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歴史

「とりあえず、出発しましょうか」

 テルルが車のドアを開けて言った。


「友達の所までどのぐらいかかるんだ?」


「けっこう遠いわ、覚悟してね」

 テルルは車に乗り込んでしまった。


「だから、どのぐらいなんだよ」俺はテルルの後を追って車に乗り込んだ。


「地球の時間に変換するのって面倒なのよ、5オキシぐらいよ」


 テルルは運転席の何かを操作していた。

 シートに座らずに操作しているのを見ると、自分で運転するわけではなさそうだ。立ち寄り地にシャワールームを追加したのかもしれない。



 そこから2人の旅は何日も続いた。



 時計代わりのスマホは、すぐに電池が無くなってしまった。リュックの中にはUSBの充電ケーブルしかなかった。そしてUSBを差す場所はどこにも無かった。


 たとえ、コンセントの充電器があったとしても、100ボルトのコンセントも無かったけれど。



 旅をしながらテルルは、ニオンを逃げ出した後の歴史を教えてくれた。


 ナーヌとトランに分かれた人々は、競い合うように文明を取り戻していったらしい。


 木を切り倒して畑を作り、わずかに持ち込んだ種を植えて栽培し、数頭の家畜を大切に繁殖させ、海で魚を捕り、徐々に村を大きくしていった。

 移民船は惑星の昼側のいろんな場所に降りていたから、連絡も取れずに各地でバラバラに村を大きくするしかなかった。着陸船の通信機は、すぐにバッテリーが切れたからだ。


 移民たちは子供をたくさん作り、働き手を増やした。働き手が増えると子供が増えた。子供が増えると食料消費が上がる。食料が無くなると必死に山や海で食料を探した。


 人口が増え、村が町になる頃には地面の下から鉄を掘り起こした。鉄の道具で生産性は上がり、人口はさらに増えた。


 やがて街になり国になり、隣の国とのイザコザが戦争に発展した。


 戦争は道具の進化のスピードを上げた。すぐに蒸気機関を取り戻した。知識はあるのだ。技術を取り戻すだけで良かった。


 そして、地下から石油を汲み上げ、生成する技術までたどり着いた。


 ガソリンエンジンを再び手にするまで、それほど長い時間はかからなかった。

「移住した世代の孫が、お爺さんになったころ」テルルはそう言った。


 ガソリンエンジンで文明は、かつての輝きをほぼ回復した。いくつかの国が兵器開発を競っていて、産業はさらなる加速をするだろうと思った。


 だが彼らは過去の過ちを繰り返さなかった。

 見上げればいつもそこにはニオンが見えた。


 自分たちが住めない星にしてしまったニオンが、じっとこっちを見ていた。


 産業は二酸化炭素排出量に厳しい規制がされ、ガソリンエンジンも戦争の兵器以外は大排気量が認められなかった。

 そして各地に、太陽光発電所が数多く作られた。


 地球のような太陽光パネルではなく、鏡で光を集めて水を沸騰させ、蒸気タービンで発電するタイプの太陽光発電だ。

 太陽の位置が常に同じならば、こんな効率のいい発電はない。この発電で全ての電気を賄うために、昼側には多くの発電所が作られた。


 緑を大切にしながら岩山や砂漠や海上などに数多くの発電所を作り、温暖化の気配を全く感じさせないコントロールをした。


 電気を安定して供給できるようになると、テレビやラジオの電波が飛び交うようになり、2つの星は無線で連絡を取り合うようになった。2つの星の文明レベルはほぼ同じだった。


 惑星の中では、大きな大陸間の戦争が続いていた。しかし、冷戦と呼べる兵器開発戦争だったし、2つの星は概ね平和だった。


 だが、テレビの普及による情報爆発は、若者の中に過激派思想を生み出した。各地で過激派武装組織が発生し、世界は徐々に不安定になっていった。


 そして人工衛星の打ち上げが可能になったころ。


 2つの星の間で、星間戦争が始まった。




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