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仲間を増やそう ルクスリア編

「あはっ。 それでなにする? なにがしたいの?」


 ルクスリアが笑った。

 その笑いには無邪気さが感じられる。


「とりあえず離れてくれ。 話がしたい」


 俺は、背中に当てられたそれにドギマギしてしまう。

 しかし、彼女は素直に言うことを聞くタイプではないのは想像がついていた。


「ふうん。 離れて欲しいんだ? いいよ、言うこと聞いてくれたらね」


「なんでそんなことしなきゃいけないんだ?」


 そもそも、先に抱きついてきたのは彼女の方だ。

 たしかにご褒美といえばそうなるのかもしれないが、見知らぬ女性に抱きつかれても俺はなにも感じない。

 なにも。


「君の言うことを聞いてあげるんだよ。 だったら私も聞いてもらわなきゃ」


「……一応、聞いてやる」


 これがいけなかった。


「うーんとね。 じゃあ、キスして」


「は?」


「キスだよ……じゃあ離していい?」


「いや、待て待て。 なんでキスしなきゃいけないんだ」


「うん? 嫌なのかな」


「嫌に決まってるだろ。 見ず知らずの相手とそんな」


「そうだね……でもそれじゃあ離せないな」


 完全にペースを掴まれてしまった。

 この手の人間は、満足するまで止まらないため鬱陶しい。

 そして満足したらどこかへいってしまうのだろうから本当に面倒だ。


「……分かった。 そのままでいいから話をしないか?」


「えー? やだなー。 だって疲れるもん」


「じゃあ離れろよ」


「キスしてくれるならね」


「じゃあそのままだ」


「うーん。 堂々巡りだね。 そもそも、なんでキスそんなやだの? 童貞だから?」


 童貞煽り。

 効果は抜群だ。


 仕方ない、童貞っぽくないかえしをしようか。


「それは……おまえが不細工かもしれないだろ」


 うん、童貞っぽくない。


「じゃあ顔見る? もし不細工だと思ったらやめてあげるよ」


「え、いいのか?」


「うん。 いいよ……はい」


 そう聞こえたあと、拘束が解かれた。

 そして、前に彼女は回り込んでくる。


 幼さを残す顔立ちに大きな瞳。

 白い肌、スレンダーだが出るとこは出ている身体。

 うん、前情報通り、ダメですね。


「どう……かな?」


「あぁ、ブサイクだね」


「ふーん。 結構ひどいんだね」


 ルクスリアの顔が近づいてくる。


「な……なんだよ」


「うん? キスしようと思って」


 なおも顔が近づく。

 ルクスリアの大きな瞳がこちらを捉える。

 端正な顔立ちから目が離せなくなる。

 瞳が奪われると言うが、自分のものではないように、コントロールが効かない。

 キス……は、初めてではないが、この子とのキスがどのようなものか想像してしまう。

 もう少しで、唇が当たる……その瞬間、それは離れていった。


「えっ?」


「ダメだよ。 ブサイク相手なら抵抗しなきゃ……それとも」


 にっと笑った。

 俺は小馬鹿にされたように笑われた。

 だが、不思議と腹立たしさはない。


「それとも……なんだよ」


「んーん。 なんでもない。 それで話があるんでしょ?」


「いや、素直に聞くとは思えないからな。 やめた」


「そっか、仲間になってくれ……だったら考えたんだけどな」


「もう、おまえのペースにははまらないぞ」


「ふーん。 少しはやるね。 童貞じゃあないぞってところかな?」


 ぴっと鼻を弾かれた。


「関係ないだろ?」


「関係ないね」


「おまえ、なにがしたいんだ」


「さぁ? なにがしたいんだろ」


 ルクスリアは俺の周りを飛び回りながら空を見上げている。

 その瞳の奥は憂いていて、どこか寂しそうだ。


「1つ聞いてもいいか?」


「いいよ。 1つと言わず何度でも」


「どうせ答えないだろ」


「さぁ? 質問次第かな。 で、なにかな? スリーサイズ?」


「いや、それも気になるが後にしよう。 君がなぜ7大罪に入ったか教えてくれ」


「ん? こうして君と出会うため。 君と出会うためには入らなきゃダメだったんだ」


「……どう言う意味だ?」


「運命って知ってる? ちょっとしたことでズレちゃうから、正しく事を運ばないといけない」


「難しい話で誤魔化すつもりか」


「バレた? やるねぇ君」


 俺は、ルクスリアに何処か近しいものを感じた。

 だが、こいつと俺では共通点がない。

 なにが、似ているんだ?


