処刑をするのは大変そうだ
「処刑の現場にご一緒とは、なかなか珍しいですね。 アーサー王」
「僕がここに来るのが意外ですか?」
「いやはや、襲われたとは聞いてましたが、なかなかタフなお方だ。 それに、逃げた囚人を取り戻すとは」
「いえ……あ、始まりますよ」
俺の処刑が始まる。
十字の形の木にくくりつけられ、俺へ向けて火がかけられた。
スキルの効果で辛くはない、俺はアルに向けて視線を飛ばす。
「心なしか、効果がないように思えますね」
「ふむ。 確かにその通りですな。 どれ……私が」
ランスロットがアーサーを見下す。
その剣を手に、こちらは近づいてくる。
「今は危険ですよ」
「私なら問題ない……こいつに効いていないようだしね」
処刑人の忠告を無視して彼はこちらへやってきた。
剣が抜かれて闇が溜る。
その剣をこちらへ向けてくる。
「炎は効かないようだね。 だが、君はここで死なねばならん」
俺は、無言でランスロットを見る。
その闇に反応してか、先刻、レプリカを握った左手が痛む。
「無視か……まぁいいがね。 君に1つ聞きたいんだが、アーサー王は何故生きているのかな。 死んでいるはずなんだけど」
嘘だ。 俺はそう直感した。
アルはあの集団を簡単に倒した。
レオンにしても、確かに強くなっていたが、アルを倒すほどじゃない。
暗殺の計画は、おそらくまだ続いている。
「俺が守ったんだ。 恩を売り信頼を得るためにな」
「なるほどな。 私の計画は失敗したというわけか。 だが、なら何故君は処刑されようとする?」
「自分の頭で考えろよ失敗野郎」
ランスロットの剣が振り上がり、俺の頭上へと上がる。
こいつは殺す気だ。
俺を殺すと剣で叫んでいる。
「君が死ぬのは、想定しているのかな。 アーサーは」
「していないだろうよ。 だから、殺さないで」
「ダメだね……なぁ、君の処刑はやけに人気だと思わないか」
辺りを見渡すと観衆が多い。
炎であとはかき消されるが、おそらく殺せと叫んでいるんだろう。
「本当に大人気だ。 死ぬ前に人気者になれてよかったよ」
観衆の目は醜くうつる。
人が死ぬのを今か今かと待つものの目はとても汚らしい。
「バカかい君は。 こんなに急な処刑に人が集まるわけないじゃないか」
「……どういう意味だ?」
ランスロットが不敵に笑う。
その剣先は笑いとともに大きく震える。
「僕の私兵は多くてね。 そう、ちょうどこの観衆と同じくらいの数だ」
「お前、まさか」
「僕の私兵の中心に、アーサーが……偽りの王がいる。 私は、王に返り咲くチャンスだと思うんだが……どうかね」
俺は、その真意に気がつくと同時に叫んだ。
「アルトリアっ!!」
「バカだな。 そんなに叫んだって届きやしないよ。 私がこの剣を降ろすのが合図なんだ。 君にも新たな王の誕生を見届けて欲しい」
その剣は、俺に当たることなく地へ降りて、クーデターの音をあげる。
炎の勢いはさらに上がって、黒い炎とともに狼煙を上げた。
観衆は、アルへ向かっていく。
黒く輝く刃物を持って。
「新たな王って、お前のことか?」
「うん、そうだけど」
「炎が上がって声が通らないな」
「ふふっ、そうだろう。 我ながら完璧な策だ」
「確かにそうだな、看破されていることを除けば」
「……なんだって?」
「見ていろよ」
アルは、剣を抜いて、波紋を放つ。
襲いかかるものたちを、打ち倒した。
「気がついていたのか……」
「当然だろ」
「あぁ、当然だろう……私も気がついていたよ」
「なっ……なにぃ?」
「民を攻撃する王か、いい絵がとれたよ」
ランスロットが指差すは、カメラを構えた女が1人。
こんな世界にもカメラはあるのか、それを思う暇もない。
彼女は映像を捉えた後に、空を飛びながら去っていく。
「やってくれたな……」
「力によるクーデターなど民衆は納得すまい。 だが、これで条件は揃った」
空から落ちてくるカメラを手に取る。
俺の拘束はすでに解かれている。
「これがあればお前の勝ちか」
「そうだよ。 その映像さえあれば……なに?」
俺は空にいるルクスに手を振った。
今回の立役者は彼女だな。
「俺にも仲間がいるんでな。 協力させてもらったんだよ」
「空を飛ぶスキルは珍しい。 あれは、色欲か」
「へぇ、知ってるんだな」
「7大罪を手に入れていい気になっているようだな。 しかしこれで私の負けか」
「裏切り者にはどういう罰が待っているんだろうな」
ランスロットは、手をあげる。
その先に暗い穴が開いた。
「7大罪の力を手に入れたのはなにも君だけじゃない。 作戦は失敗したときのことも考えるものなのだよ」
その穴へ向かって彼は消えていく。
俺は、間に合わず逃してしまった。
「……やれやれ、 7大罪の力ね。 本当の協力者は奴なのか」
俺は、安息の時などないことを悟った。
これから大きな戦いが待っていることを覚悟した。
アルが俺へ近づいてくる。
「大丈夫だったかシリュウ」
「逃してしまったがな」
「いい。 しかし本当に裏切ったか」
「ん、なんだこの手は」
頬に手を当てられている。
その手は冷たくひんやりしていた。
「……いや、無意識でな」
「なら、さっさと離してくれ」
手が離れるのに名残惜しさを感じながら、今は、温泉へと向かっていく。
左手に痣が見つかったのは、温泉でのことだ。




