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第五話 隣のあの子は精霊使い

「さ~て、やりますかっ」

 私は放課後の学校で仕事をする。

 高校生ならコンビニの店員やレストランのウェイターなどなのだろうが、私の仕事は変わっている。

 それは魔力磁場に溜まった悪性のマナを浄化するのだ。

 魔力磁場は他に比べて、多くのマナを生み出す場所の名である。

 悪性のマナが溜まると亡霊や魔物が発生しやすくなる、それを防止するのが私の仕事。

 体内で生成される良性のマナを魔力磁場に流し込む。

 黒い影が悲鳴を上げて、消え去った。

 校内にある魔力磁場の正常化が終わる頃には、誰もいない校舎を夕日が照らしていた。


「あら、赤城さん?」そう先生に後ろから呼ばれた。

「下校の時間はとっくに過ぎてますよ? 玄関にカギしますから。私と一緒にでましょう?」

「すみません、先生」私と先生は玄関へ向かって歩く。

 出会ったのが坂戸先生でよかった、生徒指導の田中だったら、くどくど説教されていたに違いない。

 あの怒りながら、舐めまわすように見る視線も嫌いだ。


「っ!」

 強力な魔力反応を感じる。

 これは悪霊?いえ、魔物の類だわ。きっともう何かに憑依してしまっている。

「先生、もう校内には私たち以外いないんですよね?」

「えぇ、そうよ」

 よかった、こんな時に一般人がウロチョロしていたら仕事が出来なくなる。

「それじゃ、先生。早急に校内を退去してください」

「……はい」

 洗脳魔術を使って、一般人を避難させる。


 日が落ちて、夜のとばりが落ちる。

 校庭には二体の魔物がいた。

 人払いの札に精霊の力を宿して燃やす。札の灰は上に舞い上がり校内全体に四散した。

 これで、仮に校内に誰かいてもすぐに敷地内から出て行くだろう。


「ハサミの怪人とマットの巨人……あんた達どこからきたの?」


 私の質問に「キシャアアアア!」と魔物たちが威嚇をする。

 しゃべるほどの知性は持ち合わせていない低級の魔物だ。


「火の精霊よ、大地に宿りたまえ」

 精霊の杖を地面に突き刺し、炎を纏ったゴーレムを生み出す。

「フゴォオオオッ!!」

 マットの魔物が分裂して、ゴーレムに襲いかかる。

 ゴーレムの口から炎が吹き出され、魔物は一瞬で灰に変わる。


「これで一匹」

 仲間を瞬殺されたハサミの魔物は驚いたのか、動かなかった。

「何をボッーとしてるの?隙だらけよ、叩き潰しなさい」

 ハサミの怪人もゴーレムのハンマーのような拳で叩き潰した。


「ふんっ、相手を間違えたわね」

 この低級の魔物がどこから来たのかわからない。

 物に憑依出来るってことは長期間放置された魔力磁場か、土地そのものに居着いた者か。

 後者なら、普通は封印の術式が貼ってあるので外に出られない、誰かが封印を切らない限りは……


「誰っ!?」

 校庭の外れにある植木の影に、人影を見つける。

 相手は隠れてるつもりなのか、動かない。

 目撃者は殺すか、捕獲して記憶操作を施す。

 だが、この一件に関わってるのは間違いない。相手もなんらかの能力を持っているかもしれない。


 再び、土に精霊を宿す。

「グルル」と唸る、炎の猟犬を作り出した。


「噛み殺しなさい。終わったら、そのまま消えていいわ」

 もの凄い速さで猟犬が駆け出す。

 走り出す犯人、迎撃しないという事は一般人か、バカねぇその好奇心が自分を殺す事になるなんて。

 人避けの術は敷いていたのだが取りこぼしたみたいだ、たまにこういう事は起こる。

 だが封魔一族の結界札の質も落ちたものだ、まぁ今は当主代行が作っているという話だけどこれじゃ、先が思いやられる。

 そして、逃げる犯人を見て、少し驚いた。

「風間……エイジ、だったっけ?面白い人だったのに、転校初日で行方不明とか伝説に残るわね」


 ―――――――――――――――――――――――――――

「やべぇなにあの子」


 竜の目を使って、隣の席の赤城さんと魔物の戦いを見学する。

 地面からゴーレムを出した、あれはどうやったんだ?

