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S級クエストで奴らを見返せ!!

 ギルドは基本、本部を持つ。

 俺が新たに所属したオールドアルバムも例外ではない。

 だが、それはボロかった。

 かろうじて家の形をしているが、いつ崩れてもおかしくはないだろう。


「へ、へぇ。 なかなか趣きがあるな」


「素直にボロいって言ってもいいですよ」


「いや、言わねえけど……とりあえずギルドメンバーに挨拶をしたいんだが」


「え? いませんよ」


「あぁ、クエストに出かけてるのか。 いつ頃戻るんだ?」


「だから、いませんって、現状ギルドメンバーはあなただけです」


「……はぁ!?」


「だから言ったでしょう。 弱小ギルドだって」


「いや、それにしたって……まぁいい。 俺がでかくしてやればいいんだ」


「おおっ!! さすがです、そのいきです!!」


「仕方ない。 とりあえず、クエストボードは……なんにも無いじゃねえか」


「あなたの目は節穴ですか? シリュウの目の前にあるものはなんだと言うのですか」


「違えよ!! クエストボードにクエストが貼ってねぇって言ってんだ」


「当然でしょう。 ギルメン0のギルドにクエストを回す酔狂な輩がどこにいるものですか」


「じゃあ俺仕事ないよな? ギルドをでかくしようがないよな!?」


「仕方ないですねー。 待っていてください。 仕事を取ってきますー」


 そう言って、彼女は意気揚々と出て行った。

 こんな信用も何もないギルドにクエストが回ってくるとは思えないが……前途多難だな。

 そう思いながら、俺は椅子へ腰掛ける。

 死にかけの昆虫のようにギシギシと鳴くそれは修理の必要があると判断するには遅すぎるほど弱っている。

 しばらくは、大変な暮らしが待ってそうだな。

 俺はそう思いながらため息をついた。


 俺が本部を掃除していると、アイが帰ってくる。

 彼女は、装飾の施された紙をクエストボードに叩きつけ、俺に指示した。


「いまから所定の場所へ行って魔物を討伐してきなさい!!」


「ん……おいてめぇ。 Sランククエストじゃねえか。 これじゃあ俺は」


 クエストには、ランクがある。

 基本的に冒険者に与えられたランク以上のランクを持つクエストは受注できないこととなっている。


「違うの、あなたにも出来るのよ」


 しかし、例外もある。

 このクエストは、緊急クエストであり低ランクのものでも受注可能だ。

 受注自体は……だが。


「俺を殺す気か? Sランクなんて、この世界に何人いるレベルなのにそんなクエストを受けれるか」


「あなた……言ったわよね? このギルドを大きくするって。 緊急クエストでも持ってこない限り、うちにはクエストが入ってくることはないわ」


「そりゃ、そうだろうが。 物には限度があるだろう」


「でも、このクエストをクリアできたら、きっとうちにもたくさんの冒険者がやってくるわよ。 大丈夫。 あなたなら出来るわ」


 俺は手を握られ、そう頼まれた。

 女性免疫がないためか、顔が熱くなる。


「……ちっ。 分かったよ」


「分かってくれたの? じゃあ、お願いね」


「やってみるだけだぞ。 出来るか分からないからな」


「うん。 期待してるわね」


 そうやって俺は、うまく乗せられてクエストの目的地へやってきた。

 そこは、砂漠帯で数々の冒険者が集まっていた、


「おい、あれS級冒険者のメンレイじゃないか?」


 どこかからそんな声が聞こえた。

 多数のギルドが同時に参加できるクエストには、各ギルドの貢献度を公平に測るため、監視員が国から派遣される。

 その派遣員は、クエストに応じたランクを持っていなければならない。

 つまり、Sランクの人が来るわけだが、メンレイはその可愛らしい美貌と確かな実力からファンを大勢抱えている。

 そんなアイドルに会えたのはせめてものラッキーと思っておこう。


 俺たちが進んでいくと、遠目からでも今回のターゲットが見えた。

 デザートタイラント。

 砂漠を移動する巨人。

 基本的に非好戦的だが、移動ルートに街や村が被り滅ぼされるという話がよく聞かれる。

