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ラボラトリ

「それでは地球に出発します。ハイチーズ!」


 体にビリっと電気が走った。


「はい、終了です」

「お?」

「戻るぞみんな」


 少佐が振り向いて言った。


「俺たちは地球に行かない?」

「正解だ軍曹」

「わかってきたなトミー」

「やっとね」


 みんなで乗ってきたエレベーターに乗って上まで戻った。


「地球に行く俺たちは、どうするって言ってたっけ」

「どうするって?」

「まだ行かないけど行きますか、みたいなことを言っていたような・・・」


 プロメがそんなことを言っていた。


「地球に行く組が出発するまでには、まだ少し時間があります。この船が地球に最接近するタイミングの、少し前になります」

「まだ先なのか」

「一番飛行時間の少ないタイミングで飛ばします」


 プロメが説明してくれた。


「うーん、その時が来たら、まっ黒ホットドッグと俺たちをボロンで作って、地球に飛ばすんだろ?」

「そうです」

「なんで出発前にスキャンしないで、今スキャンしたんだ?」

「この後、私が少し忙しくなりますので」

「忙しくなる?」


「軍曹、あたしとプロメは色々とやることがあるからな、少しのんびりしててくれ」


 少佐とプロメは管制室に歩いて行った。


「トミ、食堂に行きましょう。マリーも」

「ああ、荷物を部屋に置いてからな」


 俺たちは使わなかった地球行き用の荷物を部屋に置き、しばらくのんびりと過ごした。



「ねえプロメ、プロメのラボの隣の部屋って、使っていいの?」


 ある時テルルが、食堂の壁に貼ってある居住区画の見取り図を見ながら言った。食事が終わってみんなでまったりしているときだった。

 プロメのラボの隣には、プロメのラボと同じ、少し大きめな部屋が3つ並んでいた。


「かまいません。2つ使っていいので、テルルさんとマリーさんのラボとして使用してください」

「私にもくれるのか?」

「はい。ケガなどをした場合の医療室としての機能を持たせてください」

「了解だ!」


 マリーの作る医療室なら、何でも治ってしまうだろう。


「トミサワさんは・・・」

「いらないよ。研究するものが無いからな」

「ですね」


「トミ、私たちの部屋を作るの手伝ってくれる?」

「了解した」

「悪いなトミー」


 テルルとマリーは、下の大きなボロンで機械やディスプレイを何個も作り、俺は台車にそれを乗せて、新しいラボとの間を何回も往復した。


 マリーの部屋は、高度な機械が並ぶ保健室になった。


 テルルの部屋は、宇宙を観測する部屋になった。トランのプロメがいた天文台と、プラセオで繋がった。

 テルルの部屋のディスプレイには、テルルが飛ばした探査衛星のデータや画像が送られてきた。

 2人はしばらく新しい自分のラボに入り浸り、俺は一人で暇な時間を過ごした。



「トミ、今呼びに行こうかと思ってたのよ」

 ある時管制室に行くと、4人がそろって何やら難しい顔をしていた。

「どうした?」


「トミ、前にフラッシウムとプラセオをセットにした探査機を飛ばしたの覚えてる?」

「大きな石に見えるやつを作って飛ばしました」

「ああ、大きな石な。俺が太い蛍光灯をセットしたな」

「それを、あたしが地球にぶん投げたな」

「そうだったな」


「あれがもうすぐ地球の大気圏に突入するんだけどね」


 管制室のモニターには地球と探査機の位置が表示されていた。探査機を表すオレンジの点は、ほぼ地球にくっついていた。


「それで?」

「日本人って、コンビニが無いと不安?」

「何だって?」

「大衆心理よ」

「うん?」


「トミの時って、私がプラモデルの格好をして会ったじゃない?」

「そうだったな」

「その後、すぐに食堂に行ったけど、もしも食堂がコンビニだったら、もっと安心した?」

「へ?」

「どう?」

「あのラウンジが、もしもコンビニだったらか・・・」

「そう」

「もしもコンビニだったら、あそこから離れたくなくなって、旅になんて出たくないって言ってたかもな」


「そんなにコンビニが好き?」

「いや、別に好きじゃないが・・・」

「安心する?」

「安心感はあるかもな」

「そうなのね」


「コンビニを作るのか?」

「コンビニって何でもあるのよね?」

「何でもじゃないが、だいたいあるな」


 テルルは腕組みをして天井を見ながら考えていた。みんなはそれを見守った。


「うーん、私が一番コンビニに行ってみたいって思ってるのかもしれないわね」

「私もコンビニに行ってみたいぞ!」

「あたしもー!」


 後ろでプロメも手を上げていた。コンビニはトラン人の憧れらしい。大人気だな。


「俺は話の趣旨が、良く分かっていないんだが・・・」


「あーもう時間が無い!」

「プロメ、ルート変更。微修正できる範囲でコンビニをピックアップ!」


 プロメの手が空中で、パラパラを踊っているみたいに動いた。モコソゴーグルにチカチカと何かが激しく点滅している。


「落下するまでにスキャン可能な回数は6回か7回なの。色々な候補があるんだけど、悩んでたのよ」テルルが説明した。


「スキャン可能なコンビニは3つ」

「それ全部スキャンして」

「了解。残りでマンション、繁華街、スーパー、ホームセンターが可能」

「可能な範囲でよろしく」


「大気圏突入開始!」プロメが叫んだ。

「姿勢制御中!」少佐が両手を広げて何かを操作している。「フラッシウム展開!」

「スキャン!1・・・2・・・3・・・4・・・5・・・6・・着水しました」


 プロメが言い、管制室が静かになった。


「海に落ちたのか?」

「これから適当な岩場を探して、波打ち際の目立たない岩になります」

「岩の形だったな」

「不確定粒子の残量は少ないですが、残りで地球のデータを受信します」

「ネットとかか」


「これからスキャンした膨大なデータを整理します」

「コンビニどうだった?」

「1回目は失敗、2回目は成功で人間5、3回目は成功で人間2。マンションは成功ですがデータ処理中、スーパーは成功ですが人間はゼロ、ホームセンターは半分成功かもで人間はゼロ」

「ゼロって何?」

「日本は朝4時です」

「営業してないのね」


「膨大なデータをこれから処理しないといけないんですが、とりあえず休憩しましょう」




 

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