トラピストワン
《トラピストワン》
2009年に打ち上げられた、ケプラー宇宙望遠鏡というのがある。
地球の衛星軌道上を回る宇宙望遠鏡。地球の大気の外に望遠鏡を浮かべることで、空気の揺らぎの影響を受けない。
そしてケプラーは、系外惑星を探すために作られた望遠鏡だ。系外惑星、つまり太陽系の外の、別の恒星の周りを回る惑星を探す。第二の地球を探す望遠鏡だ。
打ち上げられてしばらくは、天の川の近くの、比較的星が多い領域を観測していた。そして恒星の周りを回る多くの惑星を発見した。
しかし、発見した惑星の多くは大きくて重い星だった。数千の惑星を発見したが、地球サイズの星は少ししか発見できなかった。
数年してケプラー宇宙望遠鏡を不運が襲う。姿勢を安定させる制御装置に不具合が出た。
姿勢制御装置が正常に動かなければ狙いを定めるどころか、姿勢を安定させることすらできない。
惑星を探す作業は、同じ領域を長時間観測するという作業だ。同じ星を長期間観測し、星の揺れや(恒星の周りを重い惑星が回っていると、恒星はそれの重力に引っ張られ揺れ動く。その揺れの大きさによって見えない惑星の存在が分かるし質量が予測できる)星の明るさの変化を見る(恒星の前を惑星が横切ると、恒星の明るさがわずかに変化する。その変化の大きさによって惑星の大きさが分かるし、長期間観測すれば、その惑星の公転周期が分かる。何日かかって恒星を一周するかが解るのだ)。
ケプラーの姿勢を安定させることができなくなった天文学者たちは知恵を振り絞った。同じ領域を長時間、長期間観測する方法を探した。
そして姿勢を安定させる方法を思いつく。
ケプラー宇宙望遠鏡の側面には太陽光パネルが付いている。発電のためだ。その太陽光パネルをちょうどいい角度で太陽に向けると、太陽からの光に軽く押され姿勢を安定させることが出来る。船の帆のように。
そして太陽光は帆を押す風と違って一定の力で押してくれる。これで姿勢は安定する。
しかし、この方法だと角度の自由が無くなる。星の集まった天の川とは違う、宇宙の暗い場所しか見ることができない。太陽のような、中くらいの大きさの恒星が少ない領域だ。
あるのは小さな恒星、赤色矮星と呼ばれる太陽の半分以下の質量をもつ小さな恒星だ。
それでもいい、何も観測できないよりは赤色矮星でもなんでも、長時間の安定した観測結果が欲しい。天文学者たちはそう思った。
そしてこれが、奇跡を生んだ。
天文学者たちが今まで注目していなかった赤色矮星の周りで、地球型惑星が次々に発見されたのだ。第二の地球探しならば太陽と同じサイズの星を観測する。そんな常識にとらわれていた天文学者たちは驚いた。
そして世界中の望遠鏡が、その出来事から赤色矮星観測に力を入れるようになった。
2016年、リエージュ大学の宇宙物理学研究所に席を置くミカエルジロン博士は、チリのラシア天文台にあるトラピスト望遠鏡で、ひとつの赤色矮星の周りを回る複数の惑星を発見する。複数の地球型岩石惑星を。
ひとつ発見するだけでも大変な地球型惑星を、複数発見したのだ。そしてその惑星は、ハビタブルゾーンにあった。
その後の詳しい観測によって、2017年2月、アメリカのNASAはトラピスト1惑星系には7つの地球型岩石惑星があり、そのうちの3つは、水が液体でいられる恒星からの距離、ハビタブルゾーンと呼ばれる領域にあるということを発表した。
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ここはノンフィクションです。
参考:NHKサイエンスZERO(竹村薫、南沢奈央版)
参考:NHKコズミックフロントNEXT