 今回は、この国がそうなったということだろう。


 クエストの目的は撃退。

 この進行ルートは害があると思わせるだけのダメージを与えればいいという話だが。


「デカすぎる」


 そう、どこかで聞こえた通りである。

 大きさだけで、俺たちを絶望させる。

 東京ドームでも例えることができるのか、それが俺たちへ向かってくるというのだから、戦意を失う者が出てきても不思議ではなかった。


 ふと、メンレイががっかりした顔でため息をついたのが見えた。

 そして、それを見逃していないのは俺だけではなかったようだ。


「ちっ、腰抜けどもが。 メンレイさん俺たちは行きますよ」


 今ではもう見たくもない奴ら。

 かつてのギルドでのパーティメンバーだった。

 俺の代わりのメンバーも参戦しているようで、ギルド最強の面子が揃っているんだろう。

 そいつらがそう言うと、そのままタイラントへ向かって行った。


 他の奴らは……ダメか。

 完全に戦意を喪失している。

 仕方がない。 俺だけでもいくか。

 そう思って足を踏み出すと、制止がかかる。


「ちょっと待ちなさい。 あなた、パーティメンバーを置いて行くつもり?」


 メンレイからであった。

 彼女は顔だけではなく、声まで可愛らしいようだ。


「大丈夫ですよ。 パーティはおろか、ギルドには俺1人しかいないんで」


「え? ちょっと待ちなさい。 そんな自殺行為させるわけにはいかないわよ」


「自殺行為ですか?」


「えぇ。 その通りよ」


「なら、安心しました。 俺、自殺じゃ死なないんで」


 そう言って俺はそのままデザートタイラントへ向かっていく。

 先に戦闘を始めていたクラウンパーティに嫌でも遭遇してしまった。


「なんだ? 役立たずがこんなところに何の用だよ」


「……よそ見してると危ないぞ」


「はぁ? てめえ、俺たちをなんだと思ってるんだよ」


「悪かったな。 だが、俺もクエストで来てるんでな。 お互いに邪魔はなしにしよう」


「指図するな!! お前なんているだけ邪魔なんだよ」


「そう言われてもなぁ」


 そう言い合っていると、剣士の男がタイラントに突き飛ばされる。

 大きな傷を負ったようで、呻きながら血を流していた。


「ヒールを頼む」


「今すぐっ!!」


 ヒーラーが、すぐさま回復魔法をかけるが、一向に傷が治る気配を感じない。


「どうした? 早く治してくれよ」


「あれ……あれ? なんで、なんでよぉ」


 トラブルか、回復がうまくできないようだ。

 もう、俺には関係ないことだが。

 とりあえず、タイラントを止める方法を考えなければ。


「くっそ。 なんでだよ。 死にたくねえよお」


「ごめんなさい。 ごめんなさい」


「おい、回復をやめるなよ!! 俺は死にたくないんだよぉ」


「ごめんなさいっ!!」


 後ろで、そんなやりとりをされると気が散る。

 仕方がないから、救ってやろう。

 これはツンデレでもなんでもなく、人を見殺しにしたくないという良心からくるものだ。

 どんなに嫌いな奴でもそいつに目の前で死なれるのは嫌なものだ。


「なんだ……てめぇ」


「ちょっと黙ってろ」


 俺は、スキル 「バイタルサイン」 を使って、脈拍と体温を上昇させる。

 それにより、異常に高まった自然治癒力は、すぐさま剣士の身体を修復した。


「え? 身体が……なんともない」


「はぁ。 ちょっとやりたいことがあるんだ。 お前ら全員下がってろ」


「え、でも。 いや、お前何を?」


「下がってないと、死ぬぞ!!」


「くっ、分かったよ。 お前ら、撤退だ」


 クラウンパーティは全員、後方へ避難していった。

 周囲に人の気配はない。

 とりあえず、思う存分力を解放できる。

 俺がこのスキルで気がついたことは、このスキルの直接の影響で、人が死ぬことはないということだ。

 自殺の時しかり、先ほどの治療の時しかり。

 治療の際は、人が耐えきれないほどの体温と脈拍を再現したが、奴は苦しむ素ぶりさえ見せなかったり


「つまり、これ大丈夫だと思うけどなぁ」


 あーあ、死んだら嫌だなぁ。

 俺は、ついさっきまで自殺しようとしていたことをすっかり忘れ、生きることを選んでいた。

