お披露目会の準備をしよう
ジルが私の専属メイドになってから、随分経った。
明日には5歳の誕生日を迎える、もう歩くのも話すのにも困る事は無い。
ジルは私の期待以上の働きをしてくれた。
この歳になるまでよく私を、そして私の家、リースハルト家を守ってくれたわ。
国境付近で隣国との小競り合いがあった時なんか、斥候として戦線に赴いたほどだ。
お父様、ダリウス・エル・リースハルト・アステリア侯爵はその細身からはまるで感じる事が出来ないほどに武勇に秀でているそうだが、その武勇に敵国からは非常に疎まれているらしい。
ジルはそんなお父様に戦力で劣るからと、精神的に追い込みを掛けようとした元主に私を暗殺してこいと命令されたわけね。
「あの日から、私にはアーティリアお嬢様にあの忌々しい奴隷紋を解放していただいた恩があります、そのおかげで同じ境遇の仲間を解放する事が出来ました、故に私は一生をとしてお嬢様にお仕えしたく思い――」
「話が長いわジル、私は紅茶のお代わりを頼んだだけよ」
「はっ、た、直ちに、いつも通りミルクと砂糖は多めにお入れしますね」
彼女はハーフエルフだ、エルフ特有の魔術との親和性と人間の適応能力。
実に優秀な人材というわけだ。
当初短く切られていた髪も、今は背中に届くほどになっていた。
因みに伸ばさせたのは、私がロング派だからなのだけど。
そういえば勇者のパーティの中にもハーフエルフの剣士がいたなあ。
「そういえばお嬢様、明日はお嬢様のお披露目会ですが、ドレスはいかがなさいますか。
それなりに数は揃えていますが」
明日、私の5歳の誕生日に行われるお披露目会。
貴族社会にはよくあることだが、まあ要は両親が「ドヤァうちの子可愛いだろー」と、自慢したいわけである。
もちろん、その後のお茶会、社交界デビューの練習という側面もあるのだろうが。
以前、つまりは転生前。
魔法使いとして勇者のパーティに潜り込んだとき、私は宮廷魔術師という身分を偽装していた。
城勤めをしていたこともあって作法などはお手の物な訳だ。
「派手すぎなのは嫌だから、アレにするわ」
私が紅茶を飲みながら、クローゼットの方に目をやり指を指して選んだのは、赤というよりは赤紫に近い色のドレス。
「相変わらず、と言いますか、お嬢様、もうちょっと可愛らしくても」
「良いのよ、壇上に上がって人前に出るのだから、どぎついピンクとかじゃ目に悪いわ」
そして、翌日のお披露目会で私は信じられないような再会を果たす事になる。