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第三話転校生は異世界帰りのやべぇ奴

「エイジ様、いってらっしゃいませ」

「見送りご苦労さんです! んじゃ、いってきまーす」

 執事とメイドの三人が深々とお辞儀をして見送る。

  今日はエイジの初登校の日だ。二人で屋敷の近くにあるバス停へ向かう。

 ウキウキとした様子でカバンを前後に振りながら、鼻歌を歌うエイジ。

 それを面白くなさそうに見るエリカ。

「兄さん、初登校なんですからビシッとしてください」

「そうは言っても、久々の学校なんだから嬉しくて仕方ないんよ」

「もう! いいですか? 兄さんは風間の家の人間なんです。相応の姿勢を取ってもらわないと」

 バス停でエリカは片目をつぶり、エイジを指差し説教する。


 バスに揺られる事、20分。

『関越学園前』と呼ばれるバス停でエイジ達は下りた。


「それでは、兄さん。私は中等部の校舎に行くので、ここでお別れです」

「あぁ、俺はこの左に行った関越学園の高等部の校舎で待ってる先生に会えばいいんだよな?」

「えぇ、そうです。風間家の者として立派な学生として振舞ってください」


「はいはい」と言ってバイバイと手を振り、「はいは一回!」と最後まで怒るエリカ。


 学園の門を抜け玄関へ向かうと、辺りをキョロキョロしている眼鏡をかけた、茶髪を三つ編みでおさげにしたスーツ姿の女性が立っていた。

 エイジの顔を見ると、笑顔で向かってくる。

 たぶん、この人が自分の担任だろうとエイジも笑顔で女性に向かって歩く。

「あの、今日から転校してきた風間なんですけど」

「えぇ、待っていましたよ。風間君、私が担任の坂戸理央です。よろしくね」

「いえいえ、こちらこそ」とお辞儀をするエイジ、だがその視線は坂戸先生の胸に釘付けだった。


(やべぇな、あの巨乳。そしてそのボディに見合わない清楚な雰囲気、俺のドストライクじゃねぇか)

(一般常識では教師と生徒はそれ以上の関係になってはならないと言われていますが?)

(関係ないんだぜ、絶対お近づきになるんだぜ)

「はぁ」とカンさんは呆れている。


「本日から、皆さんのクラスメイトになる、風間エイジくんです」

「ご紹介に預かりました。 風間エイジです。よろしくね」

 ヘラヘラしながら挨拶するエイジ。

「それじゃ、風間君の席は一番後ろの赤城さんの隣です」


 指定された席に向かおうとするが、ヤンキー風の男が足をひっかけようとする。

 ニヤニヤするヤンキーの顔を見てニヤリと笑うエイジ。

「キャッー!?」

 わざと足に引っかかり、ヤンキーの後ろの席の女子生徒に抱きつく。

(んっーやっぱり、現実世界の女の子は異世界とは違ったいい香りがするなぁ)

(マスター、セクハラです。おやめください)

「ごめん、ごめん。 わざとじゃないんだ」


 そうだなと素早く彼女から離れる反動を利用して、ヤンキーの後頭部におもいっきり肘打ちする。

「痛ぇ! てめぇなにすんだ!?」

「あぁ、いやすみませんね。おっちょこちょいなもんで」

 頭をポリポリかきながら笑顔で頭に手をやり頭を下げるエイジをヤンキーは睨みつける。

「こらこら、貴方たちなにをしてるんですか? 安元君も風間君には優しくしてあげてね?」

「ちっ」

「何かにつまずいてしまったんですよ。すみません、おっちょこちょいなもんで」


「おい、てめぇ あとで覚えとけよ?」

 安元が顔を近づけてエイジを睨む。

「悪いね、おれは忘れっぽいんだ。あとでまた教えてくれよ」

「こら、安元君!」先生の注意にも「ちっ」と舌打ちして腕を組んで無視をする。

 安元は典型的な問題児らしい。


「え、え~と…… 何かわからないことがあったら隣の赤城さんに聞いてください。よろしくね、赤城さん」

「はい、わかりました」

 隣の席の赤城ユイは小柄な女の子だった。

 長い銀髪に大きな赤眼の瞳、整った顔立ちの無表情な顔は満点、笑顔ならハナマル満点という感じだ。


「へへへ、よろしくね。赤城さん」

「……よろしく」

 そっけない態度を取られても笑顔で返すエイジ。

 彼の期待はその程度では萎えなかった。

 久しぶりの学校でワクワクしてたものの授業は退屈だった。

 一時間、ただひたすら話を聞いてノートを取るのがこんなにも苦痛だった事を忘れていた。

 そう、エイジは本来勉強が大嫌いだったのだ。


 苦痛の現代文が終わり、次の授業は体育だった。

 体操服に着替えてる時に事件は起こった。


「おい、見ろよ。あの転校生」

「なんだ?あの筋肉、本当に高校生か?」

「アスリート……というより格闘家か?」

「それにしたって、あの全身の傷はなんなんだ?切り傷?噛み傷?」

 コソコソとエイジから離れてヒソヒソ話をする同級生達。

(珍しがるのも無理はないか。こんな傷だらけの高校生、そうはいないだろう。)