『どうやら、彼女は精霊を土に宿して、使役をする様ですね』

「なるほどねぇ、彼女は精霊使いなのか」

 さて、正体もわかったし。そっーと退散しますかね。


「誰っ!?」

「見つかっちった」


 身を伏せて隠れる俺の方へ、炎を纏った犬を向かわせてきた。

 やべぇ、あれだよな。犯人を捕まえるか咬み殺す為に使われる猟犬だよな、さっさと逃げよう。


「はぁはぁ」

「グルルル……」

 犬ぐらいなら巻けると思ったが、意外に速い。壁際に追い込まれた。

「こいつは殺す気まんまんだな」

 ドラゴンズアーマーを身にまとう。

 飛びついてきた犬を篭手に噛ませる。

 右手にも篭手を纏って、犬の脇腹を殴り、四散させる。

「一匹だけ向かわせたのは迂闊だったね、赤城さん」

 さっさと、帰ろう。門限の五時はとうに過ぎている。

「あ~あ、きっとエリカがまた玄関で仁王立ちしてんだろうなぁ……」


 翌日の学校。

 まだ赤城さんは来ていない。

 なんて言えばいいんだろうか?

 ガララッと扉が開いた。

「っ!」

 俺の顔を見て、彼女は本気の殺意を飛ばした。

「おはよー赤城さん」

 早歩きをして、こちらに向かってくる彼女は無表情だが確かに怒っていた。

 俺の傍に寄ってきて、囁く。

「なんで生きてるの?」

 朝の挨拶は「おはよう」だろうに、なんで生きてるの?はないだろう。まぁ、俺を普通の高校生だと思ってればそれも当然だが。

「おいおい、朝からなんて顔してんだ? もっとフレッシュな笑顔でいこうよ」

「冗談はやめて」

「君こそ何者なんだい?放課後に犬に火付けて遊んでるなんて先生が聞いたら泣いちゃうよ」

「もういいわ。放課後、付き合って」

「いいよ、放課後と言わず病める時も健やかなる時も付き合ってあげようじゃないか」

「ばかじゃないの?」


 放課後になる。

 今日は一日中、彼女の視線が痛かった。少し身体を動かしただけで視線を釘付けにするのだ。

 そんなに警戒しても何もしやしないのに。まぁ、そんな俺も彼女の弁当のサンドイッチには釘付けになったのだが、彼女はそんな視線を無視してぱくぱくとさっさと食べてしまった。

