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ギルドを追放されたおれが新たなギルドを見つけることができた

 俺は物心つく前から、1つの記憶を持っていた。

 現代日本で暮らしていた1人の男。

 高校を中退し、しばらくニートを続けていたが、親が死に、俺の番がやってきた。

 高校はいじめを理由に中退した。

 すごくみじめだったよ。


 だから、俺はこの世界ではやり直すって決めたんだ。


 この世界は、いわゆる異世界ってやつで、俺はそこに転生してきた。

 よく、漫画の世界で見る設定だ。

 そう、俺は漫画が好きで、それに憧れていた。

 筋肉をつけて、ガタイのいい主人公が、友情、努力、勝利をしていく。


 憧れを現実にするため、俺は筋トレを続けた。


 俺には親がいなかった。

 親代わりに、黒い龍が俺を育ててくれていた。

 黒龍ヘイローン。

 彼……と呼ぶのは不自然だろうか、ヘイローンは捨てられた他種族の俺を不自由なく育ててくれたし、1人でも生きていけるように鍛えてくれた。


 そして俺がちょうど10歳になる時のことだ。


 ヘイローンが、殺された。

 流した血が、温かったのを覚えている。

 彼は、涙を流していて、俺もそれにつられて泣いていた。

 ヘイローンを殺した奴は誰なのかわからない。

 でも、後から知ったことだが、龍を討伐できる実力者は、ほとんどいない。


 つまり、この世で強いやつを順番に倒していけば、いつか復讐できるということだ。


 ヘイローンは、俺に刻印を残してくれた。

 胸に、黒龍の刻印。

 それは、俺に莫大な魔力を与えてくれた。

 そして、俺に残してくれたものはもう1つある。


 名前。


 俺の名前はシリュウ。


 その時は、まだ人間たちが圧倒的な強さを誇っていると信じていて、自分はまだまだと思っていたよ。

 だから、俺は筋肉をつけ、ヘイローンに負けないだけの力をつけようとした。

 現実は非情で、俺は人間として最高峰程度の力しか手に入れることはできなかった。


 そして、俺は18になり街へ降りた。


 ヘイローンとの思い出がある山を降りるのは心苦しかったが、いつまでも思い出に囚われているわけにはいかない。


 街へ降りると、さっそく警察のお世話になった。

 俺の服装に問題があるとの事だった。

 幼少期を龍に育てられたとはいえ、そこは異世界転生者、最低限の常識は持っていると思っていたがダメらしい。

 裸はまずいと獣の皮を巻いていたがそれでもまずいとの事だ。

 俺は、身分を証明できず、危うく捕まってしまうところだった。

 そこで、警察2人をボコってしまったのが、良かった。


 その街で最高のギルド、クラウン・クラウンの団長がそれを目撃していたのだ。

 俺は、常識があるので、目撃者を消そうと動いたよ。

 だが、見えない力に身体が抑えられた。

 俺は、なんとか抵抗してその男の前まで迫ったが、ダメだった。

 だが、その男は笑って、俺をギルドに迎え入れてくれた。


 俺の才能を垣間見たとか。


 18では正式に加入ができないから、俺は仮入隊となったが、魔力測定器を握らされ圧倒的な魔力量が確認できた。

 周囲のメンバーたちは俺に驚き、また未来のエースだともてはやしてくれた。


 ーーその時は。


 そして、20になった俺は、自分の能力を知る機械を握る。

 表示されるその能力こそ、俺の物語の中核となる。


 スキル 「バイタルサイン」


 バイタルサインとは、一般的には体温や血圧など、その人の健康状態のことを言う。

 要約すれば、俺のスキルは体調を整えるものだ。


 周囲の人間の態度が180度変わった。

 脱退をさせるにはかなりの条件が必要らしく、俺を強制的に脱退させることは出来なかったが、代わりに俺をやめさせようといじめに近い動きは良くあった。


 結局、どこの世界へ行っても俺は俺だと言うことか。


 そう自分の運命を呪いそうになったが、かつて憧れた漫画の主人公たちに習って、俺は現状を受け入れた。

 俺には、復讐という目的がある。

 そして、そのためにはギルドの力が必要だ。


 そして、これは俺のこのギルドでの最後のクエストの出来事である。


「おらっ!! よし、次は」


「次はじゃねえんだよ。 雑魚スキル野郎。 もう終わったんだ」


 クエストは基本的に4人パーティで行われるのが一般らしい。

 俺のパーティはメイン火力の2人と俺ともう1人。

 このギルドの最高実力者である回復能力者で組まれている。

 彼女の回復は、瞬時に傷を治療することができ、この国で最高峰の1人とも言われている。


「……すまんな。 つぎはもっと働く」


