天文台
「みなさん、天文台を案内しますね」
プロメが立ち上がった。
俺たちはプロメに続いてダイニングを出た。俺たちの部屋がある廊下とは逆側の廊下の突き当りに、上へ上る階段があった。
プロメは俺たちを引き連れてその階段を上った。一つ上の階にもダイニングがあり、部屋の扉がズラッと並んでいた。
「この天文台は40人が寝泊まりできるように設計されています。では上へ」
その上の階には研究ラボの階があり、5つの大きなラボの扉とエレベーターの扉があった。エレベーターは車が乗れるエレベーターだ。
「乗ってきたエレベーターはここにも止まります。ここが最上階です」
「ここに車が出てくるのか?」
「大きな機械などはここから搬入します」
「大きな機械か」
「昨日会った3人はそこのラボの扉の中にいるはずです。中は私も知りません」
「お茶飲みに入ったりしないのか?」
「お茶はダイニングで飲みます。もうお茶は飲まなくてよくなりましたが」
「そうだったな」
「手前の3つの扉は昨日会った3人、奥の2つは持ち主不在です」
「仮想空間に行ったままか」
「たぶんそうです」プロメが歩き出した。「上に行きましょう」
エレベーターの横に大きな階段が上へ続いていた。
その階段を上ると頑丈な扉があり、扉を開けるとドーム状の大きな空間に出た。
天井が丸くドーム状になっていて、ドームの中には鉄骨が張り巡らされている。
鉄骨に支えられて大きな望遠鏡らしき機械が空中で固定され、斜め上を向いていた。
「観測の時はこのドームが半分開きますが、人間は退避して下のラボから操作します」
「プロメリの体なら問題無いがな」マリーが言った。
「その通りです。実に便利な体です」
「そこのロボットは何だ?」
片隅に2台のロボットが電源を切られたように座ってじっとしていた。
「あれはメンテナンスロボットです。修理などに使います」
「なるほどな」
「プロメの研究室ってのはどこなんだ?」
「私の研究室は、駐車場の下です」
「下の駐車場?」
「そうです。行きますか?」
俺たちは一つ下の階でエレベーターに乗った。大きな車が乗れるエレベーターは、人が5人乗っただけでは空間を持て余した。
エレベーターは少しだけ下降し、すぐに扉が開いた。
そこは駐車場と同じ広さの空間だった。
大きな車が20台ぐらい停められる空間に、車と同じぐらいの大きさの、いろいろな大きな機械が置いてあった。
奥の壁にはモニターが30ぐらい並び、その下には大きな機械がズラッと並べられ、チカチカとライトが点滅していた。
部屋の隅に衝立で仕切られた小さな空間があった。
その小さな空間には厚めの絨毯が敷かれ、大きなソファーが2つあり、真ん中に低い机があった。そして横にはテレビが置かれていた。
そこだけが地球のリビングみたいな空間になっていた。
少佐が走って行ってソファーに寝転んで地球のテレビを見始めた。
「あたしはここでゆっくりしてるから、ほっといてくれ」
「ではあちらへ」
プロメがズラッと並んだモニターの前へ案内した。
ズラッと並んだディスプレイには様々なデータが表示され、チカチカとデータの内容が変わっていっていた。内容はまったく分からなかった。
ディスプレイの中に、宇宙空間に浮かぶ衛星が映ったものと、地上の風景が4か所映ったものがあった。
4枚の地上の映像は、ビルが並ぶ大通りと、大きな高速道路らしきまっすぐな道と、海沿いの大きな港と、大きな都市を山の上のような高台から見下ろす映像だった。
「この地上の風景は何だ?」
「それはナーヌです」プロメが答えてくれた。
「戦争相手の隣の星か?」
「そうです。現在のナーヌの映像をスパイロボットが送ってきています」
「スパイロボット?」
「これです」
プロメは機械の上に置かれた大きめな石を取った。河原にありそうな丸い大きめの石だった。
プロメがその石を手で叩くと、石から機械の足が6本生えた。足はシャカシャカと動いて地面を探していた。
プロメがもう一度叩くと、シャカシャカと動いていた足が引っ込んだ。
「スパイロボットなのか・・・」
「そうです。大気圏突入可能で、ただの隕石に見えます」
「そうなのか」
隕石を見たことがないから良く分からないが、隕石ってのは河原の石ではない気がした。
「これよりも大きいと、ナーヌの防衛衛星によって破壊されます」
「ナーヌにも防衛衛星があるんだな」
「もちろんです」
俺はナーヌの地上の映像が映るディスプレイの横にある、宇宙に浮かぶ衛星の映像を見た。
衛星の映像は、ナーヌの青い惑星をバックに、大きそうな衛星が六角形の太陽光パネルを、何枚も何枚も広げているのが映っていた。
「これが防衛衛星なのか?」
「いいえ、それはジルコンです」
「ジルコンって、神アプリか?」
「そうです。それの本体です」
ジルコン本体だという衛星を映す映像は徐々に角度が変わっていった。
衛星の近くには、太陽光パネルが無数に遠くまで広がっていた。




