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第七十二話幽霊旅館⑯

 静かな森の中をタガオノガスが黒い翼を折りたたみ、全神経を研ぎ澄ましながら歩く。

 相手は影を纏う者、ならば自分の影すら相手は利用してくるかもしれない。

 僅かな気配も見逃さないと気を張る中、彼女の頭の中ではこの森で同じように子供達とかくれんぼをして遊んだ事が思い浮かんだ。

 はしゃぐ子供達の姿、陽気に楽しそうなはしゃぎ声、そこに悲しみなどましてや不幸などあるはずがない。

 自分の行いは間違っていない、この幸せは終わらせない。

 なにより、また一人になるのは怖くて想像しただけで胸が絞められるようにうずく。

 自分は勝つ、ただの人間風情に負けるはずがない、憂いはない。

 なのになぜ、命のやり取りをしているというのに思い出が走馬灯のようにわいてくるのか。


 その想いを断ち砕くように砲撃音が鳴った。

「何かと思えば、あまりに芸が無いなっ風間エイジ!」

 拳に胸当てと同じように、水銀が纏い籠手が形成される。

 魔弾を殴り払い、砲撃音がした方向へ炎を(はし)らせた。


 火炎と魔弾の応酬の中、ヒュンッと何かがタガオノガスに向かって風を斬った。

「ふんっ。暗器の類か」

 人差し指と中指で柄のついてない剣を挟み取る。

「なるほどな、砲撃音がやけに大きく感じるとは思ったが誤魔化す為の策か」

 すかさず攻撃が来た一帯を炎が焼き尽くした。

 熱風が森を蹂躙し、その付近にあった草木は枯れる。

 赤い森の中に一際浮かぶ黒い人影に容赦なく炎弾が撃ち込まれた。


 影を消しても、また新しい影が数を増やして出てくる。


 煩わしいと再び森の中を炎が蹂躙し、一面を紅蓮に染めた。

 燃え盛る炎に比例して、タガオノガスの影がより鮮明になる。

 そして、それはエイジの影も同じだった。

「そこか! そこか? いやそこだ!」

 いくつもの影に炎弾を当てるタガオノガス。

 その無数の影の中でより濃い魔力を帯びているモノに飛びつく。


「へへへ。みつかっちった」

 地面に背を着けて、上に跨がる敵に感服する黒い鎧。

 両手を相手の膝裏に挟まれて身動きが動けない、先ほどとは真逆の体勢になった。

 その体勢で僅かな時間。

 時間にして三秒もなかっただろう。

 だが、この戦いで三秒も動きを止める事がどういう事なのか。


「うぐぅっ!」

 エイジはその答えを自身の胸に突き刺さる太刀を見て知った。


 見事なりとタガオノガスは好敵手に手向けとして言い渡す。

 うめき声を最後に空を仰ぎ見るように動かなくなるエイジ。

 今までの激闘から考えれば、終わりはあっけないものだった。

 ――そう、あっけなさすぎた。


 その違和感を違和感で無くしたのは、背後から押し寄せる魔力の波動だった。

 周囲の大気もマナもそれに呼応して震え、悲鳴を上げるように鳴き始める。

 振り向く時間はない。

 タガオノガスは全力でその場から飛翔しようとした瞬間。

「なにぃ!?」

 自身の片足に食らいつく竜の顔があった。

 股下のエイジは霧散し地面に残ったのはドラゴンファングだけだった、それが彼女に食いついたのだ。


 タガオノガスは理解した。

「我が取ったのは疑似餌のほうか」

 自身が突いた影が他より強い気配を放ってたのは本体の一部を使っていたからだ。

 もはや、間に合わんだろうと後ろを見る。

 自分の影からは一本の腕から伸びる竜が大きな口を開けて砲口をこちらに向けていた。

 これが今、撃ち放つは森だけではない天すら焼き尽くす光弾だろう。

 ならば自身も最強の盾をもって、この死を脱してみせる。

 飛翔するために広げていた翼を折りたたんで、自身を包み込ませた。


 そして、エイジのドラゴンキャノンがタガオノガスもろとも天をも貫く一閃を放つ。



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