台車
「車からプラセオを下ろします」
二人が席から立ちあがった。
「プラセオって何だっけ」
「通信機です」
「地球に飛ばしたやつか」
「そうです。素粒子通信機です」
「光より速いんだっけな」
「少し表現が違います。速いわけではないです。同時です」
「やっぱりわからん・・・」
プロメはラウンジにある大きなボロンから台車を出した。手押しの台車だ。かなり大きい台車で、頑丈そうな金属製だった。
双子はその台車に飛び乗った。
「乗れ、軍曹!」
「これ、乗り物なのか?」
「プラセオは重いんだ、手伝え」
「わかったわかった」
俺は台車がズルっと動かないように慎重に上に乗った。
「出発します」
プロメが両手を前に出すと、台車はゆっくりと動き出した。
「いってらっしゃい」テルルが手を振って見送ってくれた。
台車はかなりのろかった。人の歩くスピードぐらいだ。
「この台車どうなってる?」
「何がだ」
「動く仕組み」
「秘密だ」
「軍事機密か?」
「いや、面倒なだけだ」
「なるほどな・・・」
台車はエレベーターで地下10階まで降り、マリーのラボの前の長い廊下をゆっくりと走った。
「なあ、テルルのいた施設にも、最上階の食堂に大きなボロンがあった。ここにもあったな」
「それがどうした?」
「他の所であのサイズは見たことないんだが」
今まで見たのは、ラウンジの壁の大きいのと、人を作れる大きなカプセルタイプと、料理が出てくる小さい取り出し口、他に何かあったかな・・・スポーツ施設のボールとラケットが出てくるやつ、それにテルルと旅をした車の中にも小さいのがあった。テルルが使いたがらなかったやつだ。
「でっかいのが欲しいのか?」
「別に欲しいわけじゃないが・・・」
「ボロンはな、裏側がでっかいんだよ」
「見えてない所の機械か」
「元素カートリッジだな。それに重い」
「重いのか、持ち上げたことないからな・・・」
「軽い元素から重い元素までたっぷり入ってるからな、重いんだ」
「よくわからん・・・」
「そしてカートリッジは近くのスカッシウムと繋がっています」
「スカッシウムって何だっけ」
「ゴミ箱です」
「そうか、分解するんだっけな」
「元素まで分解してカートリッジに入ります。全てじゃありませんが・・・」
「難しいんだな」
「・・・天才ですから」
「凡人にはよく分からんな」
話している間に台車は入口の受付まで来ていた。プロメが入口の扉を開けた。
外のひんやりとした空気が廊下に吹き込んだ。
「私たちの車にプラセオがあります。下ろすのを手伝ってください」
プロメは自分たちが乗ってきた大きなジープみたいな車の後ろに、台車を着けて停めた。台車は大きめだが、双子の乗ってきた軍用の車はかなり大きい。
台車がすごい小さく感じた。
「バコン!」大きな音を立ててジープの後ろのハッチが上に跳ね上がった。
車の中には真っ黒い四角い大きな塊が積んであった。1辺が1メートル以上あるだろうか、黒い鉄の塊に見える。
「これが地球からテレビの放送を送ってきてるのか?」
「いえ、地球のテレビを受信してるのはテルルさんの研究室にあります」
「地球に1個、テルルの研究室に1個、それで通信できるのか」
「そうです」
良く分からんが、始めの頃バッテリーが少ないとか言ってなかったっけ?テレビは見れなくなるんだろうか・・・
「じゃあ、これはどこと通信するんだ?」
「これは今は、ここに1個、別の場所に1個です」
「ここで作っちゃいけないのか?」
「プラセオは今のところ私の研究室のボロンでしか作れません。作るときは必ず2個セットで同時に作ります」
「ああ、素粒子の難しいミカンのやつか」
「ミカン?」
「対のミカン・・・いや、何でもない・・・」
「ウィーン」小さなモーター音と共にジープの後ろのバンパーあたりが動いた。出てきたのは、トラックの後ろに装備されているような折りたたみの昇降機だった。
「それで?」
「車の中のプラセオを、この昇降機まで押してください」
「押す?」
「気合入れろよ軍曹!かなり重いぞ」
少佐が荷台に飛び乗った。俺も後を続いた。
車の中から少佐と俺の2人でプラセオを押した。
プラセオはものすごく重く、昇降機に乗る頃には、俺は汗だくになっっていた。
重いプラセオの乗った昇降機をプロメが操作して、ゆっくりと地面に下ろし・・・「ガクン!」昇降機の台が壊れて斜めになった。ズズズーとプラセオが滑り、空中に放り出され落下した。下には台車があった。「ガンッ!」ものすごい音が地下空間に響き渡った。
プラセオはきちんと台車に乗っていた。
「大丈夫です。計算です」
「壊れないのか?」
「壊れません」
「やることが怖いな・・・」




