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バーサス イラ

「立ち話もなんだ。 座れよ」


 イラの放つプレッシャーは、今までに受けたものの比ではなかった。

 その証拠に、手先は震え、汗を滲ませる。


「なんだよ。 座れって地面にか?」


 洞窟の奥だ。 当然椅子なんてない。

 こいつはなんのつもりでそう言ったのか、それは次の瞬間にわかる。


「跪けってことだよ馬鹿野郎」


 俺は、地面に身体を叩きつけられた。

 イラはその場から動いていない。

 何かされたのはわかるが……何をされたのかわからない。


「流石に、最強は違うな」


 俺がそう言ったら、イラは更に怒りをあらわにした。


「最強? 最強だとっ!! ふざけるな、クソガキが」


 俺の身体が宙に浮き、何度も地面に叩きつけられる。

 俺の言葉の何が気に入らないのか分からないが、どうやら沸点が低いらしいのはよくわかった。


「クソガキだと? 手前こそクソジジイじゃねえか」


 そして、こいつのそばにいると、何故か俺までイライラしてくる。

 俺は身体を燃やして、熱浮遊によりイラの支配を逃れた。

 これで逃げられるということはつまり。


「ふん。 気がついたか……」


「お前のスキルの正体は重力だな」


 対象にかかる重力方向および力の強さを操る。

 この手の対象を取るスキルは大抵、対象に取るための条件がある。

 フェローなら、無生物であること、アセディアの場合はマーキングが必要であるように。


「わかったところで、お前が浮くのならば、天井に叩きつけるまで」


 言葉の通り、俺の身体が更に浮き出す。

 その瞬間に、俺は体温を落とし対抗する。

 が、俺はなぜか、地面に全身でキスをしている。

 最大の愛情表現を、今なぜ行なっているのか、理解するのに時間がかかった。

 そのため、敵から、解説が入ってしまう。


「読めていたわ。 貴様の下降に重力方向を合わせてやるぐらい容易いぞ」


「ははーん。 やってくれるねえ」


 ここまで、不自然なところは一切なかった。

 俺の重力を操る条件はなんだ。


「余裕だな、最後まで勝負の結果は分からんか?」


「言いたいことを言ってくれるなよ。 まぁ、結果は分かりきってるんだけどな」


 俺は、この部屋の全域を凍らせる。

 全方位攻撃で、かつ俺の周りに壁を作ることで重力攻撃を無効化した。

 この勝負、俺の勝ちだ。

 と、思われた。


「甘いわ!!」


 氷が砕かれる。

 俺にかかる重力を筋肉で耐えながら俺はすでに打っていた一手を差し込む。


「お互い様だろ!!」


 炎に部屋が包まれる。

 絶対零度も、火炎車も、したくなかった理由があったが、やむを得ない。

 この男にはそれだけの手を打つだけの価値があると判断した。


「この程度の炎で……これは」


 酸素が過剰に薄くなる。

 当然だ、こんなところで炎を炊けばこうもなる。

 完全燃焼を無理やりさせたから、一酸化炭素中毒こそ免れたが、これだけ酸素濃度が低ければ脳に障害をきたす。

 我慢比べ、どちらが先に根を上げるかの戦い。


「くっ、やってくれる」


「どうした? かかってこないのか?」


 この状況、お互いに深海で戦っているようなものだ。

 お互いの放つプレッシャーは、もろに圧となりお互いに襲いかかる。

 そして、この無酸素状態では、チアノーゼになるのは避けられないだろう。


 ーーお前だけはなっっっ。


 俺の能力、バイタルサインは、元々は自分の体調を整える能力。

 酸素濃度だって魔力でチョチョイのチョイだ。

 奴を追い詰めるために苦しそうな顔をしてやるが、このままでは俺の勝ちは確定だ。


「妙だ……な」


 イラは、何かを考えている。

 脳に酸素が行き渡らないこの状況で思考を止めないのは流石といわざるを得ない。

 そして、イラは結論に達したのか、急に洞窟の天井に俺の体を叩きつけ始めた。


「お前、まだこんか余力を残していたのか?」


「残して……などいなかったさ。 だが、お前に勝つためになら、限界など超えてやる」


