走るぞ
「降車して整列!」少佐が叫んだ。
俺たちは急いで車から降り、少佐の前に1列に整列した。
「なんなんだ?」
「走るぞ!!」
いきなり少佐が走り出した。俺たちは急いで少佐の後を追った。
少佐は隣の車両まで走り、そこを1両まるまる通り抜け、次の車両まで走った。
その車両の連結部分の扉を開けると、車両には右側に通路があり、通路の脇に小部屋の扉がいくつか並んでいるのが見えた。少佐は1番近い扉に飛び込んだ。俺たちも後に続いた。
「扉を閉めろ!」
その車両の小部屋は奇妙な空間だった。
部屋の真ん中に細い道が3メートルほどあり、その先に丸い小さな窓があった。
細い道の左右に、傾斜した鼠色のコンクリートみたいなスロープが天井まで続いていた。スケボーのハーフパイプのような、逆カマボコのような、実に変な部屋だった。
一息つくと、遠くで何かのアナウンスが聞こえた。
「何て言ってる?」
「減圧中?」テルルが首をかしげながら言った。
「よし、間に合ったな!」
「みなさん、構えてください。左に登る準備です!」
「登る?」
ガクン!列車が発車した。俺たちは左の坂に自然と登った。
「おっとっと」俺は少しよろけた。
「みんな気を抜くな、踏ん張れ!」少佐が叫んだ。
次の瞬間、列車はものすごい勢いで加速した。俺たちは壁をほぼ登り切った。さっきまで天井だった所が体の横にあり、手で触れる。ただ、体に掛かる加速の力が半端ではない。手は上がらない。
加速の力で自分の体重が3倍にも5倍にもなっている気がする。俺は膝に手を当て、必死に踏ん張った。
「おおおおおお!」
横を見るとマリーがガニ股で必死に頑張っている。
テルルは耐えきれず四つん這いになっている。
そんな加速の中、少佐とプロメは余裕そうに直立の姿勢で立っていた。俺の視線に気が付いて少佐がこっちを見た。そしてニヤッとした。
「先に言っとけよ!」
「先に言ったら面白くないからな!」
「面白がるな!」
「軍曹、腕立てしててもいいぞ!」少佐がスクワットをして言った。
「できるかよ!」
マリーがプロメの直立姿勢を見て気が付いたようで、直立してビシッと立った。
「なるほどな」マリーが無表情で言った。
俺も真似してみた。
確かに中腰よりも楽だが、上から何かで強く押し付けられているようで、背が縮みそうだ。「うううう」思わず声が出る。
「どうだ軍曹!」
「ハゲる!」
頭皮がヒリヒリした。髪の毛の重さに毛根が悲鳴を上げてる感じがした。
「私のほうがハゲる!」
一番髪の毛の長いテルルが四つん這いで叫んだ。
「少佐、いつまで加速するんだ?」
「もう少しだな」
「たのむぜ・・・」
少しというにはちょっとだけ長い時間が過ぎ、やっと加速が終わった。
重力が正常になり、俺たち3人は真ん中の通路に転がり落ちた。
「よし、少しの間休憩だ!」少佐が腕組みしながら言った。
「なんなんだよこの列車は!」
俺たちは汗だくで床にへたり込んでしまっていた。
「ぜんぜん速く見えないのにね」
「これは良いトレーニングになるな」
汗だくの3人を、2人の軍人がニヤニヤ見ていた。
「よし、休憩は終わりだ!」
「みなさん、構えてください」
俺たちは立ち上がって壁に登る準備をした。
が、今度は逆だった!
構えていた俺たちは反対側の斜面に勢いよく転がった。
「構えろと言っただろう?」
「構えただろうが!」
「逆だったな!あははははは」少佐が楽しそうに笑った。
「ストルン、これもさっきと同じぐらい続くのか?」マリーが聞いた。
「もちろんだよ。加速したんだから同じ時間減速する」
「よーし、面白いな!」
マリーは笑っていたが、顔の肉が重力で引っ張られ、引きつった笑い顔になっていた。
マリーは笑いながら色んなポーズをして楽しんでいた。
「あー、おっぱいが垂れるー」マリーが胸を持ち上げながら言った。
俺はとっさにテルルを見た。テルルと目が合った。そしてキッ!と睨まれた。
「良かった、垂れるほど無くて!」テルルが叫んだ。
しかし、この加速と減速は普通ではない。真空超特急だと言っていた。空気を抜いて、空気抵抗を無くしているのだろう。空気が無ければ音速なんてあっという間に超えられるはずだ。時速何キロぐらい出ているんだろうか・・・
列車は程なくして停車した。外を見ると駅に到着していた。
俺たちはクタクタで汗だくになって床に転がっていた。下半身に集まった血が頭に戻るのが分かるほどだった。
「みんな走れ!」少佐が突然叫んだ。「降りるぞ!」
俺たちは救急車まで走り、車に飛び乗った。降りれなかったら地獄をもう1回味わうのだ。必死に急いだ。
車は何とか列車から降りるのに成功した。




