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重くないぞ

「それで、なぜ俺と子供を作る?」


 俺は頑張って冷静さを取り戻し(その為に冷たい飲み物を2杯飲んだけれども)あらためてマリーに質問した。


「それに、地球人とトラン人って子供を作れるのか?」


「うん、それも実験のうちなんだが、最初の質問に戻る」

「最初の質問?」

「あの姿は何なのかってやつだ」


「小さな黒い体、重いやつだな」


 俺は小さな黒いマネキンを思い出した。テルルを持ち上げたときは重かった。18キロって言ってた。


「重くないぞ」マリーが言った。


「トミ、女の人に重いって言っちゃいけないって知ってる?」


 テルルがまた怒った。


「あの姿でもダメなのか?」

「ダメに決まってるじゃない!」テルルが大声で言った。


 マリーはそんなテルルを見て笑った。



「あの体はな、人類の最終進化の到達点なんだよ」


「最終進化の到達点?」

「ゴール地点、完成形、これ以上進めない場所」

「あれがゴールなのか?」


 マリーは腕組みをしながら天井を見て話していた。


「私にも、あれが本当にゴールなのか、それとも進化の行き止まりの間違った道に迷い込んでしまったのか、正直今でも分からないんだ。でもあそこにたどり着いた。違う道に行くことは出来なかった」


「私たちは、幸せになろうとして、不幸をなくしていって、最終的にあそこにたどり着いてしまったの。みんなが願った。大衆がそう願ったのよ」


 大衆が願った・・・テルルは前にも大衆という言葉を使った。大衆が歴史を作る、頭のよくない大衆、神アプリの言いなりになった大衆・・・たしかそんな話だった。しかし俺の頭では・・・


「まったくわからん」



 マリーがこの施設を説明すると言って、俺たちはファミレスを出た。

 この建物は地上20階で地下30階ということだったが、1フロアの面積がものすごく広かった。


 地上の一番上の階には大きなラウンジがあり、様々な自販機が並んでいた。

 ラウンジを含む上の3フロアはデパートのようになっていて、何でも売っているようだった。

 ゲームセンターやスポーツ施設もあって、ゲームセンターには体を使うような大型のものが並んでいた。ここの入院患者のリハビリに使うのかもしれない。働いている職員のストレス発散に使うのかもしれない。


 その下には病室や研究施設が入っているということだったが、俺たちの手首にはめられたパスではエレベーターは止まれないということだった。


 俺たちは上の3フロアを見学すると、エレベーターで下まで戻った。俺たちのいたフロアは地下10階だった。


 しばらくの滞在場所として、マリーは俺とテルルに部屋をくれた。個室の病室ってやつだった。枕元に謎のスイッチがいくつかある。

 部屋の中にはシャワーもトイレも付いていた。小さな冷蔵庫もあった。何でも出てくるボロンは無かったから、いろいろな買い物は上のショッピングフロアでしろということらしい。

 俺は金を持っていなかった。


「買い物をする金を持ってない」

「大丈夫だ、ほとんど無料だ。ショッピングフロアの物は、持ち出す商品を出入口でチェックだけしろ。ゲームセンターとか少し有料の物もあるが、お前の腕のブレスレットで好きに遊べる。退院時に一括払いになるが、私が払う。金は気にするな」

「退院?」

「ここは病室だろうが」


 説明を受けながらマリーに、テレビは見れないのかと聞くと、モコソで見ることができると言ってモコソの使い方を教えてくれた。しかし良く分からないので地球のテレビをモコソで見られるように設定してもらった。マリーのあの研究室から電波を飛ばすらしい。WiFiみたいなもんだ。

 そのうちモコソを日本語音声対応に改造してくれるということだった。

 テルルの所で「俺のバッグ」と言ってボロンを使ったことがあったが、あれは特別だったらしい。



「お前はな、新しい薬の実験体ってことになってる。体は健康だが、新しく開発された薬を規則的に服用し、定期的に血を抜かれて、血液検査をすることになってる。薬はここから出てくる。1ハイドで3錠だ。」


 マリーがベッドの横の小さな機械を指して言った。


「1ハイド?」


「うーん、地球だと1日半ぐらいだと思う。なるべく飲め」

 1ハイドは1日半ぐらい。この星の時間は分かりにくい。


「何の薬です?」

「安心しろ、DHAだ」

「頭がよくなるってやつか」

「いいじゃないか」


「それで、血を抜かれるんですか?」

「それはしない。いや、何回か抜くかもしれないが、それよりもだ、私がたまに違うものを搾り取りに来るからな、その時は協力しろ」

「やったぜ!」

「その意気だ」



 マリーとの甘い時間を想像したが、そんな時間はまったく来なかった。


 マリーはテルルの子宮復活のために全ての時間を使い、忙しく動いていた。



 

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