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四十三話 竜宮童子を捕まえてみよう

 東北地方某所――

 もうほとんどの村民が栄えた街へ移住していく中、この集落に住む最後の住人である老夫婦だけが行くあてもないと最後まで残っていた。

 現在では重要文化財に指定されるほどの貴重な家に住み、もうどこの家にも置いてないであろう囲炉裏を囲んで、珍しくありがたい客人をもてなしていた。

 廃れた集落の中にある茅葺(かやぶき)屋根の家に笑い声が響いている。外が夕映で周りのモノが夕日で輝くように、この家も明るい三人の笑顔で輝いていた。


「ふはは、もっと菓子をよこすのじゃっ」

「はいはい、少々お待ちを」

 絢爛な着物を着て、派手な服装に見劣りしない華美な容姿をした幼女が老夫婦に気安く命令をする。

 普段は冷たさすら感じられる切れ長な目は無邪気さで歪み、もてなしに満足して胡座をかいて裾から出た太ももを上機嫌に叩きながら笑う。

 老夫婦は甲斐甲斐しく、世話をする。それはそのはず、この浮世離れした格好と容姿をした幼女は訪れた家に幸福をもたらすと言われる『竜宮童子(りゅうぐうどうじ)』なのだから。


「私達にも竜宮様と同じ背丈の孫がいまして、なんといいますか少し寂しさが和らいだ気がします」

「ほう、そうか。なに、わしの気まぐれが汝らの癒しになったのならよい」

 だが、老爺(ろうや)老婆(ろうば)の顔は少し悲しそうな顔をする。なぜなら……

「ですが、息子夫婦も忙しいらしく、二、三年は正月でも顔を見せなくて。竜宮様がおいでなさって会えない孫の顔をつい思い出してしまいました」

「それは難儀じゃの。よろしい、では今宵の奉仕の報酬を与えよう」

 竜宮が立ち上がり、指を弾いてパチンと音が鳴る。

 瞬間、普段はあまり鳴らない。鳴っても息子を自称する誰かが「金を振り込んで欲しい」と催促する電話ぐらいだ。朝と夕にしかバスが来ないので銀行に行くのは無理だというと小声で「クソじじい」と言って電話を切られる、もはや置物としかなっていない電話がなり老爺が不思議そうに電話を出る。


「おっタケシか。久しぶりだのう――え、それは本当か?」

 老爺の顔がパッと音を立てて咲くように笑顔になる。その様子に何事かと老婆が歩み寄る。

 上機嫌に老爺がその笑顔の理由を語り始める。

「え、タケシ達がうちに来るのかい? いつ、いつだい?」

 老婆も子供のようにはしゃぎ始める、来週の三連休を利用して帰省したいとの事だった。

 老婆と電話を変わり、竜宮童子に深々と頭を下げて感謝の言葉を告げる。

「よいよい、それより今晩、夕餉(ゆうげ)を馳走になりたいんじゃがのう」

「はい、かしこまりました。この老いた夫婦が丹精込めて竜宮童子様にご用意させてもらいます」

 そう言って、台所へと消えていく。

「ふはは、そんなに慌てなくてもよいの、に……?」

 突如、視界が暗くなった事に驚き、そして身体を挟んで持ち上げる何かに不快感をあらわにする。瞬間移動したかのように一瞬で外に連れ出され、目の前に黒い竜、否、それを模した鎧が立っていた。


「竜宮童子ゲットー!」

 拳を高く突き上げガッツポーズをするエイジ。

 上空を飛行しながら関越市から一時間でこの地まで来た甲斐があったと喜ぶ。カンさんにエリカの認識阻害の札を解析してコピーしてもらったおかげでドラゴンズアーマーを纏っている間は自由に力を使えるようにしていた。


「な、なんじゃ! お主は? わしにこんな事してただで済むと、モグッー!?」

「時間がないんだ、とりあえず街まで行くぞ!」

 エイジは竜宮童子の口にチョコバーを詰め込み、街まで降りてもう片付けを始めていた宝くじ売り場の店員に慌てて、ナンバーズを買いたいとお願いする。

 あからさまに面倒くさそうな顔をする店員を無視して、エイジはナンバーズの数字を睨む。

 竜宮童子は菓子類が好きだ、だからチョコバーを食わせる事で自分にも幸福が訪れるはず。エイジは導かれるままに数字を選び、提出する。

「んな、睨んだって当たらない時は当たらないよ」とイヤミを言う店員に「うるせぇ、ババア。こっちはクラスメイトの一生が懸かっとるんじゃい」と暴言を吐きながら、差し出されたくじを奪い取る。

「なんだって、あんたどこの学生だい!?」と怒鳴る声から逃げるように走り去る。


「ふぅ~これで一件落着だな。後は前日に換金して沼田に金渡して終了だ」

 海沿いの公園のベンチに座り、沈みゆく夕日に目を細めながら黄昏るエイジ。その顔はやりきった男の顔をしていた。

 隣では竜宮童子がエイジに買ってもらったアイスを舐めている。「うまいか?」との問いに「うむっ!」と元気に返事をする。「それはよかった」と頭を撫でながら二人は夕日を見る。


「って違うわーー!」とカラのカップを地面に叩きつけて怒声を上げる。

「えっ、何が? え、何が?」と困惑するエイジ。

「なんじゃ、その態度は! 汝、自分が何をしたかわかってるのか?」

「竜宮童子様にお菓子を献上して、ナンバーズ買った」

「頭に無理やりをつけろ、たわけ!」

 竜宮童子の伝説には、幸福が訪れる話と不幸が訪れる話がある。

 竜宮童子を無理やり連れ出したり、願いを叶えられた後に邪険に扱う、害を為した者には漏れる事なく不幸にあう。

 エイジはその全てをやらかしていた。

 竜宮童子の煌びやかな服装が漆黒に染まり始め、口から牙を覗かせて美麗な顔はまさしく鬼の形相に変わっていく。

「喜べ、汝が望んだのだ。災いを」

 その様相に息を呑むエイジ。

 ナンバーズの締め切り時間があと一時間だという事に慌てて、その伝説をすっかり忘れていた事に今更気づく。

 エイジは直感した、これからやばい事になると。


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