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ニオン

「私たちの祖先は、ニオンで生まれたのよ」テルルは言った。


「惑星移住とかの話か?」


 地球でも惑星移住の話はある。

 火星に何回も探査機を送っているはずだ。何台も探査機を送って、火星に生命がいないか探したりしているし、大気の成分や地下に眠る氷を調査して、地球人が住める環境に変えられないかの研究もしているはずだ。

 俺は、火星の映画を思い出した。大昔のシュワちゃんの映画だ。火星で地下に眠る氷を解かしたら、青空になったんだ。エンディングで。そんな馬鹿なって思った記憶がある。


「そうね、私たちはすごく昔に第四惑星から移住してきた。第六惑星のトランに」

「今のニオンは住めないのか?」


「温暖化暴走が起きてしまったのよ」


「温暖化暴走って?」


「地球でも温暖化問題って気にしているみたいだけど、私たちも蒸気機関のために石炭を燃やして二酸化炭素を出してた。そして地下の石油を掘り出してガソリンエンジンの時代が来た」


「地球と変わらないじゃないか」


「私たちが、地球よりも多くの二酸化炭素を出したのか、ニオンという星が許容量が少なかったのか、今となっては詳しい分析は出来ないんだけど」


 許容量って何だろう。地球は確か海の水に何かが溶け込んでるって言ってたような・・・温室効果ガスか?


「地球よりも少し早い速度で、ニオンは温暖化していった。でも科学技術は、もっとすごい速さで進歩していっていて、有人宇宙船も何回か成功させてた。探査機を何回も他の惑星に送って大気とか分析して、ニオンの外側の第五惑星と第六惑星は、ちょっと惑星改造すればだけど、私たちが生きられる星になるって分かった。2つの星は、地上は緑で覆われてたし、動物もいた。海にも魚は住んでたのよ。いないのは知的生命体だけ」


「今も第五惑星には人が住んでるのか?」


「そうね、でも少し待って。第五と第六、つまりナーヌとトランに住めるって分かって、さらなる緑化のための種とか、海の生物、私たちの食料になる魚の稚魚とかを大量に送って、科学者とか技術者とかも数人送って、環境を整えていった」


「温暖化はどうなった?」


「温暖化も加速していって、植物がなかなか実を付けなくなっていって、海の生物も深海にもぐってしまって・・・」

「そうなのか」


「そしてある時、地下に眠っていたメタンガスが大量に地上に放出されたの」

「メタンガス?」

「温室効果の強いガスよ。知らないの?トミって本当に地球人なのかしら」


 そういえばクイズ番組の豆知識でそんな話も聞いた気がするが、覚えちゃいない。


「私たちは、もうこの星はダメなんだって思った。そしてロケットをたくさん作って、経済なんか無視してみんなでロケットをいっぱい作って」

「タダ働きか?」

「協力しないとそのロケットに乗れなかったのよ」

「なるほど、うまいな」


「それで私たちは故郷のニオンを逃げ出したの。打ち上げるタイミングでナーヌに行くかトランに行くかは決まっていて、燃料が限られていたから、その時に近いほうに降りたの」

「2つの惑星に同時に移住したのか」

「でも本当は、みんなナーヌに行きたがった」

「なんで?」

「トランのほうが重力が強いから。2つの星は大きく違ったのよ」テルルはまた自販機に行って果物を取ってきた。さっきの果物はしゃべりながら食べてしまっていた。


 持ってきた果物は4個、さっきのミカンが2個とリンゴみたいなのが2個だった。


「これ持って」


 テルルに2種類の果物を渡された。右手にミカン、左手にリンゴだ。


「この2種類の果物って、大きさは同じだけど、重さは違うでしょ?」

「そうだな、ミカンのほうが軽い」

「ナーヌとトランも同じで、ナーヌのほうがトランより軽いのよ」

「それは、ナーヌのほうが重力が弱いって意味でいいのか?」

「そう、ニオンとナーヌは重力が同じぐらいで違和感なく移住できた。ナーヌのほうがトランよりも海が多くて、大陸は少ないんだけど、それもニオンに似ていて、気候も穏やかだったの」

「それは、みんなナーヌに住みたがるな」


「でもしょうがない、生き残るためだもの」テルルはミカンを剥いて食べ始めた。「そしてニオンの気温は、水が蒸発する温度を超えたの。地球で言えば気温100度ってことね」


「まじかよ」俺もミカンを食べた。


 ミカンは相変わらず、甘いレモンの味がした。


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