 なんだよ、隙あらば取ろうと思ったのに。


 そして、今は自分達以外、誰もいない教室で二人きりになった。

「貴方、一体何者なの?なんか魔術でも使えるの?」

「普通の高校生だけど?」

「普通の高校生が私の精霊を倒せるわけないでしょ」

 赤城さんこそ、普通じゃないんだけどなぁ。何よ、精霊使いってイカしすぎでしょ。

「まぁまぁ。それよりさ腹減ってない?」

「なに、言ってんの?」

「ちょいと付き合ってよ、そしたら教えてあげるよ」

「……いいわ」


 学校を出て、駅近くの繁華街に向かい、他校の生徒もやってきて賑わいのある学生通りに行く。

「ちょっと、どこ行くのよ?」

「こっちこっち」と裏路地へ入っていく。

「なに? 仲間でもいて私を囲む気?」

「まさか。ここ、ここ」

 そこには「どら焼き」と書かれた古い看板のある一件の店があった。

「ばあちゃん、どら焼き二個」

「あいよ、二百円ね」ニコニコしたばあちゃんが二つの包み紙を渡す。

「ここが美味いってやすもっちゃんが言ってたんだよ」

 やすもっちゃんとは昨日倒した安元の事だ。

 赤城さんとの会話の後に子分を従え「今日から俺達はあんたの下につく」と両手を膝につけて頭を下げたのだ。

 子分なんていらないから、良きクラスメイトとして仲良くやろうと言ってあしらった。何を勘違いしたのか「こんな俺達をクラスメイトと認めてくれるのか」と勘違いしていた。


「あちち」と包み紙からどら焼き取り出し、頬張る。

「もっちもっちのふわふわの生地にほどよい甘さの餡子、うまいわぁ」


「ふん、こんなんで私が懐柔されるとでも?」

「……」一口頬張ると、ユイは押し黙る。


「美味しいわね」一言漏れた。

「やっぱりうまいよな」

「ふんっごちそうさま」と包み紙を丸めて、俺に放り投げた。

 あぁ、絶対この子、照れ隠しで強がってるな。そういうの好きだな。

 もし、包み紙を地面に捨ててたらドラゴンファングで捕らえて説教してたところだ。


 学生通りに戻り、ゲームセンターの前を通るとユイの足が止まった。

「どうした?」と俺も立ち止まって、視線の方向をみる。

 何をキラキラとした目で見てるのだろう?まるでガラスケース越しにトランペットを見る貧しい子供みたいだ。

 そこにはUFOキャッチャーのケースに入っている「ウサギのぬいぐるみ」があった。

「ほっほっほっ、お嬢ちゃん。あれがほしいのかい?」

「べ、べつに!ほ、欲しくなんか……」

 欲しいんだな。久しぶりにやってみるか。


「ちょ、ちょっと!」

 UFOキャッチャーへ向かう、俺の袖を掴み引き止める。

「なんだよ?」

「私は欲しいなんて思ってないんだから。大体、こういうのは取れないようになってるのよ」

「何言ってんだ?俺がこの兎ちゃんがほしいと思ったからやるだけだよ」

「そ、そう、なの……」

 なんだか少し残念そうな顔をしてるが、そんな顔するならもう少し素直になればいいのに。

 久しぶりのUFOキャッチャーだったが、肩透かしを喰らうほどすんなりウサギのぬいぐるみが取れる。


「うそ……一発で」

「やったーー!取れたー!かわいいな~赤城さんはこの子のかわいさがわからないなんてなー」

 下からぬいぐるみを取り出し、両手でもって掲げる。

 赤城さんを見るとぐぬぬと羨ましそうに見ている。


「はい、あげる」

「え?」

「こういうのは取るまでが楽しいんだ。一度取ったらもういらない。赤城さんがいらないなら捨てるよ」

「な、なに言ってるのよ!もらうわ!捨てるなんて可哀想すぎっ!」

 やっぱり欲しいんじゃないか、素直じゃないんだから。

 両手に大事そうに抱きかかえる赤城さん。きつそうに見えるけどこう見るとかわいいもんだな。


 外れにある公園で休憩する。

「そういや、なんで俺たち一緒にいるんだっけ」

「あんたが何者かって話よ」

「えーいいよ。どうせ信じてくれないから」

「なに?その言い方?」

 空気が凍る。赤城さんの雰囲気が変わった。

 急に立ち上がり、札を二枚取り出し燃やしたかと思ったら空中に高く投げる。

 札が灰になり、光の粒子となって四散した。


 突如、公園内にいた人々が何処かへ歩き出す。

「人払いの魔術か。もう一つは不可視……いや、結界を貼って外部と遮断したのか」

「それがわかってるということは魔術に精通してるのね」

「あなた、何者なの?」手に杖を持ち、赤い宝石の付いた先端を向ける。

「やめなよ。そんな事するとロクなことにならないよ?」

 ベンチに両腕を垂らして、足を組む。

 さて、脅されたなら仕方ない。端的にまとめて言おうじゃないか。

「じゃぁ、教えよう。俺は十年間異世界にいた。そこで力を身に付け、竜王を倒してこの世界に来た」

「嘘ね。だいたい、来たってなによ?戻ったんじゃないの?」

 それはバッサリ切り捨てるよね、こんな与太話。

「この世界は俺の知っている世界じゃない。基本情報はほぼ同じだが、俺の環境が明らかに違っている」

「例えば、家族構成。俺は一人っ子で両親と暮らしていた。だがここでは遠戚の家に預けられ、エリカという家主に使用人達と一緒に暮らしている。

 本当の世界じゃ、魔術や魔物はフィクションの世界だ。それがここでは普通に存在している。俺の世界にもしかしたらあるのかもしれないが、ここまで蔓延してるのはありえなかった」

「その話、本当に信じるとでも?」

「嘘だと思うんなら思ってもいい。だから、その物騒な杖と殺意のこもった瞳で俺を見るのはやめてくれないか」

 瞬間、杖から炎が吹き出す。 

 俺は即座に後方へ飛び上がり、空中で一回転して3メートルほど後ろにあった木の枝に着地する。


「その身体能力、ほんとに只者じゃなさそうね」

 彼女の地面が隆起し、あの時みたいに炎のゴーレムと炎の猟犬が出てくる。

「面白い術だな」

 俺もドラゴンズアーマーを纏った。


「黒い、竜ッ……!?」

「我が名はドラゴンイーター、あっちじゃ俺はそう言われていた。これは能力の一つドラゴンズアーマー」


「すごい魔力量……」彼女の顔に汗が一筋流れた。どうやら、俺に恐怖しているようだ。

 まぁ、あっちの世界じゃ最強級だったんだ。これで大したことないと思われるならそれこそさっさと降参したほうがいいだろう。

「行きなさい、生け捕りなんかしなくていい。全力で」

 ゴーレムが俺の乗っている木を殴り折り、俺は地上へ着地する。

 瞬間、ゴーレムの巨大な拳が襲いかかった。

 突き出された拳に合わせて、俺も正拳突きをする。

 ぶつかりあった瞬間、ゴーレムの上半身が吹き飛んだ。

「なっ!?一撃でっ!?」

「ありゃりゃ、案外モロいもんだな」

 ダイヤモンドゴーレムよりは柔らかいとは思ったが、まさかここまでとは。


「今度はこっちの番だ。 しっかり避けないとケガするぜ? 」

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