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第四十話 異世界の価値は現実では通じにくい

 次の日の放課後、エイジは貴金属店に居た。

 白く輝く千年結晶と赤く輝く赤滝の宝玉。魔法のかばんにしまわれた異世界での収集品、通称『風間コレクション』の中にある財宝を手にして。

 どちらも異世界では城が建つほどの価値のある超レア物だ、さすがに現実世界では同じ価値とは思わないがそれなりの金額、三百万以上にはなるだろう。

 鎧や壺、様々な骨董品がガラスケースに丁寧にしまわれた、古臭くも小奇麗な店内でエイジの目の前で老人がスタンドライトの先がライトではないレンズがハメられた丸いルーペ越しに宝石を覗き見る。

 ふぅとため息をついて、思わず見入ってしまったと緊張したような面持ちで顔を上げた。

 この様子はかなり期待できるんじゃないかとエイジは心を弾ませる。

「それでいくらぐらいになるんだ?」

「八千円」

 店主の口から出た言葉にエイジは理解できない。何かの聞き間違いだろうかと再び、値段を聞きなおす。

「八千万?」

「八千円」

「……なんで?」

「見たところこの二つはダイヤでもないしルビーでもない、名前もない鉱石だ。何か鑑定書があるわけでもない。しかし、カット技術も素晴らしいし、この石の輝き――綺麗さだけで言えばワシはここまで美しいと思った事がない。それで買取不可の商品がわしが個人的に買い取る事にした、それが八千円の内訳だ」


 この店主の鑑定眼は確かである。

 ドワーフの宝石職人が神が宿ったと言われる大樹が千年に一度、樹液が結晶化した物を半生かけて削り出し、残りの余生で命を削りながらカットしてようやく出来る至宝。

 そしてもう一つは、踏破不可能の雪山をいくつも乗り越えて、その最深部にある伝説の赤滝にあるといわれる宝玉。一度だけそれを乗り越え手にした者がいる。その者は絶対に誰にも見せず譲らず、最後はダンジョンに住む怪物にその身を捧げてまで「これを守ってほしい」と懇願し入手不可能になった伝説の宝。

 それらは事情を知らない人間から見ても、無価値と断じられるわけがなかった。

 しかし、エイジの不満は膨張を繰り返し爆発する。


「ふざけんな! じいさん、これを取るためにいくつの冒険者チームと騎士団が全滅してったと思ってるんだ! 最高難易度のSSランクのダンジョンの最深部にあったお宝だぞ」

 何言ってんだ、お前? という顔で見つめる店主。

「まぁ、値段に不服があるなら結構だよ」

「当然だ、いい死に方しねぇぞじじい!」

「いい生き方を出来てるから、わしは構わんぞ。しかし、そう言われると寝つきが悪い。どうだ倍、いや二万でどうだ?」

「酒飲んで永眠しろ、クソジジイ!」

 扉を思いっきり閉めて、店を出て行く。

 怒りのボルテージが徐々に下がり始め、これからどうするかと肩を落とす。

 こうなればユイに頼るしかないのかとエイジは考える。


「ユイ、お金を貸して欲しいんだ」

「いくら?」

「三百万、理由は聞かないでくれ」

「はい」

 手には三百円が落ちてくる、「ナニコレ?」ユイを見る。

「理由もわからないのにお金を貸すほど余裕なんてないわよ。大体三百万なんて、あるわけないでしょう」

 と、脳内でシミュレーションしてため息を吐く。

 繁華街を歩く足取りは非常に重い、まるで背中に貧乏神でも背負ってる気分だ。

 ふと、目にしたのは宝くじ売り場だった。

「ナンバーファイブ?」

 売り場前にある立て看板の文字を読むと、一から五十ある数字を五個選び、抽選された数字と同じならただの紙が五百万に化けるくじだった。

 当選発表日は沼田と約束した前日だ。

「まぁ、一応保険にはなるか」と店の入り口に向かうエイジ。

 しかし、これで問題は解決した場合ではない。

「こういう時は、モンスターや竜を倒して金を稼げてたんだけどなぁ」

 異世界ではドラゴン以外にも、オークなどの人間に害をなすモンスターを討伐する事でギルドから報奨金をもらえたり、ユニコーンやリザードマンなど角や皮に価値があるモンスターを狩って道具屋に卸す事で換金して金を稼げた。

 だが、それは異世界の話。

 この現実世界ではそんな都合のいい話は――

「あるじゃん! カラスじゃ金はもらえないけど、金になりそうな妖怪やモンスターはいるだろ!」

 希望が見えてきたと、エイジは軽い足取りでステップを踏みながら帰路を歩くのだった。

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