移住
「さっきはどこまで話したかしら」
テルルはまた俺の横の席に戻った。
「さっき?」
「森の環境保護の話ね」
「緑を大切にね」
「森の環境保護、それは過去の反省なのよ」
「反省?」
「私たちの祖先、ニオンという故郷の星を逃げ出した私たちの祖先の行動のね」
「温暖化暴走だっけ?」
「あら、DHAが効いてきたみたいね。その通りよ」
「そんな変わんねえよ」俺はちょっとムッとして言った。
「水の沸騰する温度って、気圧で変わるのは知ってる?」
「俺は登山家だからな。標高の高い山で湯を沸かすと、低い温度で沸騰するってやつだな」
「逆に言えば高い気圧なら沸騰する温度は上がるってことね」
「100度以上ってことか」
「地球の摂氏という単位は、地球の1気圧の時の水の沸点と凝固点を基準にしてるから、この星の気圧は地球とまったく同じじゃないから、微妙に違うかもしれないけれど」
「そんな変わんねえよ」
「今のニオンは、気温は400度ぐらい。気圧はここの8倍ぐらいになっているの」
「400度?」何だそれは。
「おそらく、気温が100度を超えた時点で、海の水が沸騰した。そして大量に水蒸気が大気中に放出されて、気圧が上がった」
「でも気圧が上がったら・・・」
「そう、気圧が上がると沸点が下がるから沸騰しなくなる。だから1回海水の沸騰が止まった」
「うん」
「でも一度大気に放出された大量の海の水の水蒸気は、多くの太陽の熱をため込んで更にニオンの気温は上昇した」
「温暖化の悪循環か」
「そしてまた海の水が沸騰して水蒸気が大気中にって、そんなプロセスを繰り返した。そしてニオンの今の気温は400度よ」
「うーん・・・」俺には難しすぎる話だ。
「ニオンには脱出ロケットに乗れなかった人々がたくさんいたけど、とても生きられる環境ではなくなってしまった」
「生き残りがいたのか・・・」
「大量にね・・・」
「残された人は死んだのか・・・」
「そうね、たぶんね・・・」
「そうか・・・」
「それにね、ナーヌとトランという2つの星に逃げ出した人たちも、とても助けに行ける状況じゃなかったのよ」
「逃げ出すことに成功した祖先だな」
「新しい星に、ほとんど体ひとつで移住して、いきなり原始時代の生活よ。日々食べ物を探して生き残ることで精いっぱいだったはずよ。とても救出ロケットを飛ばせるような状況じゃなかった」
「原始時代って、道具とか持って行かなかったのか?」
「多少はね・・・」
「長い時間がかかったのよ、ロケットを飛ばせるようになるまで」
「乗ってきたロケットは飛ばせなかったのか?」
「切り離すでしょうが地球でも!」テルルは少し怒って言った。「燃料を使い切ってタンクもロケットエンジンも切り離して、大気圏突入用の居住スペースだけで降りるのよ。大きなパラシュートでね」
「なるほどな」
「文明が回復してから、ニオンに探査機を飛ばしたけれど、そこは高温高圧の世界」
「無人探査機か」
「そうね。調査のために何台か無人探査機を送って、海も完全に干上がっているのが分かった。地下も何か所か掘ってみたけれど、大地も熱を溜めこんでいて、地下深くの微生物すらこんがり焼けてたわ」
「生き物が住めない世界か」
「ニオンは死んだ星になったのよ」




