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第七十三話幽霊旅館⑰

 一筋の光の線が周囲の大気を乱しながら空を貫く。

 勢いは衰えを知らずに赤雲に大穴を開け突き進む、どこまでもどこまでも。


 地上では誰も居なくなった戦場の地面に黒い染み。

 消えるのを忘れたように地面には黒い影が残っていた、もう本人はこの森の中にはいないというのに。

 そこから、にゅるりと腕が伸び土の上に手をかける。


「やばっ殺しちゃったかな?」と加減を間違えたかと不安な声を出しながら黒い鎧が飛び出した。

 牛鬼を(ほふ)った時ほどの威力はなく、かつ相手のタフさを考えれば蒸発するはずはない。


 周囲に気配はなく、そよ風が木々を揺らしていた。


 ――そよ風?

 ここは天狗の異界、自然の風が吹くはずがない。

 それに景色は未だ変わらず、紅色の景色のままだ。

 ならば、タガオノガスは健在――だというのに相手が仕掛けてくる気配はない。

 感じるのは揺れる木々の音だけなのだが、徐々にその音は大きくなり――突如、地面が揺れる。


「檻の中に閉じ込められたか」


 エイジを中心に石柱が次々とサークル状にそびえ立つ。

 石柱の間隔には赤い稲妻が奔り、石柱本体から溢れる恐ろしいほどの魔力の波動を考えると抜け出す事は簡単ではない。

 ドラゴンキャノンを全力で数発撃てば壊せるのだろうが、残存魔力量にはそれほど余裕はなかった。

 エイジは「直径二百メートルってところか――なんでこんな広い範囲に閉じ込めたんだ?」と自身を捕らえた石柱の檻の広さを目測で計算して怪しむ。


 石柱の先端部から赤い魔力の束が空へ伸びて収束した。

 エイジがドラゴンキャノンで綺麗に撃ち抜いた雲のない空の中心部に人影があった。


「これより、現れるは父なる星。星の閉幕に至る裁き」

 収束した波動でより雲が開いた、そこに巨大な魔方陣を背景にタガオノガスが立っていた。

 それを見た瞬間、エイジはすぐに理解した。

「そうか、こっちのキクコロール星人の真技はそういうものなのか」

 魔方陣からは魔力の奔流のせいで空間が歪み、大気は嵐が起きたように激しく荒れていた。


「一番嫌な流れだ。親を呼ばれるのが一番困る」ゴクリとエイジが唾を飲んだ。

 空間の歪みはそこから召還されるモノの次元を意味している。


 逃げ場は無く、遮蔽物もない。そもそもこれから顕現するものにはいかなる盾を持ってしても防げないだろう。

 魔方陣が唸り、雄叫びを上げた。

 その瞬間、荒れていた大気が地上を覆い尽くす。

 吹きすさぶ嵐の中でエイジが天を睨み続ける、目を離すのはありえない光景だった。


 魔方陣から巨大な岩が降ってくる――魔力による加速はなく、ただただエイジに向かって落ちてくる。

 その脇にいる彼女には勝利の確信もこれから潰れる者があげる断末魔の叫びも興味はなかった。

 人間には使わぬ技をもって、人間を殺す。

 蚊一匹の為に火炎放射器を使う者がどこにいようか、主観的にも客観的にも狂気の沙汰だ。

 彼女が行ったのはそういう事だ。

 だから、無感情・無表情でこの戦いの最後を見送る。

「もう、小手先の戦いの終わりだ。風間エイジ、楽しかったが最後は不快な結末だったな」


 その哀愁の空の下、エイジは迫り来る小惑星に向かって両手を広げる。

 受け止める気でもいるのかと無表情だった彼女が「ぷっ」と吹き出した。

「いや、やはり面白い。全身全霊の最後の一撃だ。存分にあがいて見せよ!」


「応とも」と天からの声に返事をするエイジは脳内で相手の奥義にふさわしいドラゴンと戦法を選出する。

「ドラゴンチェンジ・ワープドラゴン」

 その言葉を最後にタガオノガスの視界からエイジが消えた。


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