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神アプリ

「神アプリ?」


 俺は握られた手を見ながら言った。テルルの手は冷たかった。


「そう、私たちの文化にも、地球と同じで宗教がある」


「神様を信じてるのか?」


 俺は無宗教だが、しいて言えば浄土宗だ。死んだら浄土宗の坊主を呼ぶだろう。


「宗教を信じるのは別にいいのよ、苦難を乗り越えるための心の助けになるし」

「そうだな」

「そして、地球でみんなが神様に祈るように、この星ではジルコンに祈ってる」


「アプリの名前がジルコンってことは、神ってことか」

「恐れ多い名前だと怒る人も多かったけど、若者は気にしなかった」

「最近の若者ってやつか」

「面白がって使った」


「それで、どんな機能があるんだ?」パンパンと手を叩いてスマホに祈るんだろうか。「課金すると何でも叶えてくれたりするのか?」


「占いのアプリね」

「占い?」


 俺は目を丸くして笑ってしまった。


「初めはみんな気にしなかったのよ。名前は気に入らないけど占いなら別にいいかって」

「占いじゃなかったのか?」

「占いよ、よく当たるね」

「当たるのか」


 テレビの朝の占いなんてのは適当にやってるってのがよく聞く話だが、風水とか言われると俺もちょっと気にしたりする。風水は占いじゃないとか言うしな。


「さっきの話、データ収集」

「おお、なるほど。集めたデータで占いか」

「それも、ものすごい精度で当てるんだけどね」

「そんな当たるか?」


「お店で料理を選ぶときに、迷ったらジルコン様に聞く。そうすると答えてくれるの」

「はあ・・・」

「道に迷ったら、ジルコン様に聞く。それも答えてくれるの」

「はあ・・・」


「迷わなくてもジルコン様に聞く。答えてくれるの」

「えっと、何を聞く?」


「ジルコン様、暇ですって言うとするでしょ?するとジルコン様は、ではこの地図に表示されたお店に食事に行きましょう。素敵な出会いがあるかもしれませんよって言うわけ」

「出会いがあるのか?」

「あるのよ」

「なんで?」

「向こうもジルコン様に言われて来てるから」

「仕込みかよ!」


「でもね、その人のデータを収集して、持ち主がどんな人か知っているわけだから、このタイプとこのタイプをくっつけたら上手くいくっていうのもデータ化されているのよ」

「それを計算して出合わせるのか」

「そうよ」

「すごいな」


「高性能すぎたのよ」

「そんなにか?」


 ベストマッチングを探すアプリなんていくらでもありそうだが。


「恋愛とかじゃなくてね、すべてに答えてくれるアプリなのよ」

「全て?」


「生活のすべて」

「うーん、生活の全てって、どうなる?」


「人々は神アプリに支配されたの」

「支配?」


 俺はまた驚いて笑ってしまった。


「人間はね、これは大衆って意味だけど、頭があまり良くないのよ」


「俺もあまり良いほうじゃないが・・・」

「それは置いといて、みんな自分が他人より頭がいいと思って生きてるのね」

「自分がバカだと思って生きてちゃ辛いもんな」


「だから他人に後れを取らないために、みんなが欲しいっていう物は自分も欲しがるし、今ならお得ですよって言われたら、他人よりも得をしたいって心理が動くし、万が一のためにこれを持っておくと安心ですよって言われたら、万が一の時に他人より上に行くために買ってしまうし、例を挙げたら切りがないんだけど、分かるかしら・・・」


「ちょっと当てはまりすぎて心が痛い」


「それは経済のためには必要なことだから悪いとは言わないんだけど・・・」


 経済の為か、消費社会には無駄な買い物も必要だってことか。


「神アプリもそれに該当したのよ」


 テルルの俺の手を握る力が少し強くなった。


「みんなが使っていて、みんながすごいって言ってて、みんなが使っているのに、まだあなたは使ってないの?ってまわりから言われて」


「みんなやってるよ?って言うやつよくいるな、だから何だって俺はいつも思うんだが、それに世間のみんなは流されるんだな」


「その通り」


「それで爆発的に普及したのか」

「そうね」


「それでどうなったんだ?」

「考えなくなった」

「何を?」

「全てを。全てをジルコン様に聞いて生きるようになった」


「だって、別に聞かなくたって生きていけるだろ?」

「きっと聞かないわけにはいかなかったのよ。仕事に出かけるときにジルコン様が言うわけ、今日は違う道で行ったほうがいい、トラブルに巻き込まれるかもしれないって」

「そのまま同じ道で行ったらどうなる?」

「知らないわ、みんな違う道で行くもの。それにトラブルに巻き込まれなくても、それはそれで「かもしれない」だからいいのよ」


「汚いな」

「でも大衆はね、リスクを減らしたいって感情に動かされやすいのよ。ジルコン様の言う通りにしないで、もしも嫌なことに出くわしたら、やっぱり言うことを聞いておけばよかったなって思っちゃうわけ」

「そうか」


「だから、常にジルコン様に聞くわけ。次は何しましょう、次はどこに行きましょう、次は何を買いましょうって常にね」


「嫌な世界だな」


「徐々に大衆は、ジルコン様の言うとおりに動くようになったのよ」


「まさに神アプリだな」



 

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