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朝食

 部屋の外、ドアの向こうからガタガタと生活音が聞こえてきて俺は起きた。


 すごい眠った気がした。

 ボサボサの頭で部屋の外に出ると、パンの香ばしい匂いがした。

 ダイニングテーブルの上には焼いたロールパンが山積みになっていて、テルルがフライパンで何かを作っていた。


「おはよう」テルルの後ろ姿に声をかけた。


「あー、出来上がったら起こそうと思ってたのに」

 テルルが振り向いて言った。テルルは卵焼きを焼いていた。

「着替えてきて。手料理という物を食べてガッカリするといいわ」

「がっかりはしない。有難く食べる」


 俺は部屋に戻り、着替えてダイニングに戻った。


 テーブルの上には2人分の、卵焼きと目玉焼きとウインナーがキャベツみたいなレタスみたいな大きな葉っぱの上に乗せられていた。


「地球と違ってトランには朝食というものが無いの。これは地球の朝食のマネ」

「そうか」葉っぱの皿は何を見たのだろうか。「他の人の分は?」


「私の適当な料理を他の人に食べさせるのは申し訳ないし」

「俺のために作ってくれたのか」

「そうよ。まあ、実験のウチね」

「ありがとう」


「卵は塩、パンはサアラムイって果物のジャム」

 テルルは机の上に、塩の入った瓶と、赤いジャムとスプーンを置いた。


 俺はパンを取ってジャムを付けて食べた。ジャムはいちごジャムの味がした。卵とウインナーは地球と変わらない味がした。


「悪くはないけど、特別美味しくもないわね」テルルが食べながら言った。

「いや、うまいよ」

「普通よ」

「普通にうまいよ」


「あのね、褒めるとまた作りたくなるじゃない」

「料理はキライなのか?」

「別に好きじゃないわね」


 確かに俺も料理は別に好きじゃない。一人暮らしが長いから作るが、好きで作ってるわけじゃない。

 うまい料理が無料で出てくるなら、必要ない作業だ。


「この卵もウインナーもパンも、地球と同じ味だ」

「そりゃそうよね、鳥の卵も草食動物の肉も小麦粉もイースト菌も、たぶん地球と同じよ」

「鶏がいるのか?」

「DNAの比較は出来ないけど、似てる鳥よ。あとウインナーもブタに似てる丸っこい草食動物の肉から出来てるわね」

「ブタもいるのか」

「バテとゴーチっていう、ブタに似てるのと牛に似てるのが食用に飼育されてた」


「まだ農業してる人がいるのか?」

「いいえ、これはボロンで出したの。それを焼いたの」

「そうか、素材もボロンで作れるんだったな」


「前にも話したけど、動物愛護とか自然保護とか、動植物に手を出すことは違法になったのよ」

「そうだったな」

「地球のそういう人たちも、今はまだいいけど、そのうちトランみたいになるわよ」

「そうかもな」


 キッチンでくつろいでいると、マリーと少佐が起きてきた。

 2人はボロンで好きな料理を出し、がっつりと食べた。


 最後にプロメが起きてきた。

 プロメは2人よりも多くの量の料理をボロンで出し、パクパクと静かに食べた。小柄な大食いチャンピオンみたいな食べ方だった。



 かなりダイニングでバタバタ音を立てていたが、昨日の小さな3人は出てこなかった。研究に没頭してるのかもしれない。


「昨日の3人は、金属の体が最高だって言ってたけど、あの体から肉体に戻るのは、俺があの禁止されている操作をすれば戻れるのか?」

「いや、私たちはフラッシウムでスキャンして体のデータを残したって言っただろ。元の体のデータがないと作れないんだ」

 マリーは話しながら、食べきった料理の皿をスカッシウムに入れた。


 プロメも大量の料理をたいらげ、皿をスカッシウムに入れた。

 スカッシウムはゴミ箱のフタが付いていて、開けるとただのゴミ箱のように空間があるだけだが、フタを閉めてまた開けると中には何も残っていない。不思議なゴミ箱だ。


「私が開発したフラッシウムとスカッシウムとボロンという3点セットを一般に公開してから、プロメリという重金属合金のスキャンガードを体に流すまでは、ほんの短い期間でした」


「あのコピー事件が起こるまでの期間ね」


「その短い期間に、私みたいに体のコピーに気が付いて、自分の体をフラッシウムでスキャンしてデータを保存した人間は、ほとんどいないはずだ」


「なるほどな」


 プロメが言う。

「私が思いつかなければ・・・。私がプロメリという金属を体に流す方法を思いつかなければ、今のプロメリの体に進む道は開かれなかった。私が全てのきっかけを作ったのです」


「いや、プロメだけのせいじゃない。体内のプロメリを自由に操れるようにDNAを変えていったのは私だ。私に責任がある」


「全員プロメリの体にせよという命令が出て、自分の体がプロメリの体になった時、これは失敗だと解りました」


「そうだな、完全に失敗だった」マリーが下を向いて言った。




 

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