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買い物

「私の名前はテルル・タンタル。テルルでいいわ」赤い髪のメガネ美人が言った。


「確かにコスプレイヤーにしか見えないってほど地球人と同じに見えますけど、なんていうか異星人ってもっと、外見がトカゲだったり毛むくじゃらだったり小さかったりしませんかね、それに日本語を喋ってる」異星人というにはあまりにも地球人に似ている姿を俺は疑った。「本当にトラン星人ですか?」


「トラン星人?」


 俺の発言にテルルと名乗った赤い髪の美人は、不思議そうな顔をした。


「そうね、私はトランという名前の惑星で生まれた。あなたは地球という名前の惑星で生まれた。あなたは地球星人?」


 星人という呼び方が気に入らなかったらしい。なんで宇宙人が日本語のそんな細かい所を気にするんだろうか。

 日本人だってナメック星人とサイヤ人の呼び方の違いなんて気にしないのに。



「ねえ、そんなことより!」テルルは手を叩いた。「何か食べない?」


 食料ならコンビニに沢山あるが、この人はさっき食べたみたいなトラン星の食べ物を食べるんだろうか。


「地球の食べ物が気になるのか?」富沢がテルルに言った。

「もちろんよ、おいしいものがたくさんあるって言ってたじゃない」

「コンビニじゃ、そこまでの食い物は無いが、俺も久しぶりに日本食が食いたいな」


 たぶん3年と富沢は言った。3年で他の惑星に行って帰ってこれるはずがない。ワープでもなければ。


「そういえばハラへったな」

「の、飲み物も、買いたい。喉が渇いたので。」

「この時間に食うのかい?」


 6時にコンビニの仕事が終わった後は食べて寝る生活を送っている。確かにこの時間は空腹なのだが、状況的にこんな雰囲気でいいんだろうか、まったりしすぎている気がする。


「あ、レジ入りますね!」


 香織ちゃんがガタっと立ち上がり、コンビニに走っていった。

 俺と香織ちゃんはコンビニの制服を着ている。まだ仕事中なのだ。


「みんなで行きましょう、みんなでピクニックする映画みたいね。地球の映画」テルルが言った。「前にテレビで放送したでしょ」

「そりゃずっと昔の映画だな」


 俺たちはコンビニに向かって歩き出した。歩きながら社長に時間を聞くと、社長が高そうな腕時計を見せてくれた。時計の針は5時半を指していた。

 チッ、まだ勤務時間内か。そう思うと同時に、6時になっても交代の人は来ないんだろうなとも思った。


「富沢さんとテルルさんは」俺は2人に聞いてみた。「お金って持ってるんですか?」


「金かあ」

 富沢が黒く覆う天井を見上げた。どうやら持っていないようだ。


「あるわよ」

 テルルが言った。


 なぜ異星人が持ってるんだ! 心の中で突っ込みを入れた。


「トミ、あれは?」

「ああ、机の上だ」

「机ごとこっちに持ってきましょう」


 テルルは片手を机のほうに向けた。そして腕をスーっとコンビニの入り口へ振った。さっきまで座っていたテーブルとイスが地面を滑るように移動した。タイヤが付いているようには見えないし、空中に浮いているようにも見えない。ただ地面を滑るように動いた。


「いいなそれ」滑るテーブルを見て藤野が言った。「オレの愛車にぶつけんなよ」


 もう大抵のことでは驚かなくなっている。スーッと滑った机は自動ドアの近く、藤野のバイクから2メートルほどの場所で止まった。


「おおおお、未来ガジェット!」

 モーリーが驚いていた。


 机の横を通り過ぎる時、テルルはテーブルの上に置かれた黒い長方形の箱を取った。大きめの将棋盤を半分に折りたたんだようなやつだ。さっき唯一説明されなかったやつだ。


「それは何なんです?」

「うーん、お財布?」


 テルルは俺の質問にちょっと考えて答えた。バレバレな嘘ってやつだ。


「トミ、これでいいの?」


 テルルの手にはいつのまにか千円札が3枚あった。


「違うやつ」

「こっち?」


 そういって黒い箱の裏から万札を3枚取り出した。偽札印刷機なのか? 科学力的に何でもできそうな気がした。

 出来たとしてもやっちゃいけないんだよ法律で・・・


「それで何でも買える」

「へー」


 テルルは万札を珍しそうに眺めた。コンビニならその予算を使い切ることは無いだろうよ。


「いらっしゃいませー!」


 コンビニに入ると香織ちゃんが腹式呼吸的な、腹から出す声で出迎えてくれた。声優の発声練習・・・こういうところがダメなんだよな。俺は心の中で思った。


 眠気は無いが、眠気対策でコーヒーと、あとサンドイッチでも食べるかな。そう思っていると


「あたためはどうなさいますか?」


 モーリーがもう弁当とでっかいコーラをレジに持って行っていた。富沢とテルルは二人でいろいろな商品を見ている。テルルがこれは何か聞き、富沢がそれに丁寧に答えていた。


 各自、食べ物や飲み物を買ったが、テルルと富沢はカゴにたっぷりといろいろな商品を買い込んだ。おかげで俺もレジに入らなければならなかった。2人がかりだ。


 テーブルに戻ると藤野とモーリーはもう弁当を食べきっていた。モーリーはおやつのお菓子を食べている。そして不安げに戻ってきた富沢に聞いた。


「ぼ、僕たちはこの中からしばらく出れないんでしょうか」

「うん、ごめん。そうなる」

「拉致監禁?」

「たいへんもうしわけない」


「は?ちょっとそれは困る。こっちにはスケジュールがあるんだ!」社長が大きな声を出した。「明日も明後日も会社に行かなきゃならない!」

「オレだって親方に怒られちまう」

「私もできれば学校に・・・」


 危機感がないのは俺とモーリーだけか。俺はこのコンビニが職場だし、モーリーは引きこもり無職だ。


「悪いとは思ってるが、今はちょっと気にせずにいてくれないかな」富沢がみんなをなだめた。


「そんなわけにいくか!社長だぞ、責任があるんだ」社長がバンバン机を叩いた。「赤字ギリギリなんだよ」


「まあまあ、人間ひとり居なくなっても世界ってのは何事もなかったように回るんですよ」俺はちょっと悟ったようなことを言ってみた。「大統領だってトップスターだって、死んで三日もすれば悲しみもしません。そんな世の中です」


「俺は社長だぞ、会社が潰れてしまう・・・」社長はちょっと元気がなくなってしまった。


「ねえ、穴澤社長」富沢が言った。「昔のアニメに出てきたコピーロボットって知ってますか?」

「鼻を押すやつか?」

「そうそれ、実はアレが動いてる。外の世界で」

「そんな馬鹿な」

「本当。だから安心して」

「信じられるか」

「そこを何とか」


「もういい、わかった。わかったから早く終わらせてくれ。そして早く帰らせてくれ」



「じゃあ、話すね。ちょっと長い話だ」


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