表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/90

大衆

 ここからはテルルの話だ。



 人はね、欲望に支配された生き物なの。


 死ぬまで健康な体を手に入れた人々は、さらなる欲が出てきたの。


 地球にも美容クリニックってあるわよね。

 日本のテレビでCMをよく見るけれど、あれもね、顔もね、DNAの書き換えが可能なのよ。だってDNAに書かれているんだから。


 眉の太さはこれぐらい、形はこんな感じ。顎の脂肪の付き方はこんな感じで頬の脂肪はこんな感じ。鼻の高さはこのぐらいでって、すべてDNAに書いてあるの。


 人々はそれを自由に調整したいって言いだしてね。これはビジネスだからすぐに可能になった。

 顔の輪郭、骨の形は変化にすごく時間がかかったけど、頬や顎の脂肪の付き方はすぐに効果が出た。男の人の頭髪が薄いのもすぐに生えた。


 体型も変更可能だった。身長は成人だと変えるのは難しかったけど、成長期前の子供なら身長だって自由自在だった。


 女の人はスリムになってグラマラスになって、男の人は細マッチョになった。これもね、食べても太らない人っていうDNAが使われて、食べても太らない理由はいくつかあるんだけど、それも調整されて、一切努力しないで理想の体型を手に入れた。


 テルルもそうなのかって聞かないでね。

 全員がそうなのよ。気軽に調整できたのよ。服を選ぶみたいにね。



 ここまでで、世界から完全に病気がなくなり、全員が死ぬまで健康な体を手に入れて、外見も自分の好きな外見を手に入れたわね。

 これで世界は完璧になったと思う?



 まだ大きな問題があるのよ。

 それは犯罪よ。

 肉体と容姿は完璧になったけど、心は醜いままだった。


 またもや大衆が騒ぎ出したわけね。犯罪撲滅ってね。


 人の感情っていうのはね、驚くかもしれないけれど、DNAによって決まっているの。


 どんなものに興奮するのか、どんなものに安らぎを感じるのか、どれぐらい興奮するものを求めるのか、安らぎを求めるのか、そういうのって体から来る感情なのよ。

 そして体を作っているのは、もちろんDNAなのよね。


 そしてね、投獄されている犯罪者と、犯罪を犯すなんて考えたこともない人とのDNAには、明らかな違いがあったのよ。この調整はかなり難しかったけど、獄中の犯罪者で実験が繰り返されて、犯罪者たちは、おとなしくて臆病で気の弱い人に変わったの。


 さらに犯罪歴のある人のDNAも変更されたの。刑期が終わって釈放された人ね。

 罪は償っていたけど、かなり再犯率が高かったし、大衆の勢いもあった。

 犯罪歴のある人全員のDNAを変えたのよ。



 だけどね、大衆の勢いはここでは止まらなかった。


 暴力性にはスイッチがあるの。キレるとか地球では言うわね。

 その、スイッチがいつ入ってしまうか分からない、隠れた暴力性っていうのも排除しろって大衆が言い出した。

 こんな怖い世界では安心して眠れない。世界に安心と平和を。私たちには安心と平和を手にする権利があるってね。

 そしてその技術はあるんだから、使わないのは間違っているって言うわけ。


 もうここまで来ると大衆の言いなりよ。少しの人が言っているわけではなく、世界がみんな言ってるんだもの。


 世界のほぼ全員が、「絶対に暴力なんて振るわないタイプの人」になった。


 ここまでくると、そのDNAの変更は全て法律になった。役所で身分証を提示して薬を飲むのよ。そしてサインするの。飲みましたってね。



 暴力性は排除した。さて、あと何が残っているでしょうか。



 窃盗とか詐欺とか、物欲に関する心が問題になったのね。

 だけど、この犯罪を無くすのは難しかった。他人をだまして自分だけ得をしたいって心は何なのか、何が原因で、どんな心に基づいてそういう行動をしてしまうのか。

 でも、物欲っていうのは誰もが持っているものだし、人によって強い弱いはあるけど、DNAに大きな違いは無かったの。



 そこで大衆は驚くべき行動に出たの。


 すべてを無料にし、経済を無くしたの。

 所有するという概念を捨て、すべてをみんなで分け合ってシェアする世界にしたの。他人より多くのお金や物を所有するという行為の意味を無くしてしまったのよ。



 そしてその頃にはね、世界は機械化が進んでいたの。


 神アプリで適材適所のバランスの取れた世界では、文明が一気に加速していた。

 機械はものすごい速さで進化して、AIが世界のほとんどの仕事をこなしていたのよ。

 労働を強いる、誰かを労働させるって行為は悪になっていたのよ。


 ボロンが発明されて、何でも作れるようになって、環境保護団体は植物を採るな、動物保護団体は動物を獲るなって言って、農業や酪農や漁も猟も禁止された。自然はノータッチよ。法律でね。



 そしてね、ここまでの大衆の大きな「うねり」を動かしていたのが、ジルコンという名前の「神アプリ」だったのよ。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