「ルクスリア、君の求めるものは何だ?」


「……それを聞いてなにするの?」


「与えてやるから、仲間になれ」


「いいの? 私、いくつも国を滅ぼした極悪人だよ?」


「過去なんて知らんし興味がない。 最近、よく考えるんだ。 自分は善人なのかって」


「はぁ……どう言う話なのかな?」


「かつて、悪い事をした奴を生かして仲間にする。 ふざけんなって思う奴も絶対いるだろ? だからその人たちに考慮して、そいつらにしかるべき罰を与えるべきかって」


「普通、そうなんじゃない?」


「いや、別にいいだろって思った。 だって、俺はそうしたくないし」


「へぇ、自己中なんだ。 いいの? それで」


「いいよ。 俺は、そいつらとかわらない(関わらない?)人間だから。 自分がしたいようにできるならそれが悪か善かなんて関係ないだろ?」


「ふふっ。 君、7大罪に向いてるよ。 むしろうちに来る? 欠員もいるし」


「やだね。 おまえらを全員こっちに引きずり込むんだ。 そう、おまえをな」


「できるの? 私、こう見えて面倒な性格だよ?」


「あぁ、満足させてやるよ」


 俺は、体温が高まっていく。

 瞳孔が開き、周囲の時間が遅くなっていくのを感じる。


「へぇ、力ずくね。 勝ったらおまえが仲間になれって?」


「いや? 別におまえの好きにしたらいい。 俺もそうする。 そして、2人で満足しよう」


「……ふーん。 分かってるじゃん」


 ルクスリアは羽を広げ逃げ出した。

 俺はそれを追いかける。

 俺には確信があった、彼女が仲間になる、そのためにどうしたらいいか。

 彼女は、転生する前の自分と同じだ。

 何かをする意義を失っている。

 何をしたらどうなるのか、それは分かっているが、自分がそれに介入したところで、何の意味をも見出せない。

 自分である必要がないと、考え、何もできない。

 世界の方が変わるのを待っている。


「ルクスリア、俺が世界を変えてやる。 おまえの住みやすい世界にな」


「その世界には私がいて欲しいって?」


「あぁそうさ!! そのために捕まえてやる」


 壮絶な鬼ごっこの始まりである。

 彼女が逃げ、鬼である俺が追いかける。

 美少女を大男が追いかけるすがたは警察の出動が不可避だろう。

 幸いなのは、人がいないルートで彼女が逃げる事。

 それもそのはず、彼女は7大罪。

 目撃証言だけで報酬が出るほどの有名人だ。


「待ちやがれ!!」


「あははっ!! やーだねー」


 しかし、それは関係ない。

 彼女ほどの美貌であれば、それを見かけた男たちが迫り走ってくるレベルだ。

 それほどの彼女は逃げる姿も可憐でかつ、早い。

 全力の俺でやっと距離を詰められるかといった速さだ。

 しかし、長く続くと思われた鬼ごっこは、国を大きく離れたところで終わる。


「追い詰めたぞ……ルクスリア」


「ふーん。 氷属性さん?」


「いいや、それはどうかな」


 氷の壁を作り出し、彼女が迂回する先に壁を広げていく。

 完全に包囲した。

 もうこれ以上は鬼ごっこが続くことはないだろう。


「へぇ。 熱を操るのね。 で、どうするの? 鬼ごっこはそれなりに楽しかったけど」


「次は……そうだな。 こういうのはどうか」


 そう言って、俺は氷の壁を広く作り炎で加工をする。

 それは上から見たらよくわかるが、ラビリンスっ!! 日本語では迷路となっている。


「さぁ、脱出してみろ。 もちろん飛ぶのはなしな」


「すごいすごい!! この季節、涼しい迷路ってのはいいね」


 そう言って、彼女は歩き出した。

 それを確認して、俺は1つの場所へ行く。

 そこは、1つの道へ続く以外は三方が壁。

 つまりは行き止まりである。

 時折、彼女の声が聞こえるが、俺は無視して待った。

 そして、ある程度時間が経った後、彼女が現れる。


「……一度、ゴールにたどり着いたろう? なぜ戻った」


 構造としては、ここにたどり着くには、一度外に出る道を通り過ぎなければならない。

 彼女は、ゴールをしているか、見過ごしている証拠だ。


「つまんないから。 せっかく、君と出会えたのに」


「もう、仲間になれっていうつもりはないんだけどな」


「ふーん。 いいよ別に。 私がわがままってもう気づいてるでしょ?」


「あぁ、せめて近くにいる間は遊んではやるがな」


「ふふっ。 いいね。 ねぇ、ギルドに入れてよ。 君が気に入った」


「いいぜ。 来るものは拒まずだ」


「こんな気持ちになれるなんてね。 君、すごいね」


「君じゃない。 シリュウだ」


 そう言うと、彼女はムッとした顔になる。

 そして、瞬時にこちらに近づいて、一瞬、唇を合わせた。


「……シリュウ、顔が赤いよ?」


「…………ほっとけ」


 ルクスリアが仲間になりました。



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