懐中電灯
吐き出された細長い懐中電灯は、前後の膨らみが少ししかなかったが、グリップ部分に横線の出っ張りがあった。これもアームになって伸びるのだろう。
グリップ部分と前後の膨らみの間には深めの溝があった。
遠くから見ると、細いペンライトのように見えた。
「後ろ開けるよ」少佐が言った。
ペンライトの後ろが外れ、周りに待機していた作業機械がその外れた部分に取り付いて、上方向に移動させた。
「元素カートリッジ作成開始します」
大型ボロンから、銀色の何か長いのが吐き出され、ペンライトの中に入って行った。単3電池がペンライトにセットされたようにしか見えなかった。
「続いて居住ユニット作成開始します」
大型ボロンから、白っぽい丸いボタン電池のような形のものが吐き出され、単3電池に続いて中に入って行った。
「閉めるよ」
「お願いします」
さっき外れて上に避けてたフタ?を2本のアームが掴み、元の場所に戻した。フタは前後の面が黒くてツルツルとしていた。
「あのフタみたいなのは、ボロンか?」
「そうです。ボロン2枚重ねです」
「2枚重ね?」
「内側用と外側用です」
「ほうほう」
「反対側はスカッシウムです」
「ほうほう」
「スカッシウム側が前です」
「ほうほう」
「前方から来るチリや砂粒はスカッシウムで吸収します」
「ほうほう」
「本当に理解してますか?」
「いや、あんまり・・・」
「宇宙船の完成です」
「あのペンライトみたいな小さい懐中電灯の中に乗るのか」
「だから小さくないんだって軍曹」
「あれの長さは?」
「約800メートルです」
「長いな・・・」
宇宙空間にガンメタリックの細長いペンライト型懐中電灯、じゃなくて宇宙船が浮かんでいた。後ろには大きめな懐中電灯、じゃなくて世界最大のボロンが浮かんでいた。
大型ボロンから伸びるアームがペンライトを掴んでいる。
「近づきます。動きますので捕まってくださいね」
プロメが言うと、船内にプシューという音が響き、体が後ろに引っ張られた。手すりを強く握り、足を出っ張りに引っ掛けて耐えた。
プシューという音が止まると、体は無重力になった。
「これから少し複雑に動きますのでシートベルトをお願いします」
プロメの指示に従って、俺たちはシートに戻ってシートベルトを締めた。
窓の向こうのペンライトはどんどん大きくなっていった。どこまで近づいてもぶつからず、大きくなり続けていった。
やがて窓から見えるものがペンライトの胴体だけになった。ペンライトの胴体は、石のようにザラザラとしていて、少しゴツゴツしていた。
シャトルはペンライトの真ん中ではなく、少し後ろのほうに近づいて行った。そこには小さな深めの凹みがあり、シャトルは姿勢を反転させ、その凹みの中に胴体が入った。
ガコン!とロックされる音が船内に響いた。
「シートベルトを外してください。船内に入ります」
俺たちはシートベルトを外し、荷物を収納扉の中から出した。
「モコソは着けていいのか?」
「はい。着けてください」
無重力の中、苦労してバッグの中からモコソを出してゴーグルを掛けた。
少佐がシャトルの天井のハッチを開けた。ハッチの向こうには細い通路があった。俺たちはその中を体を滑らせて進んだ。
10メートルほどで、広い明るい部屋に出た。部屋の壁には太い手すりがいくつも付いていた。
部屋の壁のうち、ひとつだけが手すりが無く、そこが床であると分かった。
プロメが何か操作すると、床にシートが6個出てきて、壁が大型ディスプレイになった。
「えーとですね・・・」
プロメは何も映し出されていないモニターを見ながら何かを考えていた。
「下でいいんだからシートでいいだろ?」
「でもすぐに上にグンってなる」
「ああそうか」
「壁の手すりが一番いいかな?」
「そうかもな」
プロメとストルン少佐が何やら相談し、俺たちはバッグをしっかり持ち、壁の手すりにしがみついていることになった。
「ストルンはアーム準備ね、私は姿勢制御」
「あいよ」
「何が始まるんだ?」
俺たち3人は、謎の相談をする双子を壁の太い手すりに掴まりながら見守った。
「何が何だか分かってないのは俺だけか?」
「トミーは何も考えなくていい」
「そうかよ」
「すねないでね」
「はいはい」
モニターに外の映像が映った。船外のカメラから、後ろの大型ボロンを映した映像だった。懐中電灯のライト部分、なのだが、電球は無く、真っ黒いボロンの表面が見えている。
その大型ボロンの横からチカチカとライトが点滅する大きな何か、デスクスタンドのライトのようなものがアームをクネクネさせて、こちらに蛍光灯のような白い棒を向けている。
「ではみなさん、これからフラッシウムでスキャンします」プロメが言った。「出発です」
「いつでもいいわよ」
「衝撃に備えろトミー」
隣で同じように手すりに掴まる2人が言った。
「ではいきます。ハイチーズ!」
体を電流がビリっと走った。
「あれ?」
体に衝撃は来なかった。
「はい、終了です」
「え?」
「対象を保存して、宇宙船を送信します」
「はい?」
「よし、帰るぞ!」
「なんで?」
「まだ分かってないの?」
「何がだよ!」
「トミー、シャトルに戻るぞ」
「なんでだ」
「マリーと子供の待ってる研究室に戻るって話、覚えてる?」
「ああ」
「この星で未来を繋げるのなら、ナーヌを目指すって覚えてる?」
「ああ」
「子供に会いに戻るぞトミー!」
俺たちはシャトルで地上に戻った。
天文台で救急車に乗り換えて、また長い旅をした。
俺は旅の途中で、みんなから詳しい解説を聞いた。
俺たちはトランで子供を育てながら、このキリア星系で命を繋げ、隣のナーヌに行く方法と、ジルコンをどうにかする方法を探した。




