お披露目会での再会
そして迎えたお披露目会当日、お父様は短めに挨拶を済ますと、私の名を呼んだ。
「おいで、アーティリア。
皆さんに挨拶を、出来るね?」
「もちろんですお父様」
会場は我が家のパーティー用のホール。
そこに満員というほどでは無いが、かなりの人数が招かれている。
関係貴族と、その家族、部屋の壁際に立つ各家の従者の数も入れれば100人はくだらないだろうか。
普通の子供なら間違いなく緊張するだろうが、まあ私は転生した身だし、それは無い。
「初めまして皆様、ダリウス・エル・リースハルト・アステリア侯爵の娘、アーティリア・リ・リースハルトです。
今宵は私の誕生日を祝いにお越し頂きありがとうございます。
どうか心ゆくまでパーティーをお楽しみ下さい」
スカートの裾を持ち上げ、頭を下げてみせれば、拍手がどこからともなく聞こえてきた。
「なんと、あんなに雄弁な挨拶を行うとは」
等と会場から声が上がる辺り、挨拶としては上々と言ったところかしら。
まあ外見は幼女でも、中身は自分でも覚えてない位には歳を重ねているわけだけど。
「凄いじゃないかアーティ、自分で考えた挨拶かい?」
「本当に凄いわアーティリア、お話が上手に出来る子だとは思っていたけれど、ここまで上手に挨拶が出来るなんて」
「ふふふ、お父様とお母様を驚かせようと思って、ジルと一緒にたくさん練習したの」
という事にしておく。
ジルにも話を合わせるように後で言っておこう。
「じゃあアーティ、私達は皆と話して来るから、後は好きにしなさい」
「私も付いて挨拶した方が良いのでは?」
「良いのよ、アーティリア。
せっかくの誕生日なんだもの、好きに過ごしていなさい、後でリースハルト家だけの誕生日会をしましょうね」
そう言って両親はジルを呼ぶと、私を預け、壇上を後にした、お父様の顔から笑顔が消えているところから見ると、どうやら仕事の話があるみたいね。
少しくらい休んでも良いと思うのだけど。
「お嬢様、どうなさいますか? 部屋にお戻りになりますか?」
「いえ、主役が即退場というのもお父様の面子を潰しかねないし、会場をブラブラしていましょう。
お腹も空いたし」
「かしこまりました」
会場にはテーブルが並び、様々な料理、デザートが並んでいる。
両親は後で私達だけで誕生日会を、と言っていたが。
お父様の様子を見る限り、ソレもいつになるやら。
「とりあえず何か飲みたいわねえ」
「紅茶をお持ちしましょうか?」
「いえ、水でいいわ」
「かしこまりました、少々お待ち下さい」
ジルは本当によく働く、元暗殺者と言うのが嘘のようにメイドの姿が板に付いているわ。
「おお、アレはシルヴァリエ侯爵の御子息、そう言えば彼も先週5歳になったところか」
と、声が聞こえて振り返ってみると、件の少年が私目掛けて一直線に歩み寄ってくるのが見て取れた。
鮮やかな赤い髪に整った顔立ち、少し釣り上がっているが、優しげなその蒼い目からは将来間違いなく魅力的な男性になるだろうことが窺える。
シルヴァリエ侯爵と言えば、お父様の領地のお隣の侯爵様だったわね。
その息子が私になんの用かしら。
考えているうちに件の少年は私のすぐ前にやって来た。
「本当に会えるなんて、やっと会えたよロザリー」
「なっ! ……何で君はその名前で私を呼ぶのかな、私は――」
ロザリー、懐かしい私の名前。
正確には魔王としての存在を偽り、魔法使いとして生きていた時に名乗っていた名前だ。
「僕だよ、カーティスだ」
「嘘、なんで」
カーティス、忘れるものか。
その名前は。
かつて愛した勇者の名前だ。