ギスハーンとの戦い
「なんだよ。 お前らの知り合いか?」
「知り合い……というよりかは有名人だな。 闇での」
シロが言う。
「有名人?」
「あぁ、ギスハーンはマクシミリアンの懐刀だ」
「ふところがたな?」
「とっておきって事ですよ」
フェローの補足が入る。
「なるほど。 それでお前の顔色が悪いわけだ」
「……僕たちはいわば裏切り者ですからね」
みんな、まるで教師に怒られる直前の生徒のように、ばつが悪そうな表情をしている。
恐れをなしているのだろう。
「わかった。 お前ら、棄権しろ」
「えっ?」
「俺が相手してやる」
「それは、シリュウなら相手になるかもしれないが……」
「安心しろよ。 俺は強いから、お前らは俺の強さに甘えてくれ」
「……シリュウ」
少し、顔色が戻ったかもしれないな。
表情が柔らかくなり、肩の力が抜けている。
「さぁ、帰ろう」
俺は、先ほどから冷たさを感じていた。
みんなを先に歩かせて、後方を睨む。
そこには、仮面をつけた男がいる。
そして、そいつは何も言わずに振り返って消えていった。
そして、対抗戦3回戦はやってくる。
「はーい。 今日はルクスリアちゃん、来ちゃったよ」
「……あー、来てもらって悪いんだが」
「うん。 戦うなっていうんでしょ?」
「なんで知ってるんだよ」
「いやあ、あんなの居たらダメだよね。 私、恥ずかしいけどビビっちゃうよ」
「誰から聞いたか知らないが……まぁ、なんとかしてやるから」
「うん。 期待してるよ」
ルクスリアが、俺に手を伸ばす。
それは、耳元へやってきて、頬へ触れた。
「……なんだよ」
「ん? おまじない」
そして、鼻と鼻の先が触れ合った。
「お前……するのかと思ったじゃねえか」
「したかった?」
「いや、別に……」
「素直じゃないなあ。 したかったら、生きて帰ってきてね」
そう言って、彼女は控え室へ歩いて行った。
「……かなわねえな」
スキルで自由なはずの心拍数が、簡単には落ちないまま、三回戦が始まった。
明らかに建物よりも大きなフィールドは、気圧が高いのか俺の身体に重くのしかかる。
気だるい体を無理やり動かしながら、対戦相手を待った。
「お前がシリュウか」
現れたのは、ギスハーンだった。
「残念だったな。 俺だよ」
昨日、俺たちを監視していたもの。
その男と同じ風貌で、俺には見覚えのある仮面をしている。
エンヴィーの仮面だ。
「はて、残念とは」
「しらばっくれるな。 うちの大事な仲間の処刑に来たんだろう?」
「ふむ。 何か勘違いをしているようだな。 この俺が、なぜ、そんなことをしなければならん?」
「知らないな。 どうせ裏切り者を野放しにできないとかじゃないのか?」
「裏切りなど、どうでもいい。 まぁ、悪魔道具については回収させてもらうが、それもアセディアの仕事だからな」
「……なら、お前はなぜここにいる? まさか、天下一を決める武闘会にやってきましたってわけじゃないだろう?」
「俺の目的はお前だよ。 シリュウ、腕の立つ男が仲間をどんどん裏切らせる……どんなものか見てこいとの命令だ」
「……やれやら、見過ごせないのは俺ってことか」
「あぁ、あわよくば捕らえてこいということなのでな、遠慮なくいくぞ」
奴は、構える。
「あぁ、かかってこい。 ギスハーン」
「いや、その名ではなくこう呼んでもらおうか。 アワリティアと」
試合開始のゴングが鳴る。
それと同時に奴は距離を大きくとった。
「遠距離タイプか?」
「お前相手では、その方が効率が良いのでな」
魔力の高まりを感じる。
奴の胸に、大きく力が溜まっていく。
そして、ギスハーンの周囲に魔力の矢が現れ俺へ飛んでくる。
「これは……面倒くせぇっ!!」
ひとつひとつの弾速が異なり、避け難い。
それに、それらは何かに当たるまで消えないため、うまく避けないと気がついた時には囲まれて死にましたとなってしまうだろう。
「避けるのは上手いようだな。 だが、まだまだ続くぞ」
弾は、奴の手元から断続的に駆り出されてくる。
だが、決して避けきれないほどじゃない。
そして、それとは別の魔力の高まり、何かを誘っているように感じる。
行くべきか、様子を伺うべきか、2つの選択肢を取捨すること強制させられる。
奴は、遠距離型で自分で仕掛けるタイプではないと俺は判断する。
奴の高魔力は、カウンターに用いられると考え、今はまだ、様子を見ることにした。
「おいおい。 こんなんじゃ、何発撃っても変わらないぜ?」
「東洋に行った時、習った言葉が有る。 下手な鉄砲でも数を撃てば当たるという言葉だ」
「下手な鉄砲は数撃って当たらないから下手なのさ」
脳内物質を整えることで集中力を発揮する。
それと同時に、俺は心拍数を上げるほど、周囲の時間が遅くなることに気がつく。
これならば、弾に当たる道理はない。
