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第五十八話 幽霊旅館③

「案内なんて無粋、やっぱり自分の足で見ていくのが楽しいんだよな」

 陽気に鼻歌交じりで中庭を見ながら旅館内を散策するエイジ。

 和風な木造の建物に、日本庭園を作りたいと言われれば、これを手本にしろと言える美しい庭園を横目に鼻をわずかに動かす。

 意識内でカンさんに確認を取る。エイジはドラゴンイーターを纏わない限り、霊的魔術能力は低いので探索能力にも長けているカンさんに頼るしかないのだ。

「なぁカンさん、霊力の残り香がするな」

「ええ、至る所に微弱ながらゴーストの痕跡があります。ですが独立できるほどの力はない、外部からの供給もしくは摂取しなければ現世に止まる事は不可能でしょう」

「という事は誰かが子供の霊を出現させている、もしくはこの旅館に送り込んでるか」

「そう考えるのが妥当かと」


 武家作りの木造二階建ての建物は中庭をすっぽりと囲っている。そのおかげでエイジも中から庭園の景色を見ながら不審な点はないか見ていた。

 庭園にもわずかな痕跡以外は変わった事はない、幽霊が出る事以外は国の重要文化財に指定された伝統のある老舗旅館だ。旅館内は娯楽施設も少なく、ここに宿泊する客はのんびりと何をするわけでもなく一般社会で溜まった疲れを癒やしたり、温泉街を下駄を履いた浴衣姿で歩き、外湯をしながら泉質の違いを知りタイムスリップしたかのような古き良き温泉街を楽しむ事だろう。

 エイジもまた、ただの観光客の一人に戻るために探索を続けていると、角を曲がった三メートルほど先で窓拭きをする従業員が見えた。

 明らかに、雰囲気が違うと一目でわかった。

 どこか精気がなく、ぼっーとした印象をもつが窓を綺麗にしっかり掃除している彼女には霊力の因子がひときわ強く漂っていた。

「あれは……いや、違うな。ただ霊子を纏っているだけか」

「ええ、ですがこの件は彼女が起因しているかもしれませんね」


 彼女に近づこうとした時に、後ろから声をかけられた。

「風間さん、探しましたよ。厠へ行っても居りませんでしたので迷子になったかと思いました」

 その声の正体は安澤女将だった。

「すみません。つい庭園が綺麗で……」

「来てくださったお客様も皆様、同じ事を言います。お部屋へ案内しましたら、ぜひ中庭へ出て歩いてみてください。ここからはまた違った景色を楽しめますので」

「それは楽しみだ。それでですね」

 窓拭きをしていた従業員の事を聞き始めるエイジ。

 彼女の名は『西崎』ここへ来る前は教師をしていた。なぜ教師から旅館の従業員に転職したかというと、本来なら生徒達と修学旅行で方丈旅館に宿泊する予定だったが、不慮の事故で自分以外の生徒が亡くなった。

 だからせめて生徒達が止まれなかったこの旅館に自分が居ようと教師をやめて従業員になった。


「自分から過去に縛られようとするなんて、悲しい人ですね。通りで掃除してる姿が暗いわけだ」

「ええ、けど接客する時は明るく振る舞うし仕事は真面目にしてるんですよ。ただ……いいえ、憶測の話はやめときましょう」

「今回の騒動、彼女の仕業なんじゃないかって噂がたっているんじゃないですか?」

 少し戸惑いの間が起きて、女将が口を開く。

「そうなんです。ただそんな証拠もなしに彼女を解雇するのはできなくてですね……実は言うと、一度霊媒師の方に相談した時に彼女を解雇すればより恐ろしい事になるから絶対にそれだけはするなと忠告を受けているんです」

「なるほど」


 その後、宿泊する部屋へ案内され「えっユイ達と同じ部屋じゃないの?」と本気で驚きながら「まぁ若い男女が同じ部屋というのは保護者の方は嫌がったようですね」と女将が困ったように微笑む。

「所長め、余計な事を……」と握り拳を作りながら女将と別れ、ユイ達のいる鳳凰の間へと向かう。


 部屋へ戻るとユイにどこ行ってたのかと怒られ、美鈴の奇怪な行動に驚く。

「ごめんごめん、美鈴先輩は何してるんだ?」

「所長からもらった護符を張りまくってるのよ」

「窓も、そうだ、クローゼットから侵入してくる可能性も……」とぶつぶつ言いながら部屋の中に札を貼りまくる美鈴。


「そんなに貼らなくても低級霊なら一枚で侵入できないわよ」

「いや、もしもの時のためだ、もしもの、もしもしもし」

「顎が震えて何言ってるかわからないわよ」


 室内は知らぬ者が入ってきたら、この部屋が幽霊が出る場所だと言うような様子だった。


「お化けが怖いなんて、俺はよっぽど美鈴の先輩の胸の成長のほうが怖いよ、一つ違うだけでこんなに差があるなんて怖いだろ、ユイ?」

 瞬間、エイジの眼に一線が走り熱さを感じて激痛が襲い、叫ぶ前に口に護符の束を押し込まれた。

「バルヅッ!?」

 叫び声を上げる前にエイジの口が札で閉じられた。

「もがー! もがー!」

 床でのたうち回るエイジを冷たく見る二人。

「もう一度同じ事言ったら」

「喉を切り裂くわよ」

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