スポーツ
「ねえ、あれ見て」
テルルが下のほうを指さして言った。
下を見ると俺たちの車が路肩に停まっているのが見えた。そして車の先500メートルぐらい行った道路脇に、大きな平たい屋根の建物が見えた。
「またやるのか?」
それは旅の途中で何度も立ち寄った施設だった。スポーツ施設だ。
地球とは少しルールが違うが、テニスやバドミントンやバレーボールのようなスポーツをすることができる。コートがあってネットがあってボールを打ち合うタイプのスポーツが、数種類できるようになっている。
この施設にはシャワー室が付いている。
俺たちは度々この施設に立ち寄り、汗だくになるまでボールを打ち合った。そしてシャワーを浴びた。
「あそこに寄って運動して、シャワーを浴びてから少し眠りましょう」
「友達の所に急いで行かなくてもいいのか?」
「ここからは少し慎重に行きたいから、少し休憩してからね」
「休憩するのに運動するのかよ」
「久しぶりに会うのに太ったとか思われたくないのよ!」
俺たちは苦労して登った急な坂道を下り、車に戻った。車を少し移動させ、スポーツ施設の駐車場に入れた。
このスポーツ施設の駐車場には必ず車の充電をする設備が付いていて、体を動かしている間に車の充電をしてくれるとテルルが教えてくれた。
ここのシャワー室にはボロンが付いている。ボロンとゴミ箱が並んでいて、汚れた服をゴミ箱に入れると、となりのボロンから洗濯されたような服が出てきた。畳んではくれない。
小さなボロンは車にも装備されていたが、電力消費がすごく大きいということで、テルルは本当に必要なものにしか使いたがらなかった。
駐車場に停めて車を降りた所で、俺はテルルに聞いてみた。
「前に、ボロンはすごく電気が必要って言ってたけど、充電できるここでまとめて作るわけにはいかないのか?」
「うーん、仕組みは私にも正しく説明できないんだけど、ボロンの中には材料のカートリッジみたいなのがいくつもあって、それが空になると作れないのね」
「カラープリンターみたいな感じか」
「ゴミ箱に入れたものは分解されて、90パーセントぐらいはカートリッジに入るんだけど、車についてるボロンはカートリッジが小さめだから、そのカートリッジに入りきらないものは車の外かどこかに捨てられていて・・・やっぱり正確には説明できない」
「いや、十分わかった。無限には出てこないってことだな」
ボロンの仕組みは専門外って事らしい。テルルにも知らないことは多い。
「今日は勝つわよ!」
テルルは気合を入れてスポーツ施設に入って行った。
入り口の受付機械には、何種類かのスポーツの絵が描かれたボタンがある。ボタンを押すと、近くのボロンから道具が出てくる。
今日はバドミントンのようなスポーツのボタンを押した。ボロンから数個のボールとラケットが出てきた。ボールやガットの付いたラケットなどは消耗品だから新品をボロンで出すらしい。帰る時にはもちろん返却する。
更衣室にはスポーツウエアが用意されていて、俺はこれから始まるハードな時間に少し憂鬱になってスポーツウエアの並んだ更衣室で、ゆっくり着替えた。
コートに出るとテルルが待っていた。
「ちょっと、元気出しなさいよ!」テルルが気合の入っていない俺の顔を見て言った。「別のやつでもいいけど、変える?」
「いや、これでいい」
テニスボールのような緑のボールに大きめの鳥の羽が何枚もついているのを、テニスラケットみたいなので打ち合うスポーツだが、ネットが高く、ジャンプしないとスマッシュが打てない。
俺たちは1時間か2時間か、汗だくになりながらそのスポーツをした。
途中に休憩をはさんで、足が動かなくなるまで戦った。
テルルは強く、最初のうちはテルルが勝ちを稼いだ。しかしスタミナが切れてくると、俺のほうが勝ちが多くなった。
最後はテルルのほうが先にスタミナが切れて、コートに座り込んだ。
「限界、終わりにしましょう」
「そうしよう」
最終的な勝ち数はテルルのほうが少し多かった。
「私の勝ちだけど、スタミナで負けたから引き分けね」
テルルはフラフラしながら立ち上がり、シャワー室に向かった。
シャワーを浴びて外に出ると、雨が降り出していた。
「軽くご飯食べて、この駐車場で少し眠りましょう」
「走らせながら寝たら起きるころには着くぞ」
「ここからは慎重に行くって言ったでしょ」
「そうだっけ・・・」
「休んだほうがいいわね」
車の中の食料は、旅の間にほとんど無くなっていた。
水などはボロンで作っていたが、こういう施設で買い込むこともあった。軽い食事や、菓子のように固めた栄養補給食や飲み物などは売っていた。前に金のことを聞くと「お金は気にしなくていいのよ、場所によって無料だったり私が出したりしてるけど、今はお金が無くても生きていける世界なのよ」と言っていた。
俺たちは食べ物を買い、食事をして歯を磨いて車の中で眠った。歯ブラシはトランにもある、もちろん。




