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コンビニ

 スティーブンホーキング博士は、あるインタビューでこんな質問をされた。


「地球外知的生命体の存在について、どう思われますか?」


 博士はこう答えた。 


「君は、地球に知的生命がいると思っているのですか?」




 まったくもってその通りだ。人間は自分のことを知的生命体だと当たり前の事として、決して揺るがない真実として、未来永劫変わらない事実として信じて疑わないようだが、それがそもそも間違っているんだ。


 テレビのニュースやワイドショーはくだらない出来事を連日取り上げて特集を組んでいる。芸能人の浮気に薬物に炎上事件に・・・言い出したらキリがない。

 そりゃ視聴率が取れるんだろうよ、見る人間がたくさんいるんだろうよ。こんな人類のどこが知的生命体だっていうんだ。


 ホーキングはジョークだと言ったが、それこそが真実だろう。


「バカばっかりだ・・・」


 俺は独り言をつぶやいた。コンビニの駐車場で。



 俺の右手にはホウキ、左手にはチリトリ。


 灰皿の中身をそのまま駐車場のアスファルトに捨て去ったバカの後始末をしながら、そんなことを思う朝4時の駐車場清掃。


 ぶちまけられた煙草の吸殻と灰を集めてチリトリの中に入れる。少しだけアスファルトに残った灰をホウキで散らした。


「あー眠い・・・ あーだるい・・・ あー死にたい・・・ いや死ぬな、生きろ俺!」


 最近は死にたいが口癖だ。独り言を言っていると勝手に口から出てくるが、本当に死にたいと思っているわけではない。きっと深夜のコンビニ店員という役の人生に飽きているだけだ。




 俺の働くコンビニは郊外にあって駐車場は大きめだ。大型トラックも3台停められるようになっている。

 いつもはエンジンかけっぱなしの大型トラックの中でドライバーが寝ていたりするのだが、今日は1台も停まっていない。静かな夜だ。



 眠い頭で広い駐車場の掃除をしながら、俺は空を見上げた。


 今日は雲が無く、空には星がよく見えた。



 パッとしない街のパッとしないコンビニで、パッとしないバイトがパッとしない人生を送っている。


 店内には新人バイトの女の子がいる。始めて1か月ぐらいたったかな?覚えはいいんだが、ちょっと問題がある。

 このあいだ彼女に駐車場の掃除をやらせたら、ごみを拾いながらバカでかい声で発声練習をはじめた。朝4時に。おいこら。


 声優になりたいんだそうだ。ライバルに勝つためには人一倍の努力が必要なんだそうだ。

 だからって朝4時に発声練習とか、おかしいだろ、なぜおかしいと思わない?

 それだけ顔が可愛いならアイドル声優なれるって、努力しなくても。


 実際、かなり可愛くて美人だ。背が小さく頭が小さく目が大きい。いささか痩せすぎにも思えるが、芸能人は細すぎるぐらいがいいんだろ? だが俺は騙されんぞと思っている。ほんの少しだけ精神が病んでる匂いを感じるからな!


 年齢は20歳らしいがよく中学生に間違われるらしい。それをそこはかとなく自慢していた。


 だがしかし、彼女がバイトをはじめてから店の深夜の売り上げが上がった。


 コンビニの売り上げは意外とバイトに左右される。

 昔、家の近所のコンビニにキモイ声の男、なんていうんだっけ? 男の娘っていうんだっけ? わざとかわいい声を出す男。あれが入ったときは、1年ぐらいそのコンビニに行かなかったね。生理的に無理だったわ。


 そんな当店の深夜の売り上げの救世主、佐々木香織ちゃんにはファンが出来たようだ。

 雑誌の前に長時間いる男、スマホをいじってるふりをしながらスマホの電源を切って、画面に反射した香織ちゃんを観察するぽっちゃりくん。

 俺から見たらバレバレだ。


 その横にしゃがんでバイク雑誌を見てるヤンキーがひとり。彼はがんばって硬派を演じている。だがしかし、彼は本来、立ち読みをするタイプじゃない。香織ちゃんがいるときだけ長時間雑誌を立ち読みする。かっこいいヤンキー座りで。

 やはりバレバレだ。


 彼の愛車、謎のカスタムが施された爆音のバイクは、レジからよく見える位置に止められている。つまり香織ちゃんからよく見える位置に。

「かっこいいですね、後ろに乗せてください!」とか言わないよ香織ちゃんは。

 いや、言う可能性はゼロではないか。人の趣味趣向は理解できないことが多いからな。


 そんなことを何ともなしに考えていると「フォンフォン」と気持ちのいいエンジン音を鳴らしながら車が1台駐車場に入ってきた。

 高級外車のスポーツカーだ。マセラティだっけ、1千万を軽く超えるやつ。

 運転しているのはどこぞの社長さんだが、このコンビニの常連さんだ。毎日この時間に来る。

 俺は車に軽く頭を下げた。


 彼はドライバーズシートで軽く手を挙げながら俺の前を通り過ぎ、駐車スペースに車を止めた。爆音のバイクとは2マス空けて。隣は怖いもんな、気持ちは分かる。



 俺は、車から降りた彼に「いらっしゃいませー」と声をかけた。


「あれ?今日は発声練習の女の子いないの?」


「中にいますよ、あれはちょっとまずいんで」


 駐車場の掃除は俺がやると決めた。


 彼は軽く手を挙げて店内に入っていった。



 その時、ピカッと空が一瞬光った。


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