ゲート
目覚めると雨は上がっていた。
テルルは白いボディースーツと黒い革ジャンに着替えていた。
「おはよう」
「おはよう」
「少し待ってね、友達に連絡する」
そう言うとテルルは、黒い革ジャンから黒い手袋を出してはめた。壁のディスプレイが起動し、ウインドウが開き、文字がたくさん流れている。何かのデータをやり取りしているようだ。
「チャットよ、地球で言うとね」
「なるほどな」
「終わり!」
友人とのチャットは30秒ほどで終わった。
「ここから先は、軍事的重要施設ってやつに指定されててね」
「軍事的重要施設?」
「ゲートを2つ通るんだけど、あなたは通れないのよ」
「どうする?」
「とりあえずゲートの近くまで行って、友達と合流する」
テルルは運転席に座り、車を発進させた。
「たぶんゲートには誰もいないと思うんだけど、あなたは後ろにいてくれる?」
「仰せの通りに」
俺は言われたとおりに車の後ろのシートに座って、窓から外の風景を眺めた。外は森というより弱々しい林に変わっていた。
テルルは車をゆっくり走らせ、海沿いの道を離れて林の中の一直線の道を走った。俺は外を流れる弱々しい太陽で必死に生きてる林をずっと見ていた。
しばらく走るとテルルは車を止めた。
「ゲートに着いたわ」
テルルは運転席でそう言った。しかし後ろの席からだと弱々しい林しか見えなかった。
「見ても大丈夫よ、たぶん」
後ろのシートでおとなしく座っている俺を見て、テルルが笑って言った。
「監視カメラとか無いのか?」
「見られるだけなら大丈夫よ」
俺は立ち上がってフロントガラスの向こうを覗いた。100メートルほど先に、高速道路の料金所のようなゲートが見えた。レーンは2つで右には緑のランプ、左にはオレンジのランプが光っている。そしてゲートの横には林の木々と同じぐらいの高さの灰色の壁があった。
「少しここで待ちましょう。友達が迎えに行くって言ってたの、何かいい方法を思いついたらしいわ」
しばらく待っていると、遠くからピピピッ、ピピピッという警告音が聞こえてきた。トラックが交差点で曲がるときのような音だ。トラックのよりも音量がかなり大きい。
そしてゲートの向こうに白とオレンジの車が見えた。車はゲートを通過して壁のこちら側に出てきた。
俺たちの車と同じ形で、カラーリングが違うだけに見えたが、屋根の上にはオレンジの激しく点滅するランプが付いていた。
「あれね、なるほど」
「ずいぶん派手な自己主張の強い車だ」
「考えたわね、いいアイディアだわ」
「何なんだ?」
「あれはね、救急車よ」
地球のよりも大きな救急車は、ゲートを出た後こちらの車にまっすぐ向かってきた。一旦通り過ぎ、Uターンして俺たちの車の前に停めた。
バコッっという大きな音とともに後ろの扉が観音開きで開いた。そして上に付いたスピーカーから大きな声が響いた。この星の言葉だった。俺には理解できない言葉だ。
「何て言ってる?」
「重傷者を速やかに車に乗せなさい」
「重傷者って俺か?」
「その通り、これならトミもゲートを通れる」
「スキャンとかされないのか?」
「救急車の中の人が身元をチェックするから、ゲートではチェックしないのよ」
「救急車の中の人?」
「誰も乗ってないわ」
開いた後部扉から車の中が見えた。中にはベッドが真ん中にあり、横にはイスが、その周りの壁を治療用であろう機械が埋め尽くしていた。
「解剖とかされないか?」
「しないわよ!」テルルが怒って言った。「早く行ってベッドに寝て。私は後ろをついていくから」
俺は車から出て救急車に乗り込んだ。乗り込んだ瞬間にバコン!と後ろの扉が勢いよく閉まった。扉が閉まったと同時に天井の小さなスピーカーから声がした。
「コンニチハ」
「こんにちは」俺はスピーカーに答えた。
「アナタハ、チキュウジン、デスカ?」
スピーカーの声は何というか、ワレワレハ、ウチュウジンダ。みたいな感じだった。
俺はベッドに腰かけた。
「はい、地球人です」俺は真面目に答えた。第一印象ってのは大切だからな。
「オソイ、スワルナ、ハヤクネロ、ワカルカ?」
ちょっと乱暴な日本語だが、外国人にはよくあることだ。俺は気にせずに素直に従って、ベッドに横になった。
「ウゴクナヨ」
スピーカーがそう言った瞬間に、バチン!と俺の体は頑丈な革のベルト数本で固定された。
「う、動けないですが・・・」
「シャベルナ」
俺が黙ると、車はピピピッっという警告音を鳴らしながら走り出した。後ろに窓は無く、外は全く見えなかった。
車はガタゴトと揺れながら長時間走った。車が走っている間、俺はベッドに固定され、天井だけを見ていた。
1回スピーカーに話しかけたが、間髪を入れずに「シャベルナ」と言われてしまった。
俺は大人しく、スピーカーを見ていた。