 俺の身体は、傷つくこともダメージを負うこともなかったが、天井の方はそうはいかない。

 穴が空き、光が立ち込め、それと同時に酸素が供給された。


「クソジジィ。 やってくれる」


「ふぅ、新鮮な空気が気持ちいいな。 そして、チェックメイトかな?」


「ふん。 それはどっちのキングのつもりだ?」


 ほとんど酸素の無い中で俺の残した火種が、急激に酸素が取り込まれることで瞬時に大きくなっていく。

 それは、爆発だ。

 洞窟という逃げ場の無い中で、イラはその爆発をもろに受ける。


「やったか!!」


 俺は、この時何も意識していなかった。

 そのセリフを吐くときは、大抵やっていないということに気がつくはずもない。


「はぁ、はぁ」


 爆煙のなかから、イラが現れる。

 黒焦げこそ付いているものの、ほとんど無傷だ。


「お前、バケモノかよ」


「シリュウ、貴様とそう変わらない。 だが、俺は追い詰められる。 発想のスケールの差だな。 お前の方が格が上らしい」


 意外なことに、それは素直な賛美だった。

 イラのそれは、今にも拍手でもしそうな表情だ。


「それで、負けを認めるのか?」


「そんなわけがないだろう。 たとえ、それが困難な道だろうとも、俺はその道を引き返すことはしない」


「立派だな。 なら、俺がその道の壁としてお前に立ち塞がってやるよ。 お前が行く道の先に、不幸になる奴がいるのだからな!!」


「ふん、行くぞシリュウ!!」


「手加減はしない。 全力でこい、イラっ!!!」


 俺とイラの拳がぶつかり、弾ける。

 その時、爆発が起こる。

 その爆発により、ダメージを負うのはイラ。

 その爆発を起こしたのは、俺だった。

 高温を作り、周囲の気体を熱し、鼓動で弾けさせる。

 それだけで、十分な威力の爆発が起こせる。


「やるな。 だが、再び貴様にマーキングが施されたぞ」


 イラは、腕を一つ失いながらも、俺の体を宙に浮かせることに成功した。

 俺の体をがだんだん地面との距離を離していく。

 有効距離が分からないが、俺を地面に叩きつけるつもりだろうか、それとも。


「まさか……俺を大気圏の果てまでうち飛ばすつもりか?」


「俺にとって邪魔なものは、この世界から追い出してやろう。 知っているか? 宇宙は空にある」


 俺は、手を上にあげ、それを振り下ろす。

 順に空気が凍っていき、地面に到達する。

 そして、俺は逆の手を空に向けて、ブースターのように炎を放射した。

 だんだんと、俺は地面に戻っていく。


「化け物め。 お前は、頭脳でも、魔力でも俺の上を行くのか」


「化け物か。 そんな悲しいこと言うなよ。 同じ人間だろ?」


「同じなものか。 そんな力を知力を与えられた、お前のように恵まれた人間がいるか……そんな不公平なことがあるかっ!!」


「与えられたものを使うのが不公平か。 とんでもない甘ちゃんだな。 悪いが、俺は弱い。 だから、俺が持つ力は遠慮なく使わせてもらう。 お前らが、俺と同じだけ強く生まれなかったのが悪いんだよ」


「……ふん。 やはり、腹立たしい。 だが、間に合ったようで何よりだ」


 俺が、イラの元へ到達し、その首を飛ばそうとしたその瞬間、イラの身体が消えてなくなる。

 この感じは、アセディアに近い。

 だが、彼は死んだはずだろう。

 俺は、一つの仮説にたどり着いた。


「アセディアの能力を……なるほど、悪魔道具か」


 悪魔道具を使えば、前任者の能力を使えるかどうかは知らない。

 だが、俺にはそう思うのが自然な状況だった。

 アセディアが、嘘をついていたとは思えない。

 つまり、奴が、7大罪、全ての能力を手に入れてしまう可能性がある。

 残る、七大罪は、嫉妬の罪。

 アセディアの言っていたことを思い出せば、嫉妬は反逆を始めたとのことだったな。

 つまり、いま、嫉妬を助ければ、イラを倒すことが出来る。

 そして、その結論に達した俺がまず呟くことは、こうだ。


「--ここは、どこだ?」


 そのセリフは、当然のことであると同時に、冷静になった証拠であった。

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