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健康

 テルルは長い廊下を歩くとき、少しフラフラしていた。そして息も上がっていた。

 これだけの長い間眠っていたのだ、無理もない。

 マリーもそれに気付いたようだった。


「少しリハビリしたほうがいいな。歩く程度からゆっくり始めて、徐々に体力を取り戻せ」

「そうね。これじゃまるで、病人だわね」

「トミー、テルルのリハビリを見てやってくれ。無理させないように、徐々にだぞ」

「わかった。まかせとけ」


 テルルのリハビリが日課になった。テルルはすごい速さで体力を取り戻していったが、そのぶん筋肉痛がキツイようだった。


 体力が回復してくると、ふたりでジムに行ったりゲームセンターに行ったりスポーツをしたり、徐々にハードなものが出来るようになっていった。

 マリーはよく様子を見に来たが、自分は参加しなかった。


 テルルの体力がかなり回復してきたころ、マリーが白黒の何かの写真を見せてきた。

 何の写真か全くわからなかったので、俺がじーっと見ているとマリーが「子供だ」と言った。


「どれが?」

「この小さい塊」

「えーと、何を何て言えばいいんだろうか・・・」


 でかした!でもやったぜ俺の子だ!でもおめでとう!でもパパだぜ!でもない気がした。これは実験だと言ってたし、夫婦ではないのだ。

 お互いにそういった感情は無い。


「いや、何も言わなくていい。ここまで細胞分裂が進んだのは初めてなんだ。今まで9回実験したが、すべて失敗だった」


「9回流産したのか?」

「そんな大そうなもんじゃない。どうやらそのままでは地球人との子供は出来なそうだったからな、私の方のDNAをアレンジしてトライしてたんだが、地球の男のは元気が良すぎてな」

「元気が良すぎて?」少し顔が赤くなった。


「通常は、男と女のDNAが半分ずつ混ざり合って、そこにランダムな因子が入るんだが、私のとの実験では最初、トミーの遺伝子が75%を占めてしまっていた」

「そりゃ元気がいい」


「私の卵子を強くしようといろいろ調整して、やっとここまで来たんだ」

「細胞分裂が進んでいるってやつだな」


「もしもこれが失敗したら、次はトミーの玉を調整させてもらうかもしれん」

「痛いのはイヤだぜ」

「玉に注射だな」

「シャレにならん」


「出来れば、トミーのほうはいじりたくないんだ。DNAに何も変更を加えていない天然ものだからな」

「子供の為にも俺の為にも、安静にしててくれよ」

「心得た」




 マリーは安静にしながらも、俺にDNA治療の歴史の話をしてくれた。



 私たちはな、DNAにどんどん変更を加えていって、病気を治療していって、病院に来るのはほとんどケガ人だけになった。

 世界から病気がほとんど消えて、ほとんどって言うのは、病気になるけど全ての病気がすぐに治るって意味だな。


 人々は少しずつワガママになっていった。

 人間ってのは文句を言う生き物なんだ。どんなに満たされても、文句を言う材料を探してしまうんだな。


 病気になってもすぐに治る、では満足しなくなった。

 一瞬でも病気にはなりたくないって言いだしたのさ、テルルのよく言う大衆ってやつだな。

 一般大衆何万人、何億人ってのが騒ぎ出すと、それは誰にも止められないのさ。


 そして、その大衆の願いを叶えることは、可能だったんだ。


 人間には、病気にならない人ってのが多くいる。


 生まれてから死ぬまで1回も病気にならない人だ。そして、その人たちは病気にならないから資料が少ないんだ。

 医学界ではまったく目立たない、病院要らずの彼ら彼女らの体を支えるDNAには、完璧なバランス調整をする優れたDNAがあったんだ。


 死ぬまで健康ってやつだな。


 1回も大きな病気にも小さな病気にもなったことが無い人ってのを探して、まあ、大半は病気になったことを忘れているだけの人だったが、それでも、死ぬまで健康なDNAのサンプルはたくさん集まった。計算よりかなり少なかったがね。


 医者はこの死ぬまで健康な体にする計画に、乗り気じゃなかったのさ。医者の仕事が無くなるからね。

 でもね、大衆のその大きなうねりみたいなものは、誰にも止められなかった。


 人には健康になる権利がある。そこに健康になる技術があるのになぜ使わないのかってさ。


 大衆の勢いに負け、私たちはDNAを改変した。

 ほとんどの人が、死ぬまで健康な体を手に入れた。


 小さな薬を一粒飲むだけでね。



 

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