戦争
反政府を掲げる過激派が、ある国の軍部を乗っ取りクーデターを起こした。
クーデターは成功し、彼らは国を手に入れてしまった。
彼らに大きな理由は無かった。出来るからやってしまった。力を手に入れたから使ってしまった。そんな感じだった。
惑星トランの小さな国が、惑星ナーヌまで核ミサイルを試しに飛ばしてみた。
核ミサイルは見事にナーヌまで届き、ナーヌの大国の領海で爆発した。
衛星をひとつ打ち上げるのにも時間がかかった時代、星間ミサイルを1発打ち上げるのにも時間がかかった。
ナーヌの大国は核ミサイルを作り、トランに撃ち返した。それも2発同時に。
1発は目標の国に落ちたが、もう1発は失敗し、別の国に落ちた。
そこからはもう核ミサイルの撃ちあいで、地上は放射能の地獄の世界になるだろうと大衆は覚悟した。
だが大衆の予想に反して、激しい撃ちあいは始らなかった。
2つの星は、時間と金をかけて1発打ち上げ、また時間と金をかけて1発打ち上げた。この時代の技術力はまだそれほど高くなかったからだ。
「アポロが月に行ったぐらいの技術力ね」
テルルが言うには、月に行く代わりに隣の星に核ミサイルを飛ばした。そのぐらいの感覚だったらしい。
星間戦争は始まってしまって、トランの各地に数発の核ミサイルは落ちたが、精度は低かった。大気圏突入で溶けてしまって不発になることも多かったし、海に落ちることも多かった。
そんな星間戦争だが、利点もあった。長く続いていた惑星内の国家間戦争が無くなった。過激なテロもほとんど無くなった。戦車の多くは解体され、地上で人々が殺しあうことは少なくなった。
星間戦争を勝ち残り、生き残るために全ての国が団結した。そして惑星全土の民衆が、初めて団結した。
惑星統合政府が作られ、統合軍が作られた。
そして統合軍の軍事技術は、ロケット開発と迎撃技術が主体になった。
ロケット技術主体の軍上層部には、優秀な科学者が集められた。
〇ナーヌの軍事科学者は考える
こちらのほうが惑星の重力は弱いから、少ない燃料で多くのミサイルを打ち上げることができる。
さらに、こちらは星系の内側を周っていて、外側に向けて打ち上げるのだから、こちらのほうが1発の燃料はさらに少なくて済む。
状況的にはこちらのほうが有利だ。
この戦争、最終的には、我がナーヌが勝つ。
〇トランの軍事科学者は考える
重力が強く、打ち上げコストが高い我が軍は、状況的に明らかに不利だが、惑星の重力が強いということは惑星の資源の埋蔵量で考えれば、こちらのほうが多いはず。
あちらの星のほうが早く資源不足に陥る可能性が高い。
それならば、相手に多くのミサイルを撃たせ、早く消耗させてしまうのがいい。
こちらは、相手のミサイルを撃ち落とす迎撃衛星を数多く打ち上げ、飛んでくるミサイルを片っ端から宇宙空間で撃ち落としてしまおう。
そうすれば、向こうはすぐに資源が無くなるのではないだろうか。
まずは防衛衛星優先、攻撃はその後だ。
そして最終的には、トランが勝つ。
攻撃の得意なナーヌ、防衛の得意なトラン。2つの星の間で長い長い戦争が始まった。
戦争に伴い、テレビやラジオの電波放送が禁止された。2つの星の距離は近く、相手の星にも電波が届いてしまうからだ。
テレビの放送など、いくら規制をかけたとしても、どこに相手にとって有利な情報が隠れているか分からない。
例えば、どこかで大きな祭りがあるというニュースだけでも、そこに多くの人が集まるということを敵に教えてしまうことになる。ミサイルの標的になってしまう。
電波が軽く届く距離の2つの星では電波放送が禁止され、防衛衛星には妨害電波の機能が追加された。
文化を伝える放送は有線通信が主体になった。携帯電話のような持ち運びできる通信機は、地下空間での使用が主になった。
文化は地下空間で広がった。
大きな街は地下に広大な空間を作った。そして地上は観光で遊びに行く場所になった。
2つの惑星が近づくとき、たまに宇宙空間をミサイルが飛んだが、地上に落ちることはほとんど無かった。




