなに?」
「作戦名、死なば諸共だ」
そういうと、空から何枚も羽根がおちてくる。
俺たちは、後から来た、白い翼を持つものに、捕まった。
空から、ゆっくりと降り立って、俺たちの肩に触れる。
それだけで、思考が鈍り、何もできなくなる。
ーーようだったので、俺は無抵抗で受け入れた。
エドは、抵抗していたようだが、そちらも捕まって連れられて行く。
この動きが、俺たちにとってうまく行くかどうか、祈りながらゴトゴトしていった。




