7大罪との戦い
「ーーというわけで、怠惰の討伐を行いたい」
「理由はわかったわ。 でも、今すぐには不可能よ」
「どうしてだ?」
「そもそも、あなたはどうやってそれを行うつもりだったの?」
「そんなもん、敵の国に乗り込んで、千切っては投げを繰り返す」
「バカね。 考えても見なさい。 色欲を含め、あなたは多くの7大罪を仲間にした。 それはどこで?」
「それは、この国の中や、周辺で……」
「そう、あなたが国へ乗り込んでも、そこに怠惰がいるとは限らないのよ」
「なら、探すしかないな」
「一応、捜索クエストを出してみるけど……低く見積もってAランクね。 捜索に出られる冒険者は限られるわ」
「うーん。 一つ、アセディアの元に行ける手段があったとして、行ってもいいか? 他に問題は」
「まぁ、行ける方法があるから、構わないけど」
「わかった。 ちょっと行ってくる」
俺は、立ち上がり、外へ歩く。
メンレイが、止めてくるがあえて無視をする。
そう、あるのだ。 アセディアの元へ行くための方法が。
「シロ、いるか?」
「うん? あぁ、シリュウ。 安心しろ、風邪は引いてない」
「そうか、安心したよ。 なぁ、仮面をアセディアに転送する方法ってどうやるんだ?」
「いきなり何を言うんだ」
「まぁ、事情は聞かずに教えてくれ」
「ふむ。 転送にはマーキングが必要でな、まぁ、このシールを貼るだけでいいのだが」
「これを貼るだけ?」
「そうだ。 後は向こうが勝手にやってくれる。 もちろん、貼られたものが何かは向こうにも伝わるが」
「ふーん。 重さとか、そういうのは?」
「さぁな。 まぁ、うまくいけば、所有している人間ごとかもしれないな」
「気がついてなお教えてくれるのか」
「君なら余裕だろう」
「行ってくる」
「あぁ、ルクスリアなら、例の場所にいたぞ」
「うん、例の場所?」
「あぁ、君が向かおうとしている場所だ」
そう言って、彼女は自分の部屋へ戻っていく。
俺が向かおうとしている場所、ルクスリアと初めて出会った場所へ、俺は向かった。
そこで、ルクスリアは待っていた。
「よお、お前が待っていてくれるなんてな」
「うーん。 迷ってるんだよね。 わたし」
「何の事に?」
「ねぇ、シリュウ。 君は、わたしとギルド、どっちかしか救えないとしたら、どっちを選ぶ?」
「そうだな……ルクスリア、お前を選ぶかな」
「へぇ、即答なんて嬉しいな。 わたしの事がそんなに好きなんだ」
「別に、好きだからじゃない。 お前のことが、他の奴らよりも、信用できてないから救うんだ」
「えっと、どゆこと?」
「ギルドの奴らなら、自分たちで窮地を何とかするだろう? だが、お前は、死を受け入れるかもしれない」
「あははっ、さっすがシリュウ、わかってるね。 じゃあ、わたしがここで待っていた理由もわかってるんだ」
「ああ、傲慢の悪魔道具を7大罪に持ち込んだのは君だろう」
「信用ならない……か。 大正解だね、私がスパイでした」
「だが、一つわからないことがある。 なぜ、ここで待っていた?」
「わたしの最後の命令が、君をおびき出すことだからだよ?」
「ふん。 この場所にか? 冗談はよせ」
「つまんないんだ。 わたし、シリュウのこと好きだよ。 今まであった誰よりも、だから君に殺して欲しいんだ」
「やだね。 そんなロマンチックな人間に俺が見えるか?」
「だよね。 だから、こうするんだよ」
魔力が、高まるのを感じる。
ギスハーンがやったそれと、同じ胸騒ぎ。
俺は、無意識に手を伸ばした。
「ねぇ、はなしてよ」
「話しか? 何が聞きたい」
「違うよ。 手を離して、痛いよ」
なんとか、間に合った。
俺は、ルクスリアの心を乱し、魔力を乱す。
「そりゃ痛いだろ。 生きてるんだから」
「だから、死にたいの」
「なぁ、お前の抱えているものを教えろ。 俺にも背負わせろよ」
「ダメだよ。 あなたには、絶対に嫌」
「なら、この手を離せないな。 いつまでも握ってて欲しいわけだ」
「……ずるいね。 シリュウは」
彼女の頬に、涙がつたる。
「そうか? だが、お前ほどじゃない」
「はぁ、なんでこうなったんだろ。 さっさと裏切りたい闇ギルドは裏切らない。 裏切りたくないあなたを裏切ってしまう。 こんなのやだよ」
「なんで、俺を裏切るのが嫌なんだ?」
「え? だって、好きだから」
「ふーん。 なら、迷惑をかけてみろよ」
「え? そんなの」