 だからこそ、命がけというものが恐ろしい。

 だが、命をかける価値がある。

 俺は、もしかしたら国を救えるかもしれないその可能性に命をかけた。


 俺の体温を上げることができるなら、下がることもできるはずだ。

 今度は、俺の体温を下げていく。

 砂漠というのに、周囲がどんどん冷えていく。

 目指す温度は0ケルビン。

 つまりは絶対零度だ。


「お前の動きを止めるには、こうするしかないよな。 とまれっっっ!!!!」


 俺は、一気に魔力を解き放ち、体温を下げていく。

 そして、絶対零度に到達した時、周囲の空気ごと、タイラントが凍りついた。

 頭が冷えたため、ここから派生技を1つ思いついた。

 俺のスキルで操れるものはまだある。

 血圧と脈拍。

 圧倒的な血圧で、鼓動を伝え、周囲を震わせて氷を砕く。

 それにより、俺の身体が砕けることなく動けるようになった。

 そして、タイラントの身体が崩れ去っていく。


「よしっ。 クエストクリアだ」


 俺がタイラントの前で立ち尽くしていると、クラウンパーティのみんなとメンレイが寄ってくる。

 その表情に安堵や歓喜はなく、ただ驚愕をしている。


「おい。 お前、何者なんだよ」


「ん? 何年か同じギルドにいてそんなことも知らなかったのか?」


「こんな化け物みたいなやつ知らねえよ。 それに」


「それに?」


「俺たちの治療をしてたの。 お前だろ? あの時気がついたよ。 あいつ、全然回復できねえの」


 剣士は切れた指先を俺に差し出す。

 この切れ口は、おそらく自分でつけたものだろう。

 俺は、それを治療してやる。

 大した切れ口でもないのですぐになってしまった。


「やっぱりな……悪かったな。 お前がこんなに強いとは思わなかった。 お前がよければ戻ってこないか? ちょうど、枠が1つ空いたんだ」


「……そうやって、簡単に辞めさせるんだな。 悪いが、俺はもう新しいギルドに所属したんだ。 戻ったりできないよ」


「そう……か。 くそ。 惜しい奴を失ったな」


「すまんな」


「いや、謝るのはこっちだよ。 ぞんざいな扱いをしてすまなかった」


「……いいよ。 許してやる」


「ありがとう。 じゃあ、またいつかあったら助けてくれよ?」


「バカ。 お前こそ、俺を助けろよ」


「お前を助けることができる奴なんてこの世にいないだろ」


 その言葉にみんなで笑った後、クラウンの奴らは帰っていった。

 そして、残されたメンレイは、俺に話しかけてくる。


「あなた、何者?」


「オールドアルバム所属のシリュウと申します。 お見知り置きを」


「……あなたやるわね。 気に入ったわ」


 彼女はそういって頬に唇を当ててくる。


「え? なにを」


「ご褒美よ。 デザートタイラント討伐なんて、国では報酬を支払い切れないもの。 だから、お釣りをこれで払わせてもらったの」


「……そうか。 これとは別に報酬が貰えるんだな?」


「ええ。 実質あなた1人での討伐だから、すごい報酬よ。 ランクも異例の出世をするとみて間違いないわ」


「そりゃ助かる。 貧乏所帯も解決だな」


「そう。 それは良かったわね。 じゃあ、私は後片付けがあるから行きなさい」


「……お前はなんかないの?」


「なんかって?」


「いや、化け物!! とか」


「残念ながら、世界トップの力をこの目で見てるもの、もう驚かないわ」


「そいつは俺よりすごいのか?」


「さあ? そういう力じゃないしね。 比べようがないかな」


「……そうか。 また、話を聞かせてくれ」


「ええ分かったわ。 バイバイ」


 俺は、そうして砂漠を後にした。

 ギルドへ戻ると報告をすませる。


「え? 討伐って、みんなで撃退できれば奇跡のあれを?」


「そう、一人で討伐したんだ」


「……あなたって化け物なの?」


「道行く人に言われたが、そんなに言われりゃ傷つくぜ?」


「だってあなたが化け物なんだもの」


 そんなこんなで、俺のここでの初クエストは成功を収めた。

 それにより、自分の目的へとかなり進んだのは言うまでもない。

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