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黄色い車

 ガコンガコン!


 車が左右に強めに揺れた。そしてグググっと長めに左に曲がった。

 ロータリーだな。俺は天井を眺めながら心の中で思った。

 車はロータリーで停車した。そして後ろの扉がバコン!と開いた。しかし体を固定しているベルトは緩まなかった。


「どうすればいい?」俺はスピーカーに聞いた。「シャベルナ!」と言われるのを覚悟で。

「スコシマテ」

 スピーカーは怒らなかった。


 やがて近くに車の停まる音がした。外のスピーカーがトランの星の言葉で大音量で何かを喋った。

 俺は少し動揺した。何かまずいことが起こったのかもしれない。しかし体は固定されている。罠だったのか?俺は軍に不法侵入とかで引き渡されるのか?


 しばらくしてテルルが車に乗り込んできた。


「なんかね、ベルトを外すのが壊れたんですって」

「は?」

「この車も相当久しぶりの出動だったみたいね」


 テルルは苦労して俺の体を固定しているベルトを外してくれた。


「ここは病院でいいのか?」

「研究施設ね、病院の機能もあるけど」

「救急車を使う機会はあまり無いのか?」

「治らない病気の研究が専門だったのよ。病院という意味ではね」

「友達はここで働いてるのか」

「そうね、ここで研究をしてた」

「だから、全ての病気を治す人か」


「降りて、車に乗ってくれる?」


 俺はテルルの車に戻った。ロータリーの横には地下への扉があった。大きく下向きの矢印が書かれている。

 テルルが「アスタティン」と言うと扉が開いて下への道が口を開けた。この旅を出発した時みたいなハイテンションなアスタティンではなかった。


 車は地下へゆっくりと下って行った。


 地下はオレンジの照明に照らされ、下り坂と平坦な道が交互になっていて、車は左回りに地下へと何階層も下って行った。平坦なところには小さな駐車スペースがあり、建物への入り口であろう扉が見えた。扉の上には緑のランプが光っていた。


 左回りに何フロアも下ってウンザリしてきたころに、道を半分ふさぐ形で黄色い車が現れた。

 車はオレンジの光に照らされていた。


「たぶんここね」

「たぶんなのか?」

「白い車って言ってたけど、黄色よね」

「たぶん白なんだよ」


 俺たちは駐車スペースにキレイに車を停め、地下の空間に出た。建物の入り口のオレンジの扉は、たぶん白い扉だ。2枚の扉の上には緑のランプが弱々しく光っていて、俺たちが近づくとそれが激しく点滅して止まった。


 ウィンという音とともに扉が左右に開いた。扉の向こうには白い通路が遠くまで伸びていた。

 扉を入ると、ビリビリ揺れながら扉が閉まった。

 建物の中は壁も天井も床も、白くて眩しかった。右手の壁に受付窓口のような小さな窓があり、小さなテーブルが窓の前にあった。


「キタナ、チキュウジン」


 足元に黒い小さなマネキンがいた。テルルも最初はこの姿だったのを思い出した。プラモデルを着てたけど。

 黒い着せ替え人形は、ヒョイとジャンプして受付窓口に飛び乗った。こいつも18キロぐらいで重いはずだ。


「テヲダセ、チキュウジン」


 俺は素直に従って右手を出した。黒い金属製フィギュアは窓口の中から大きな黒い輪を持ち上げ、俺の手に投げた。黒い輪は俺の手首に巻き付き、ピピッと鳴った。


「ニュウカンキョカ」


 俺は黒いブレスレットを眺めながら「どうも」と言った。テルルも同じように入館許可の輪を着けた。


 俺たちは白い廊下を黒いマネキンについてしばらく歩いた。建物の中にも人の気配は感じられなかった。

 俺たちを先導する黒いフィギュアは少しづつペースが速くなっていって、途中からぴょんぴょん跳ねながらスピードを上げていった。俺たちは早歩きになり、小走りになり、最後はダッシュしなければならなくなった。100メートルほど猛ダッシュが続いたころ、黒い小さな陸上選手はひとつの扉の前で急に止まった。


 俺たちは止まり切れず行き過ぎてしまった。ゼーハーいいながら戻ると俺を見上げて「ココダ」と言って扉を開けた。


 扉を入るとかなり広めな部屋になっていて、右には病室のベッドのようなのが3列並び、その奥には大きなカプセルが5つ並んでいた。俺が最初にこの星に来た時に閉じ込められていたやつ、そしてテルルが出てきたやつだ。今は透明なガラスがついていて、中には何もない。


 部屋の左側には大きな機械がいくつも並んでいて、機械には操作パネルがあり、壁にはディスプレイが並んでいる。テルルのいたラボと同じだが、テルルの所よりも機械が多い。そしてディスプレイの中の1枚には、地球のテレビが映っていた。


「ココダ、ハヤク、タノム」黒いマネキンは機械の上に飛び乗り、ひとつのディスプレイの前で俺を呼んだ。


 テルルの時と同じだ。禁止されている操作を俺にやってくれということらしい。


 俺は言われるがままに操作パネルに表示されるボタンを押していった。リストからどれかを選ぶタイミングで、黒いマネキンは少し迷った。テルルが「一番上」と言ったリストだと思う。

 黒いフィギュアは「サンダンメ」と言った。

 俺は言われるがままにタッチパネルを操作した。テルルは俺の後ろでじっと操作を見ていた。


 全ての操作が終わると「アリガトウ」と感情の無い声で小さなフィギュアは俺に礼を言った。


 そして、機械から飛び降りてカプセルに走った。タタタタッとカプセルの前に立ち、カプセルのガラスに手を触れるとガラスが消えた。黒いフィギュアはカプセルの丸い土台の中心に立った。下から黒い液体が出てきてカプセルは黒い液体で満たされた。


「あ!」テルルが大きな声を出して、慌てて隣のカプセルを何やら操作しだした。


 マネキンの入った黒いカプセルがスーッと透明になった。


 中には赤い髪の裸の女がいた。



 


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