レオンの策略
対抗戦は、死人が出たことにより中止となった。
死後すぐになら蘇生処置ができる設備がこの国にはあるらしいが、爆発四散した身体を再現することは叶わなかったらしい。
もっとも、器さえかなえば魂を降ろすことは可能らしいが。
「時にシリュウ、苦しいか?」
「苦しい以上に寒いんだが!!」
俺はいま、シロに連れられて滝にうたれている。
滝の主流という大きな大砲を受けると同時に、小さな雫が弾丸となって俺を襲う。
頭頂部と肩に刺激が走るうえ、呼吸がうまく定まらない。
そして何より、体温が奪われていく。
「滝行というのは精神力を鍛えるにいいらしい。 もっと続けるがいい」
「……正直にいえ。 俺が何かしたか?」
「ふむ。 身に覚えがないか。 君の甘さを叩き直してやろうというのだが」
「甘さだと? 俺のどこが甘いんだ」
「ギスハーンを仲間に迎えようとしていただろう?」
「それの何が悪い」
「考えもなしに仲間を増やすものじゃない。 奴が何をしでかすかわからんだろう」
「ギスハーンは悪い奴じゃない」
「そうだろうな。 だから、自殺した。 いいか? 一度裏切った奴は何度でも裏切る……もっとも、私がいえたことじゃないがな」
そう言って、シロが隣に立つ。
同時に滝を打たれ、まれに顔を歪める。
「流石に、効くなあ。 たしかに精神が鍛えられそうだ」
「お前までうたれる必要はないだろう」
「いや、君にだけ滝行を強いるのは不公平だろう?」
「気にするな。 俺がやりたくてやってる」
「なら、私もだ……実はな、傲慢の悪魔道具、あれが盗まれた」
「7大罪か?」
「それなら、いいんだが……一般人があれを見につけてみろ。 悪魔が蘇るぞ」
「すぐに、捜索をしなければな」
「うむ……して、シリュウよ。 さっきはあと1時間ほどうたれろと言ったが」
「うん?」
「あと30分にしよう」
「お前……いいや、きっちり1時間やらせてもらおう」
「そんなぁーー」
悪魔道具を持つものを倒しただけでは、すぐに回収されてしまう。
そして、回収されたそれは、新たな7大罪を形成するか。
なら、回収を断たねばならない。
となると、その方法は。
「さあ、シロ終わったぞ」
「ふぅ、きつかったな。 ん、どこへいく?」
「いい加減、決着をつけにいこう。 7大罪と」
最低でも、アセディアを倒す。
そのために俺たちは動く必要がありそうだ。
「あ、シリュウ。 案内所から見かけたら来るように伝えろと言われてるわよ」
本部へ戻ると、団長がカガリと取っ組み合いながらそう教えてくれた。
知らぬうちに仲直りはできたようだな。
「分かった。 見かけなかったことにしてくれ」
「そうもいかん。 場合によっては、君を捕らえる必要があるし、場合によっては君に頼らねばならんからな」
ギルド内の椅子に、2メートルはゆうに超えているだろう大男が座っていた。
腕を組み、こちらを見下ろす様子は、大樹を思わせる。
「誰ですかあんたは」
「俺か? 俺はな、レオンというものだ」
「レオン……どこかで聞いたことがあるな」
「そうか? そりゃ嬉しいな」
レオンというのは……たしか。
「あぁ、ギスハーンに負けた奴か」
「はっはっ。 その通りだな」
「お前、傷はもういいのか? 殺されかけたと聞いたが」
「こう見えて頑丈なんでね。 それで、ギルド協会からの命令だ。 背けば捕らえる」
「出来るのか?」
「出来ないな。 だが、やらねばならん」
この男の目は、嘘を言っていない。
「分かったよ。 行けばいいんだろ?」
俺はそう言ってレオンに着いていくことにした。
連れられたのは、運営所のさらに奥の部屋だ。
薄暗く、不気味な雰囲気だ。
「さあ、腰掛けてくれ」
「露骨に怪しいんだが……」
「ん? そういうの気にするタイプ?」
「まぁいいけど」
罠でも関係ないし。
そう考え、俺は部屋の中央より少し奥にある椅子に座る。
「座ったな? 始めてくれ」
レオンがそういうと、部屋のいたるところからワイヤーのようなものがこちらに飛んでくる。
いきなりで、反応が遅れ拘束をされてしまう。
「……どういうことだ?」
「悪いが、拘束させてもらう。 君を生かすかどうかは、あとで決めるよ。 とりあえず、君のギルドはボンボンのガキが運営してて……なにこれ」
「何……とは?」
「奴隷上がりと敵しかいないじゃないか。 よくこんなのばかり集めたね」
「あぁー。 お前、嫌なやつか」
「ははっ!! まんまと拘束されたままでよく言えたね」
ワイヤーから、電流が流れる。
一瞬、視界がブラックアウトし、ピリピリとした痛みが身体に残る。
だが、それはすぐにスキルで消す事で対処が聞いた。
「へぇ。 これ、威力を抑えたとはいえ、処刑用の道具だよ? よく声もあげないでいられるね」
「こんなおもちゃで死ぬなんてお前ぐらいだろ」
「そうかもね。 で、交渉の時間だよ」
「あぁ、早くしろ」
「君のギルドメンバー、見捨てろ。 そしたらお前は見逃してやる」
俺は、ワイヤーを伸ばして引きちぎる。
そして、手首をくるくるといじり、完全に拘束具を解いた。
「決裂だ。 お前ら、いまさら許してもらえると思うなよ」
「…………ははっ。 あのさ、一つ聞いてくれないかな?」
「なんだよ」
「参った!!」
「はぁ、がっかりだな」
俺は、手刀をレオンに向けて振る。
それは、空を切りながらレオンの急所に近づく。
そして、それが当たると思われた時、止められた。
「メンレイ……お前も庇うのか」
「このまま殺したら、あなたは犯罪者よ。 ギルドも解体される」
「ははっ。 そうだよ。 それでもいいのかい? シリュウ君」
「別に、悪いのは俺たちじゃないだろう」
「バカか、社会的信用を考えろ。 俺とお前、どっちが信頼されると思うんだーい?」
「……そういうことよ。 シリュウ」
「だったら、こいつを見逃せというのか?」
「違うわ。 こうするのよ」
メンレイが、手を挙げると、そこへ、王直属の兵士が現れる。
「なんの……つもりだね。 メンレイ」
「今のこと、みんなで見させてもらったわ。 あなたのこと、少し憧れていたのだけど」
「まて、早まるな。 こんな悪人たちの集まりと、この俺、どっちが重要だと思う?」
「レオン。 初めて会えた時、嬉しかったけど……さようなら」
手が振り下ろされる。
「くそっ!! ふざけるなっー!!」
レオンの腕が赤く燃える。
そして、それがメンレイに向かって振るわれた。
俺は、その腕を掴み、凍らせる。
「……なぁ、腹が立ってるんだ。 腕ぐらいいいか?」
「うーん。 ダメだけどね……見なかったことにしてあげる」
「メンレイ。 ありがとう。 今許してくれたことと、助けてくれたことについて」
「いいの。 これで、私も新しく進んでいけそうだから」
俺が、腕を砕くと、防音の整ったこの部屋に、断末魔が響いた。
俺は、事情聴取のため、別室に残らされ、他のみんなは、レオンとその部下の処理のため何処へ行ってしまった。




