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第七十話幽霊旅館⑭

「今の一撃、見事なり。お前を来訪者ではなく一人の戦士として認めよう」

 足場が黒い羽根となって吹き散る。

 地面に下りる天狗の雰囲気は剣呑なものへと変わり、翼から羽根を抜くと羽根は魔法にかかったように太刀へと変化した。

「へへっ。ようやくその気になってくれたか、負けた後「我、本気じゃないもんっ」とか言いそうで不安だったんだよ」

 エイジの軽口に「よく吠えるではないか」と哄笑(こうしょう)で返す。


「そういや、あんたの名前聞いてなかったな。天狗と呼ぶのも味気ない」

「我の名か? 聞いたところで意味のないものぞ」

「まぁまぁ、そう言わずに」

「来訪者には受容を、戦士には死を。我は言ったぞ、お前を戦士として認めると」

「戦士には敬意を表するものじゃないかな?」


 口が達者なやつだと思いながら天狗は少し間を置いて名を告げる。

「我の名はタガオノガス。風間エイジ、いざ尋常に」

 死に向かう者に手向けを渡して、天狗は太刀を振り下ろした。


 ドラゴンソードと太刀がせめぎ合い、激しい火花を散らす。

 互いの力を出し切った一撃一撃は静かだった森に爆弾がいくつも落ちたかのように激しい音を響き続けさせた。

 天狗は距離を取らずに、太刀の間合いで戦う。

(ドラゴンキャノンを警戒してるのか? いや、違うな)とエイジは相手の戦法を(いぶか)しむ。

 タガオノガスが飛び上がり、上段斬りをくりだした瞬間。


「なっ!?」

 相手の隙があいた腰を斬りつけたエイジは怯んだ、真っ二つになるはずの相手が黒い羽根へと変わったからだ。

 相手は消え、赤月が浮かぶ空だけが残り、エイジのがら空きになった脇に影が忍び寄る。


 腕が上がりきった脇の下にドラゴンキャノンが砲身を今までより短くなって今日一番の魔弾を撃つ。


「殺気が丸見えだよ、タガオノッチ」

 衣服がぼろ布のようになりに全身に(すす)を付けたタガオノガスが頬を拭う。

「気配は消してたつもりなんだがな。それに……まさか砲身を短く出せるとはな」

 残念でしたと言わんばかりに自分の脇を指さすエイジ。

「自分の死角を突いてくる敵が多かったから、直視するよりよく見えるようになったよ」

 それよりもとエイジは「そっちも見えてるけどだいじょうぶ?」タガオノガスの胸を指さす。

 ボロ布のようになった小袖の胸元からは乳房とわずかにその先端部を覗かせていた。

「戦う事に支障はなかろう」そう言って、気にとめずに構えを取る天狗。

 その様子にエイジは「眼福眼福」と弾む声を出して、躍り出る。


(なぜだ、なぜなのだ?)

 焦燥(しょうそう)はタガオノガスのものだ。

 必殺を確信する一撃を相手は苦もなく弾き返す。

(なぜ届かぬっ!)

 戦いを始めてから相手に一つの傷もつけれず、あまつさえボロボロになっているのは自分ではないか。

「教えてやろうか?」その声に彼女は戦慄した。

「焦った顔の上に、はてなが浮かんでるぞ。最初の頃より太刀の振り方が大雑把になっているし」

(見透かされているな)と頬に汗を流す。


「あんたが俺より戦法が劣っているからだよ。なんで剣術で戦ってるんだ? 天狗っていうのは星の使いだろ、人間の真似して相手の土俵で戦ってどうするんだよバカかよ」

「なっ!」

 その言葉は屈辱だった。

 人間ごときに自分が星の力を行使するなどありえない。

 地球とは規模は違えど、自分とて惑星の最高序列に立つ者。

 それを下位に立つ人間に劣勢に立たされ、挑発される。

 屈辱と怒りは容貌(ようぼう)を変える。

 血管が浮き出、真っ赤になったその顔は天狗ではなく、鬼へと姿を戻してるようだった。


「があああああっ!!」

 怒りのまま、太刀を振り上げた腕にドラゴンファングが噛みついた。

「なっにぃ!?」

 磔になったかのように両腕を広げるタガオノガス。

 その一瞬、エイジは相手の心臓にめがけて掌底を突き出す。

 ドラゴンイーターのスキルで強化した掌底は稲妻のように鋭かった。

 それを目にしたタガオノガス「ちっ」と舌打ちをした。


 彼の言葉は確かにそうだった、手を抜いて戦うのは戦士にとって何よりも侮辱だったと思考が彼の言葉を受け入れた瞬間。

 タガオノガスとエイジの周囲の大気が帯電しながら暴れ出した。


「ようやく、使ってくれたな」

「ああ、真に侮辱していたのは我の方だった、すまなかったな」

 ドラゴンファングが押さえる腕を前へ伸ばし、手はエイジの手首を掴んでいた。

「いいって事、よ?」エイジの言葉がたどたどしくなる。

「あっ」と思わず声が出たのはどちらか。

 エイジの手が握るこの感触、柔らかで動かすたびに弾力がある。これは――


「あんっ」とタガオノガスから艶やかな吐息が漏れる。

 エイジの掌底は相手の心臓に届くことなく止まっていた。その手前、すなわち乳房にエイジの手が埋まっていた。

「あ、柔らかい」と思わず何度も指を動かしてしまう。


 そんな彼を「お前、何を考えている?」と唇を震わせながら睨み付けた。


「あ、いや、違う、違うんで――ギャッーー!!」正気に戻った頃には手遅れ、言い切る前にエイジの股間に衝撃が走った。


「命のやりとりの場で発情する者がいるかっー!」

 天狗の足がエイジの股に強烈な打撃を加えたのだ。

 ガキンッとドラゴンファングを力ずくで外して、思いっきり地面に叩きつけるタガオノガス。

 いくら強固な鎧で守られているとはいえ、その衝撃までは緩和するには至らずエイジはドラゴンファングと共に地面でうずくまる。


「うちの悪ガキですらそんな色情的な行動は取らぬぞ!?」


「いや、おたくの子供。寝ている少女の胸揉もうとしてましたよ」

 股間を押さえながら立ち上がるエイジに「ふんっ」と鼻で笑う。

「嘘を言うな。うちの子がそんな事するわけないだろ」

「えっー……」と真実をばっさり否定された事に困惑するエイジであった。

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