「いや、もうその必要はないぜ。 次なんてないからな」


「なに? それはどういう意味だ」


「簡単なことよ。 今回のクエストでの貢献度が最低だった場合、お前を脱退させるための条件が揃うのさ」


「……なるほど。 俺のような男がなぜトップパーティに所属させられていたのか、合点がいったよ。 はめたな?」


「さてなぁ。 さて、お前はもう帰還する必要はないぜ。 この書類にサインをしたらおさらばだ」


 見せつけられる紙には、俺の脱退について書かれている。

 ただ、俺はそれをじっくりと見るだけの余裕がない。

 指された場所に、俺はサインした。

 これで、こいつらと俺は他人。

 そして、俺の居場所は完全に途絶えた。


「ふう。 俺にはやりたいことがあったのにな」


「そうかい。 残念だったなぁ。 ほら、お前ら行くぞ」


 俺を残して3人は帰っていく。

 俺は、残された現実を受け入れることができないまま、立ち尽くした。

 どれほど時間が経っただろうか。

 俺は、1つの結論に至った。


 また、死のう。


 復讐出来なかったのは心残りだが、仕方がない。

 もう、俺を拾う者などいないだろう。

 だから、またやり直すか。

 あるいは、こんな下らない運命に縛られるなら、もう2度と転生なんてしたくないな。


 俺は、スキル 「バイタルサイン」 を使用する。

 やることは簡単だ。

 無駄に多い魔力を使い、体温を上げていく。


 少しずつ、体が熱くなっていく。

 周囲の空気もそれに合わせて熱くなっていく。

 地面から蒸気が生まれ、靄がかかっていく。


 最後のクエストは、湿地帯でのスライム討伐だった。

 なぜ、こんな簡単なクエストを選んだのか、今にして思えば、選んだ時点で気付きそうなものだな。


 俺は笑った。

 俺の体は火を吹いている。

 これだけ、熱くなってくれば死はもう少しだろう。

 苦しいかな。

 やっぱり死ぬのは何度やっても。


 俺はそろそろかと、身構えながら体温を上げ続ける。

 だが、少しも辛くならない。

 視界も良好だし、思考も正常だ。

 もしかして、俺のスキルは自殺すらできないのか。

 そう思った瞬間のことだった。

 俺に声をかけるものが現れた。


「あっ、あのーーー!! そこの大魔導士様。 よろしければお話を……あちちっ!!」


 振り返ると、かなり距離を取りながら大声で俺を呼ぶ女性がいた。

 何とも可愛らしい姿をしたその人は、誰かを呼んでいるようだ。

 しかし、周囲には誰もいない。

 俺は人に見られながら自殺する趣味はないから、とりあえずスキルを解いた。


 そうしたら、女性が俺に近づいてくる。


「うっわー。 まだ暑いですね。 すごい魔力です」


「もしかして、大魔導士様ってのは俺のことか?」


「はい!! あんな魔力を使い続けるなんて、普通の人じゃありえませんから」


「……そうか、大魔導士様ねぇ。 悪くねえな」


「よかった。 で、ですね。 あなた、どこかギルドに所属してたりしますか?」


「ん? いや、ちょうどさっき脱退させられたところだが」


「え!? 本当ですか? だったら、うちに来ませんか?」


「おい、ちょっと待て。 見ず知らずの俺を勧誘するのか?」


「私のギルドは弱小でして、少しでも人員が欲しいんです。 あなたみたいにすごい魔力を持っている人が来てくれれば千人力です」


「魔力だけなら……そう思えるかもな。 だが、俺の能力はちょっと体調を整えるぐらいしか出来ないぜ? どうせいらなくなるなら、もうほっといて欲しい」


「そんなことないですよ。 だって、今すごい炎を纏っていたじゃないですか」


「炎を纏っていただと?」


「はい。 それで、周りまで熱くなって、それだけのことができるじゃないですか」


 自殺することに夢中になって、周りのことは見えていなかった。

 言われてみれば、湿地帯だったはずのこの場所は乾いている。


「俺が、環境を変えるほどの力を使っていたのか?」


「そうですよ。 そんなあなたを脱退させるなんて、もといたギルドの方々は無能にもほどがありますね」


「……悪くないな。 物語の主人公みたいだ。 もしかして、俺のスキルはもっと使い道があるのかもな」


「はいっ!! あなたは最強です」


「分かった。 お前のとこのギルド入ってやる。 名前は?」


「冒険者ギルド、オールドアルバム。 ギルド長のアイリッシュです。 アイとでも呼んでください」


「俺は、シリュウだ。 よろしくな、アイ団長」


「はい、よろしくお願いします。 シリュウさん」


 俺の新たなギルドはすぐに見つかった。

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