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第七十八話 ヤンキーと姉と①

放課後にエイジは珍しくクラスメイトの小木と教室を出て行く。

彼との妖怪談義は楽しく気づけば教室には自分達以外は残っていない状況だった、それを見ていたユイは少し前に「今日は先に帰ってるわよ」と少々面白くない様子で先に下宿先へと帰っていた。

話題は絶える事なく、今度小木の家へ資料集を見せてもらう約束を取り付けて上機嫌だった彼の顔が下駄箱のある正面玄関で歪む。


「うわ、うるせぇな」

「だね」

校門前でガラの悪い男達がバイクや車の違法なマフラー改造で威嚇するように爆音を鳴らしている。

エイジとクラスメイトの小木がその光景を玄関先で眉をひそめた。


「ちょっと小木君、あのヤン車に小便かけてきてよ」

「やだよっ!」

「わかった、マフラーにちょうどいい穴あんじゃん? それに流し込むだけでいいから、ちょっと小便するだけでいいから」

「だからそれが嫌なのっ。エイジくんはなんですぐおしっこネタに走るのさ?」

「小便ほど万能なものはないんだぞ。かけてよし、飲んで良し、砂漠なんかで皮袋に入れて首に巻けば熱中症対策にもなる、小木君は砂漠で遭難した事ないのか?」

「ないよっ! エイジ君もそんな経験ないでしょ」

「俺はあるぞ。今まで飲んだ事のあるベスト飲料を聞かれたらアリスの小便と書くよ」

「何言ってるのエイジ君、本当に何言ってるの?」


玄関から出てもそんな会話をしているとエイジの頭が軽いショックを受けた。

「こらっあんま馬鹿な話をうちの弟にしないでくれる?」

「あっ姉さん」

そこには怒っていながらもふんわりと優しい雰囲気を出す女子が手をチョップの形にして立っていた。

「えっ小木君の姉さんってこんな可愛いのっ」

「ふふっ褒めても何も出ないわよ? 馬鹿な話はアレだけど、いつも仲良くしてくれてありがとね。みつるったら家でもエイジ君の話するのよ」

「ありがとう小木君、俺の魅力を勝手にアピールしてくれて。明日から俺の事を兄さんと呼んでくれ」

「うん、二度と話さないよ」


遠くで美鈴率いる風紀委員がヤンキー達と言い争っている。

「あっ美鈴先輩の胸の事言ったな」

一人が美鈴の胸を指さした瞬間、二メートルほど殴り飛ばされている。

それを見た連中が散り散りに逃げていく。


その中の一台のバイクがエイジ達に向かってきた。

「真由美待ってたぜ」

金髪の男が真由美の前にタイヤのブレーキを鳴らして止まった。

「これから遊ぼうぜ、暇だろ?」

「学校には来ないでくださいって前に言いましたよね?」

「えっそうだったっけ? まあいいじゃねぇかよ、ほら来いよ」

腕をひっぱり無理矢理バイクの後ろへ乗せようとする。

「いや、やめてくださいっ」

「いいじゃんかよ、一回でいいからデートしてくれよ」


「嫌がってるんだからやめろよ。だせぇヤツだな」

その腕を強く握られて「うっ」と小さくうめく。

「なんだお前?」と男が睨みを訊かせるがエイジもまた睨み返す、すると聞き覚えがある声がエイジに聞こえた。


「あれ、藤堂先輩じゃないすか」そこには部活帰りの安元が柔道着袋を肩にかけて立っていた。

「やすもっちゃんの知り合いか? もうこういう連中とつるむのやめなよ、警察官目指す者としてはまずいよ」

「いや、知り合いと言えば知り合いなんすけど新入生の時、先輩の肋骨をへし折った話したじゃないすか、それがそこの藤堂先輩なんす。少し前に中退したとは聞いてたっすけど」

「なるほど。とりあえず藤堂さんは部外者で用もなく敷地内にいちゃいけない人って事だよな? やすもっちゃん、新しい柔道技の実践したくない? ちょうどいい不審者(実験体)がいるんだけど」

エイジと安元の会話を聞きながら藤堂の全身から冷や汗があふれ出る、濡れた手の感触が不快でエイジは「うわ、きもちわるっ」と手を離した。


「藤堂先輩、アバラの調子はどうすか?」と安元が藤堂に近づいた瞬間――

「ちくしょうっ覚えてろよっ!」と捨て台詞を吐いて、猛ダッシュでバイクで逃げていった。

「やすもっちゃんは相当に嫌われてるみたいだね」

「いや、エイジ君が脅すような事言ったから……」


そして「はぁ……」と真由美がため息をついた。

「何かお悩みのようですね。小木君の友人としてよければ相談にのりますよ?」

「実はね、あの人から前から付き合ってくれと何度も交際を責められて断ってたんだけど、最近はタガが外れたのかああやって学校やバイト先にも現れるようになって、しかも本人はかっこいいと思ってるのか悪い人たちを連れてくるから困ってるのよ」

「藤堂先輩、学生からストーカーに転職したのか。思った以上にやべぇヤツだな、やすもっちゃんはアバラじゃなくて心臓を潰すべきだったな」

「いや、それじゃ俺が学生から囚人に転職しちゃうっす」


「ふざけてる場合じゃないよ、エイジ君」

「ごめんごめん。ここはクラスメイトのお姉さんが困っているんだ、力になろうじゃないか」

「本当にだいじょうぶ? 藤堂君、あんな悪そうな人達とつるむようになっていい噂を聞かないのよ?」と不安げにする真由美にエイジがグッと親指を立てる。


「任せてくださいお姉さん。なに大船、いや豪華客船タイタニックにでも乗ったつもりでいてください」

「いや、エイジ君。タイタニック最後に沈んでるから」と呆れながらもエイジはこういう時に頼りになる人だと思う小木であった。

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