あとは、こちらから仕掛けるタイミングを……そう考えた時だった。
「ぐっ……」
俺は、突然右肩に痛みを覚え、膝をついた。
頭がクラクラとする。
そして、嘔吐感を必死で抑えた。
「……ほう。 シリュウ、お前なにをした?」
その質問は、俺の背中から聞こえる。
先ほどまで前にいたギスハーンは見えない。
痛みに耐えながら右肩を押さえて振り返ると、そこに奴がいた。
瞬間移動しながら、俺の方を攻撃した。
俺にはそうとしか思えない。
「何かしたのは……お前だろう」
何をされたかは、わからない。
だが、こいつは、一瞬のうちに俺の方をえぐり、後ろへ移動した。
心拍数をさらにあげると、一瞬血が大きく吹き出すが、その後は身体が修復されていく。
「身体を治癒させることもできるのか。 万能なスキルだな。 だが、俺には勝てんだろう」
奴を観察すると、自分の判断ミスに気がつく。
痛みを脳内麻薬でごまかし、肩を動かすことができる程度に修復し立ち上がる。
判断ミスとは、様子見で待ちを選択したこと。
奴が抱えていた大きな魔力は消え去っている。
つまり、奴は魔力を貯め、開放することで必殺技を行うタイプの敵だということだ。
「どうだか。 だいたい分析は終えたぜ」
「だが、何をされたかはまだ理解はできていないようだな」
ギスハーンは、仮面を触る。
その瞬間、魔力が一気に増幅した。
「……見極めてやる」
「そうか、やはり偶然か」
俺は、心臓を高鳴らせる。
心拍数が最大まで増幅する。
時はゆっくりとなるが、奴の身体に動きはない。
そして、俺の集中力は、乱れが始まる。
心臓の高鳴りで、ある一つのことを思い出したからである。
ルクスリアの言葉、そして行動だ。
心拍数が限界を超えて上がっていくのを感じた。
受けた傷が、完全に治るのがわかる。
そして、周囲の時が停止したかのように錯覚する。
「……ふふふっ。 やはり、動けていないではないか」
どういうことか、ギスハーンは無防備に俺に近づいてくる。
そして、俺の身体は動かない。
「捕らえろとの話だが……お前のようなものを陛下のそばに置くなどヘドが出る。 ここで死ね」
奴の手刀が振り下ろされる。
俺は、そんな時でも、ルクスリアの……いや、みんなの顔が浮かぶ。
走馬灯だろうか。
団長の、アイの顔が浮かんだところで俺の身体は動き出した。
手刀をいなして、俺はギスハーンに拳をぶつける。
奴の身体は後方に大きく吹き飛び、壁に当たって落ちた、
「……これは。 時が止まっているのか。 そして、みんなのおかげで、俺はその中で動けるだけの力を手に入れた」
「……くそ。 シリュウ、きさま」
「悪いな。 ギスハーン、今の俺は強すぎてお前では足元にも及ばないよ」
「ぬかせっ!!」
ギスハーンは、俺に何度も拳を振るう。
そして、大きく身体を反らし、そこから魔力の弾を射出する。
だが、俺には何一つ当たらない。
それもそのはず、静止した時の中での攻撃が、さらに俺には静止しているかのようにゆっくりと見えるのだから。
「もういいだろ。 やめようぜ? お前も仲間にしてやってもいいから」
「ふざけるな!! 俺の陛下への忠誠は……そんなにぬるいものではない」
「なら、どうしたいんだ? 実力では俺にかなわない。 目的を果たすことはできないぜ?」
「黙れっ!! 俺は認めんぞ」
何度も攻撃を繰り返すが、俺には当たらない。
まるで、大人と子供の喧嘩だ。
俺は、それに対して憐れにも思う。
「……まだ続けるのか?」
「ーーくそっ、お前は本当に俺よりも」
「あぁ、そうみたいだな。 頑張れば、今すぐ埋められる差じゃなさそうだ」
「……ふん。 なら、取る手段は一つだな」
ギスハーンが自分の首に向けて手刀を振る。
それを俺は止めた。
「おい、やめろ。 死んで終わりにしようとするんじゃない」
「何を言っているのか分からんが、目的を果たせん以上、死ぬしかない。 それが俺にできる最大の忠誠だ」
その時、周りの時が動き出したのがわかった。
「俺はお前が気に入ったんだ。 だから、死ぬな。 その命、俺にくれ」
「……お前は、甘いんだな。 なるほど、お前につくのも悪くないように思える」
「なら!! いいだろ?」
「あぁ、もう少し、お前と早く会えていたらそれもよかったな」
ギスハーンの身体が、爆発した。
爆風に巻き込まれ、俺の身体が飛ばされる。
その時、仮面が消えていくのが確認できた。
「……そこまでの忠誠を尽くす相手なのか、マクシミリアンは」
これほどの男が忠誠を誓う。
それが、どういうことなのか……俺にはわからない。
だが、捨て駒にされるということは、ギスハーンクラスの者が、マクシミリアンの周りにいるということだろう。
「ギスハーン、悪いが俺にも誓いがあるんだ」
今はただ、この男の生き様に、敬意を払った。




