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転生魔王、寝込みを襲われる

 月日が流れるのは早いもの。

 転生から約1年、掴まり立ちでなんとか立てる位にはなった。

 転生で一番面倒なのがコレ、成長。

 魔族や多種族の時などは成長速度が早かったから気にならなかったけど、人間の成長速度って遅くないかしら、野生動物なら生まれて数時間もしないうちに立つわよ?

 

 こんな状況で襲われたらどうするのかしら。


 とか、考えたのがいけなかったのかしら、その日の晩、事件が起こったわ。

 

 「噂は、本当だったのね」


 皆が寝静まった夜遅く、私のベッドの傍らに立った影。

 仮面で目元を隠し、夜の闇に紛れる為の黒装束。

 見るからに暗殺者か、隠密の類い。


 「賊の侵入を許したのか!? 探せ! 旦那様と奥様は!?」

 

 防護魔術が発動したようだ、警備の騎士達が騒ぎ始めている、屋敷内も慌ただしくなってきた。

 だと言うのに、この侵入者の女は慌てる様子もない。

 つまりは、手練れだ。


 「あー、うー」

 

 ううむ、やっぱりまだ喋るには早いわよねえ。

 危険を知らせるには泣いた方が早いけど。

 魔王として生きていた弊害だわ、全く危機感がわかないから泣けないなんて。

 そもそも私、転生してから一度でも泣いたかしら。


 「しかし、赤子を殺せとは、コレさえ無ければあんな奴の命令など――」

 

 侵入者の女は装束の胸元を抑え、呟き、自らの唇を噛んだ。

 普通なら分からないだろうが、元魔王の私が普通なわけも無い。

 魔力を感知してみるあたり、この侵入者の胸元には奴隷紋が刻印されているわね。

 この侵入者の女の人柄は知らないけど、呟いた言葉を聞くに、悪人と言うわけでも無いらしい。


 しかしマズいな、私狙いなのか。

 

 「アーティリアは!?」

 「まだ奥に!」

 

 アーティリア。

 お父様とお母様がくれた、今の私の名前。

 遠くから、お父様の声と騎士達の足音が聞こえる。

  

 ここにきて、侵入者の女は私に手を伸ばしてきた。

 このタイミングで私を殺して、それでも逃げおおせるだけの実力があるわけだ。

 奴隷紋が光を帯びている、嫌々やっている証拠だ、他の仕事ならいざ知らず、子供は殺したくない訳ね。


 相当な苦痛を伴っているはず。


 惜しい、いや欲しい。

 そういう実力のある者を私は求めているのよ、私がのんびり暮らす為に。

 

 だから、仕方ない。


 「その奴隷紋、解呪してあげようか?」

 「赤子が、喋った!?」


 違うんだなあー、まだ私は喋れないのよ。

 私が使ったのは念話、意思伝達魔術の一つ、思考を魔力に込めて送る物なのよねえ。

 まあ、この侵入者の女には私が喋っているようにしか聞こえないでしょうけど。


 「私が奴隷紋を解呪してあげるから、あなた、私の従者になりなさい」

 「何を馬鹿な――」


 まあ簡単には信じないわよね。

 じゃあまあ、とりあえず解呪だけして後は場の流れに任せますか。

 私は侵入者の女が伸ばしていた手に自分の手を伸ばし、触れた。

 赤ん坊とはいえ、大気中の魔力を使えば、私にとっては容易い事。

 まあまだ赤ん坊な訳だから、疲れる事に変わりはないので、恐らく解呪後私は寝るだろう。

 

 「アーティリア!!」


 お父様の声がすぐ近くで聞こえる。

 

 「じゃあ約束、守ってね、お休み」

 「ち、ちょっと!?」


 魔力を集め、解呪の術式を侵入者の女の奴隷紋に流し込む。

 強烈な眠気に襲われ、眠りにつく直前、女が仮面を外すのを見たのが私のその日の最後の記憶。


 翌日、疲れからか昼まで眠っていた私。

 侵入者の女改め、ジルはというと、メイド服に身を包み、私のベッドの傍らに立ち、私が眠った後の事の顛末を聞かせてくれた。


 因みに、私が念話出来る事は秘密にして貰っている。

 両親に知られると騒がれて面倒そうだしね。


 どうやらあの後直ぐ、お父様は私の部屋へやって来て、ジルと対峙したらしい。

 しかし、というか、やはりジルは元々奴隷として隣国の領主に買われたらしく、嫌々暗殺者をやっていたそうだ。

 

 その後の経緯だが、ジルがお父様に言ったそうだ。

 

「お嬢様の暗殺を指示した者の首を差し出す代わりに、私をお嬢様の専属メイドにして頂きたい」


 普通なら信用ならない話だが、仮面を外して素顔をさらし、頭を下げ、武器諸々を捨てたジルを見て、お父様は試す価値ありと見たのか。

 

 「どういう訳かは分からないが、私がこの部屋に来るまでに、娘を手にかける事は出来た筈……

 行動で示してみろ」


 と、一旦ジルを解放したらしい。

 そして明朝には私の暗殺を指示した隣国の領主の首を土産に、屋敷の前に戻ったと言うのだから、間違いなく一流の暗殺者である。


 というか、この話の中で一番驚いたのは、ジルの仕事の早さと機動力もそうなのだが。

  

 お父様、侯爵だったのね。


 

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