エピローグ
「ここは?」
俺の声は、やけに響いた。
どこまでも続く反響に耳が慣れた頃に、ようやくそいつは現れる。
「夢の始まりだ。 いずれ現実になる夢のな」
アセディアが不敵に笑い、呟くように答えた。
その姿はやけに大きい。
笑いに合わせて、肩が震えるのがわかる。
「おまえ、ジジイのくせに無駄にポエミーだな。 正直気持ち悪い」
「なんだと」
怒らせたのか、アセディアの体はどんどん大きさを増していく。
まるでどこかの時限爆弾のように。
限界を超えた風船のように、それは最後に爆発するのだろうか。
「きさま、幼稚なっ」
「やーいバーカバーカ」
爆発したのは堪忍袋のようだった。
極限の大きさの腕を俺に向かって振り下ろす。
空間を作るスキルを持つくせに、閉じ込めた後することが物理攻撃なのはいただけない。
「死ねぃ!!」
すごく大きな声で叫びながら、その腕は俺は向かってくる。
それを見て最初に思い浮かべたのはプリウスだった。
音もなく高速で近づいてくるそれは、並の人間ならひとたまりもないだろう。
だが、俺は違う。
左手1つで受け止めると、それを赤い何かが包んでいく。
そして、それは、音もなく嵐のように消え去った。
「ふっふっふ。 雑魚がっ!!」
「……おまえ、唐突に性格が変わったな」
2人の弾ける思いは、両者を冷静にさせた。
「で、俺が何したって?」
「お前が取り込んだそれは、俺の計画に必要だったんだよ」
「ふーん。 俺の計画ねえ」
「なんだよ」
「俺たちのだろ?」
俺は、アセディアの細かな表情の変化を見逃さない。
まゆが少し上がり、一瞬、目が上を向く。
口角は上がり、汗をかいた。
そして、それをごまかそうとすぐに表情を力ませたことが、何よりの証拠だ。
ーー奴は嘘をついている。
「なんのことだ」
「お前は嘘をついている」
「……何を根拠に」
「1つ挙げるなら、あの夢とか言う世界だ」
俺は、まっすぐアセディアを見上げる。
「夢がどうした」
「あの世界を作る力がお前にあるとは思えん」
「だから、他からその力をもらったと? 馬鹿馬鹿しい」
「いいや、言い方が悪かったようだな。 お前だけにあるとは思えん……だ」
その時、稲妻が走って通り過ぎていく。
2人の距離が縮まる。
アセディアが握りこぶしを開いて、拍手をした。
パチパチと言う音がやはり響く。
「バカになった代わりに賢くなったな」
「誰がバカだよ。 バカって言った奴がバカなんだよ」
「そういうところだよ。 まぁ、答え合わせをしてやろう」
「いらね。 どうせ4勢力に1人ずつ協力者がいるんだろ?」
俺は指を立てて口元に当てる。
シャーラップ。
意味は、黙れだ。
「お前、2週目か?」
「いいや、ただの勘だよ」
大げさにアセディアが驚く。
大きく手を上にあげて、口から何かを飛ばしながら目を見開いてる。
「そうか、なら、仲間に入らないか?」
「ならってなんだよ」
「わかってるんだろ。 俺たちの目的が」
「夢を現実にする……だろ」
「そうだ。 あの世界を取り戻すんだ」
取り戻すとはどういうことか。
普通に考えれば取り戻すということだから、昔は普通にあったものという事。
そして、あの世界で見た光景。
描写していないが、イラの力を受け継いだ後に、一瞬目に移ったあの龍は……
「過去か。 あのせかいは」
「そうだ。 かつて、まだ蟲と龍が争っていた頃の世界だ」
蟲と龍だと。
意味がわからん。
どういうことか聞くのも、なんかはばかれるし、だってこいつ知ってて当たり前みたいな感じじゃん。
「ふうん。 やはりか」
こういう時は適当にいうに限る。
「まぁ、お前は利用価値がありそうだ。 生かしておいてやる」
「声震えてんじゃねえか。 俺様の方が強いってわかってんだろ」
「はっ、さてな。 さて帰るか」
「ん。 みんなは?」
「もう戻っている」
闇が晴れていく。
そこは見慣れた光景だと気がつくのには時間がかかる。
最後に聞こえた言葉は、これからの俺の指標となった。
ーー4賢人を求めよ。
俺は一度瞬きをすると、周りにはみんなが待っていた。




