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オウムアムア

 《オウムアムア》




 2017年10月、ハワイのハレアカラ山。


 その頂上にあるパンスターズワン望遠鏡が、ひとつの天体をとらえていた。パンスターズワン望遠鏡は常時、地球に衝突する可能性のある小天体を監視する仕事をしている。


 言うまでもないことだが、宇宙空間には無数の小天体が飛び回っている。砂粒以下の小さいものから富士山よりも大きなものまで、地球に激突するかしないかは運だ。大きなものが衝突コースに乗った時、人類はまだ迎撃する方法を持っていない。


 宇宙空間を漂う地球に衝突する可能性のある物体。それをどこまで大きいものがあるのかと言い出せば、地球よりも大きいものだってあるだろうさ。まあそれは小天体とは言わないが。


 ハワイ大学の天文学研究所に席を置くロブ・ウェリク博士は、地球の近くを通過する小天体をチェックしていた。全てではない。人類が発見している小天体だけだ。


 コンピューターの画面には、小天体の軌道、地球との距離が表示される。近い順にディスプレイに表示される小天体のリストだ。彼は1日に3万の小天体をチェックする。


 2017年の10月19日、リストの一番上にあった天体が気になった。もう離れつつある軌道だ。最接近のタイミングは終わっている。衝突する心配はない。


 ただ、念のために1日前の画像を確認する。パンスターズワン望遠鏡によって撮影された画像には、宇宙の一角のアップに白い線が写っている。


 移動速度が少し速い?昨日の座標、今日の座標、天体の速度を計算する。秒速46km?ちょっと速すぎないか?通常の小天体の2倍以上のスピードで移動している。


 気になった彼はスペインのカナリア諸島にある天文台の仲間に、この小天体に関する足りないデータを送ってもらった。そして正確な軌道を割り出した。


 この小天体は、こと座のベガ方向からやってきていた。つまりは太陽系の円盤方向ではなく、ほぼ真上と呼べるほどの角度で斜め上から太陽系に突っ込んできていた。


 小天体は秒速26kmで太陽系に突っ込み、太陽でスイングバイをして加速し、秒速46kmで太陽系から遠ざかっていた。明らかに異常だった。


 これではまるで、太陽系の外からきて太陽系の外に出ていくみたいじゃないか。このスピードならば太陽の重力から十分に逃れることができる。もしもこの計算結果が間違いでないのならば、大発見だ。


 彼は、同じ天文台で働く上司のカレンミーチ教授に相談した。メガネがよく似合う美人の教授だ。いささか体が重そうだが優れた頭脳と行動力を持ち、尊敬できる上司だ。


 知らせを受けたカレンミーチ教授は、ハワイにある3つの天文台に協力を要請、さらに南米のチリにある2つの天文台にも観測の要請を出した。

 ニュースを聞いたいくつかの天文台は独自に調査を開始した。


 こんな出来事にはめったに出会えない。天文学者として、生きているうちに1回あるかどうか、このチャンスを逃すわけにはいかない。みんながそう思った。


 やがてカレンミーチ教授のもとに、ジェミニ南天文台からのデータが送られてきた。一晩中観測し続けた結果だ。小天体は、定期的に明るさが大きく変化しているのが解った。周期は4時間。一番暗い時に比べて一番明るい時は10倍の明るさになっていた。その小天体は、暗くなったり明るくなったりを繰り返していたのだ。


 教授はすぐに論文を書いた。一晩で論文を書き上げ、発表した。


 この天体は太陽系外から飛来した可能性が高いこと、明るさが大きく変化していることから自転していること、10倍に明るさが変化していることから投影面積が10倍なこと、以上のことから小惑星は細長い棒状であり、明るさから全長は約800メートル、太さの直径は約80メートルであると発表した。


 マスコミやSF愛好家は大騒ぎになった。宇宙人の作った宇宙船が来たと皆が思った。アーサー・C・クラークの古典SF「宇宙のランデヴー」に出てくる「ラーマ」だという者も多かった。


 だが、もう小天体は遠ざかるのみ。いくら高性能な天文台の望遠鏡を向けようと、ハッブル宇宙望遠鏡を向けようと、電波望遠鏡を向けようと、それが人工物だという確証は得ることができなかった。表面は赤っぽく、太陽系外円に多く存在するような、表面を炭素に覆われたタイプかもしれないということしか解らなかった。


 それが岩石型小惑星なのか、氷が主成分の彗星型なのかすら結論が出なかった。彗星のような尾は引いていなかったのに、なぜ彗星だという意見が出たのか。一回だけコースが予測とズレたのだ。これが、中のガスが太陽の熱で噴出した証拠だという意見が出た。


 この小惑星の名前を「オウムアムア」という。


 最初にハワイ大学のロブ・ウェリク博士が発見した時はC/2017U1という名前だったが、太陽系外から来た確率が高くなった段階で1I2017U1に変わった。

 1Iは太陽系外から来たひとつめのインターステラーという意味らしい。その後、カレンミーチ教授によって「オウムアムア」と命名された。


 「オウムアムア」は発見したハワイの天文台にちなんで命名された。

 ハワイの言葉で「オウ」は遠くからの使者。「ムア」は初めてのという意味だそうだ。2つめの「ムア」は繰り返しによる協調という意味になる。


 つまり「オウムアムア」とは、初めての初めての(大事なことなので2回言いました)遠方からの使者、という意味になる。


 この「オウムアムア」が飛んできたのは、こと座のベガの方角なのだが、飛来速度から計算すると30万年前にベガを出発したことになる。


 しかし、そのころにはベガはそこには無いんだ。ベガも移動しているから。いったいどこから来たんだろうか。。。




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ここはノンフィクションです。

参考:NHKコズミックフロント


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