「わかるぜ。 好きな人の前で格好つけたいの。 だけど、自然体が一番だと思わないか? 無理をするからボロが出る」
「わたし、あなたに嫌われたくないんだ。 だから、無理させてよ」
「やだね。 お前が嫌だというなら、俺は好きにやらせたもらうぜ?」
「そんなの……」
「そうだ。 今度、デートにでも行こうぜ。 みんなでじゃない。 2人でだ。 いやか?」
ルクスリアの表情が変わる。
「行きたいよ。 わたしは、生きたい」
「よーし。 ほら、色欲の悪魔道具を渡せ、俺を連れて行け」
「うん。 ありがとう」
ルクスリアに指輪を渡される。
ラストの指輪。
それに俺は、マーキングを施す。
「シリュウ、一つ、伝えたいことがあるの」
「ん? なんだ」
「わたし、本当の名前は、ルクス。 ルクスリアに似てるでしょ」
涙を拭いながら、彼女は教えてくれた。
「ふーん。 いい名前だな。 ルクス、帰ったら、何か食わせろよ?」
「……やだよ。 帰ってきて、シリュウが料理するの」
「名前通り、輝かしいまでの、わがまま姫だな」
俺の体が、闇に包まれた。
たどり着いた場所は、洞窟を改造して作られたような部屋。
話には聞いていたが、ダンジョンのようなところだろう。
ダンジョンのいきなりボス部屋ってところか。
「ルクスリアめ。 よくやったな」
周囲のゴミをかき分けて、人が出てくる。
服という服を着ておらず、下半身をギリギリ隠している男。
そいつがジロジロと俺を見てくる。
「なんだよ……」
「貴様がシリュウか? ふん、若いな」
「そういうお前が、アセディアか?」
「いかにも、説明が省けて嬉しいぞ」
「なぜ、俺を待っていた?」
「本当は、インヴィディアを貴様が倒すまで待っていたかったんだ。 だが、彼女は我らに反抗し始めたのでな……急遽予定を変更したということだ」
アセディアによって、俺の持っていた悪魔道具は転送される。
どこへ飛ばされたかはわからない。
だが、いやな予感がする。
「なぁ、俺がお前を倒しに来たというのは分かってるよな?」
「うむ。 我を殺してくれるのだろう?」
「一応聞くが、仲間になるつもりはないか? 俺、7大罪マニアなんだ」
「我が組織を裏切るとでも?」
「だよな。 まぁ、手加減しはしてやるよ」
「必要ない。 貴様がどれだけ手を抜こうとも、結果は変わらない」
俺の身体が、洞窟のてっぺん近くまで転送された。
自由落下をした先には、トゲが敷き詰められている。
俺は、それを凍らせて、受け身をとった。
「やるなぁ。 さすがシリュウ。 聞いていたとおりだ」
「ぬかせっ!!」
奴が俺の身体を転送できるというなら、勝負はつかないだろう。
アセディアは、周囲の物を、俺の上へ転送させて落としてくる。
それを移動しながら、俺はアセディアに接近する。
「ふん。 せめて優しく頼むぞ」
俺が拳を握ると、アセディアはそういった。
そのまま振るうが、転送どころかガードすらしない。
「お前……なんのつもりだ」
「だから言ったではないか。 君と我では実力差がありすぎる。 結果が変わらないのに頑張れるほど、我は勤勉ではないのでな」
「戦うつもりがないなら……なぜ、俺の敵となる」
「殺されに来たのだ。 7大罪はもう終わる。 我の仕事ももう終わった」
俺は、アセディアの肩に手を当てる。
「詳しく話せ。 せめて優しく殺してやるぞ」
「……悪魔が宿る道具を身につけると、多大な魔力が得られるのはもう知ってるな?」
「あぁ、悪魔道具だろう? それがどうした」
「なら、答えは簡単だ。 罪を一人で背負うのだ。 あいつが復讐のために」
「どういう意味だ。 説明しろ」
「ふふふっ。 我も、もう少し真面目なら、嫉妬のように反逆するのも……他の奴らのように、お前にくだるのも、悪くなかったのに」
アセディアに魔力がこもっていく。
「おい……おまえっ!!」
「離れなければ巻き込まれるぞ。 そうだ。 君の仲間に伝えろ。 自分の罪と向き合う必要はない。 そんな真面目な奴、損するだけだと」
アセディアの身体が、霧散した。
俺を気遣ったのか、周囲に影響を与えることなく。
そして、後ろから、拍手をしながらやってくるものが1人いた。
「他の出来損ないと違って、怠惰の割には真面目に働いてくれたな」
「お前が俺を呼び寄せたんだな?」
「あぁ、憤怒のイラだ。 お前と話しがしたくてな」
「いいぜ。 聞いてやるよ」
イラ、7大罪、最強の男。
ここで出会う。




