体重
プラモデルは俺の足元で、俺を見上げていた。
「どんな仕組みになってる?」
俺は足元のプラモデルを掴んで持ち上げた。驚いたことに、プラモデルは全然持ち上がらなかった。
「あん」
プラモデルは変な声を出した。あん?どういうことだろうか。俺は両手で持ってちゃんと腰を入れて持ち上げてみた。するとやっと持ち上がった。バーベルみたいな、ずっしりと重いプラモデルだった。いや、プラモデルじゃなかったんだ。
「やめていただけますか」
「何キロあるの?」
「体重を聞くのは、日本でも、失礼になると、認識していますが、違いますか?」
「そりゃ女性に対してはそうだけど、おもちゃだし」
「女性です。この体は、性別は無いですが」プラモデルは言った。たしかにプラモデルに性別は無い。「あなたの体重は、何キログラムですか?」
「俺か?75キロぐらいだったかな、たぶんだけど」
「あなたの質量を、75キログラムと、設定します」設定?設定って何だろうか。「この体の質量は、18キログラムです」
「18キロ!こんなに小さいのにか」
「あなたに比べれば、軽いです」プラモデルは不満そうに答えた。「それに」
「それに?」
「あなたに、やっていただきたい、作業があります」重いプラモデルは言った。「私には、禁止されている行為ですが、あなたならば、問題ありません」
「なんか、あぶない橋を渡らされるんならちゃんと言ってくれよな。あとから分かるのはゴメンだぜ」
「危険は、ありません。こちらへ」
そう言って重いプラモデルは壁のほうに歩き出した。俺は踏みつぶさないように気にしながら後ろをついていった。プラモデルが壁に近づくと、黒い壁の一部が観音開きで奥に開いた。
扉の向こうは小さな部屋になっていて、見たこともない機械が並んでいた。ディスプレイが何枚も壁に並び、よくわからないデータを表示している。パソコンのキーボードのようなものはなく、タッチパネルみたいな画面が、手元に並んでいる。よく見ると文字が色々と書かれているが、何語なのかさっぱりわからない。
プラモデルはタタタッと奥のほうに軽く走って行って、ジャンプしてタッチパネルの上に飛び乗った。18キロなのに軽い身のこなしだ。
「これを見て」
プラモデルが立っているところの大きめなディスプレイが、テレビ放送を映し出した。昔のテレビ番組だ。
昭和な感じのテレビ番組だった。
「私はこれを見て、日本語を覚えた。この時代のテレビは、アメリカのも、他の国のも、だいたい見られるけれど、日本のテレビが好き、そして日本人が好き、日本人は、攻撃性が少ない」
「そうか?変な奴は多いぜ」
「ほかの国に比べれば、穏やか。それに、戦争に負けた」
「大昔な」世代は変わった。「もう戦争を知ってる人間は少ない」
「そんなことより」プラモデルは机の上を走ってタッチパネルを移動した。「大切なこと」
「なんなんだ、意味が全然分からない」
プラモデルはひとつのタッチパネルの前で、何やら腕を動かしている。空中に見えない何かがあって、それを動かしてるみたいに見えた。
するとプラモデルの前の表示画面が変わって赤い大きな文字が点滅しはじめた。文字は読めないが、意味はたぶん「禁止」とか「危険」とかだってことは分かった。
「下の画面」
下のタッチパネルを見ると、赤枠でボタンがいくつか表示されている。
「私にはこの操作は、禁止されている。禁止されていることは、出来ない。だけど、あなたなら、出来る。私も指示を出すことは、出来る。だから、お願いします」
プラモデルはじっと俺の顔を見た。俺もプラモデルの顔をじっと見た。メインカメラっていうんだっけ?まだメインカメラがやられただけだーとか叫んでいなかったっけ?
俺はプラモデル戦争か何かに巻き込まれているんだろうか、もうどうでもよくなってきたな。ちょっとウンザリしてきていた。
「いいよ、何をどうしろって?」
「最初にこれを押して」
俺はプラモデルの指示に従ってボタンを押した。
「次にこれ、次はこれ、リストのいちばん上を、そして実行」
「どっち?」
「こっち」
「最後に終了」
「どっち?」
「こっち」
俺はプラモデルの指示に従ってタッチパネルを操作した。
「ありがとう。待ってて」
プラモデルはそう言うと、プラモデルの頭を手で掴んだ。そして脱いだ。ヘルメットを脱ぐみたいに、頭をスポッと脱いだ。
中には鉄色の人間の顔があった。赤黒いが、人間の顔だった。マネキンのような女の顔、着せ替え人形のような。
マネキンの顔をしたプラモデルはテーブルから飛び降りた。飛び降りると同時に、体が飛び散った。空中でプラモデルをバラバラに脱ぎ捨てた。その中にはマネキンの体があった。着地するときにはプラモデルのパーツは全て外れていた。脱ぎ捨てていた。
「待ってて」
黒いマネキン姿の何かは走って部屋を出ていった。部屋を出ると、俺が入っていたカプセルに向かった。そしてカプセルの丸い土台に乗って両手を広げた。
するとカプセルはガラスに囲まれた。そして、下から出てきた黒い液体でカプセルの内側が満たされてしまった。
まるでSF映画のようだ。
いったいこれは何なんだろうか。
俺は黒いカプセルを睨みながら考えていた。