 異世界から持ち帰ったのはスキルやアイテムだけじゃない、こんな古傷まで持ち帰る事はなかっただろうに……とエイジは思った。


「おい、転校生」

 急に背後から威圧感が話しかけてきた。

 後ろを振り向くと、安元とその子分達がいた。

「お前その傷すげぇな?」

「あぁこれか? 盲腸さ」

「これもか?」と背中や二の腕の切り傷を指差す。全て「それも盲腸」と即答する。

「全身盲腸かよ!んなわけねぇだろ!」

 エイジを壁際にまで追いやり、下品な笑顔で囁く。

「どうせ前の学校でいじめられて転校して来たんだろ? バカだなぁお前、また前の学校と同じ目に合わせてやるよ」

「出来れば、女の子にいじめられたいんだけど。お前らに彼女とかいないの?」

「てめぇ、どこまでも俺たちをバカにするつもりか?」

「ちっまぁいい。放課後まで楽しみは取っといてやる」そう言い捨てて、安元軍団が立ち去っていく。


「ねぇねぇ、風間君」

 背の小さい同級生が話しかけてきた。

「え~と……」

「ぼく、小木っていうんだ、よろしく」

「あぁ、小木君ね。知ってる知ってる」

「絶対知らなかったでしょ? それより安元君には気をつけたほうがいいよ」

 小木が言うには、入学して一週間後に『生意気だ』という理由で三年生が彼を呼び出した時。

 話す先輩に不意打ちで腹を殴ったらしい。殴られた先輩は肋骨を折る重傷。周りにいた先輩達も震え上がり、それ以来、安元は一年だけではなく学校の番長格になった。

『伝説の安元腹パン事変』そう呼ばれているらしい。


「なるほどねぇ」

「安元君は平気で暴力を奮ってくる人間だ。今のうちに謝っておいたほうが……」

「だいじょーぶだいじょーぶ。痛いのは慣れてるから」

「それは君の傷跡を見れば説得力はあるけど、その噛み傷、昔見たテレビでワニに噛まれた人の傷跡に似ているね」

「ワニ? 俺のはもっとすごいぞ。なんたってドラゴンに噛まれた傷跡なんだから」

「ははは、ドラゴン? 嘘だぁー」

「本当なんだけどなぁ」


 三限目の授業が始まる、時刻は十時過ぎ。

 ギュルルとエイジの腹の虫が鳴く。登校前に弁当を渡された事を思い出す。

 立てた教科書の影で弁当を頬張る。

(うまいな、風間家の弁当なら異世界でも大人気間違いなし)

 あぁ、半分だけにしとこうと思ったが全部食べてしまおう、昼休みは売店でパンでも買えばいいかとエイジの箸は止まらない。

「ちょっ、あなた、何してるの?」

 コソコソと隣の赤城ユイが話しかける。

「え?弁当食ってるんだけど」

「まだ、三時間目よ?」

「我慢は万病の元だよ」

「あなた、面白い人ね」

 ユイは微笑んだかと思うと、「はっ」とした顔をして無表情になる。

「赤城さんも食べる?」

「いらないわよ」


「それより、あんた安元に目付けられてるんだから。そっちの方気にしなさい」

 そうボソッと話しユイは目線を外して、教卓の方向に視線を戻した。

 それ以降、彼女はエイジに興味を無くした様に視線すら合わさなかった。


 放課後、エイジは安元に呼び出される。そこには安元の他に三人の柄の悪そうな子分達がいた。

 子分の前で腕組みをしながらニヤニヤとする安元。

 安元の体格は明らかに他の生徒よりでかかった。身長が180センチあり、腕の太さは丸太みたいに太い。

 まさしく、ゴリラが間違って人間界に産み落とされたって感じだ。


「こいつ? 安元くんに喧嘩うったってやつ?」

「あ~あ生きて帰れないよ、おまえ」

「携帯で撮って、あとでネットにアップしてやるから」

 ギャハハと下品に笑う安元軍団。

 そして、安元が一人、エイジの目の前に立つ。


「とりあえず、お前なんで立ってんだ?」

「え?」

「まずは正座だろ?」

「いや、そう言われてもなぁ」とエイジは安元から視線を外す。


「おらっ! よそ見してんじゃねぇ!」

 エイジの腹に安元の拳がめり込む。

 身体がくの字になって身体が浮き上がる。

 みぞおちにモロに入った。常人なら地面に倒れ、悶えているだろう。 

 これぞ、安元の十八番『腹パン』あばらは死ぬ。


 普通の高校生なら、この腹パンを喰らって倒れない者はいないだろう、そう、普通の高校生なら――


「いてぇ! 痛い!……うぅっ!」

 こんな風に情けない泣き声を上げて、両膝を地面につけて呻きを上げる。

 あー痛いだろう、安元くん。きみは鉄板に全力で正拳突きをしたのだから。


「安元くん!?」とざわざわし出す安元軍団。

「お前なにしたんだよ!」

「いや~なにも。勝手にこのバカがたまたま俺の腹に入ってた鉄板に正拳突きしただけだよ」

 上着をめくり、銀白色に輝く鉄の板を見せる。

 ここへ来る前に、校内にあった鉄板を加工して腹に敷いていたのだった。

「鉄板だと!?」と驚くヤンキー。

「お前、なに考えてんだよ。こんなの卑怯だ」


 その一言が、エイジの逆鱗に触れた。


「……卑怯だと?」

「あぁ、そうだよ」

 額に青筋が浮かび、しわをよせた眉の下には燃えるような怒りの瞳が安元軍団を睨んでいた。


「てめぇら……多勢で一人を囲んでいじめようとしてた奴らがおれを卑怯者扱いだと?」

「……いや、それは――」


 エイジの雰囲気が変わり、たじろぐ安元軍団達。

「こっちは一人で来たんだ!! てめぇらみたいに集団で動かなきゃなにも出来ないやつらに! 丈夫と呼ばれても卑怯者と言われるいわれはないんだよ!」


「さぁ、次はお前らだ! 来いよ臆病者!」

 そう言って、異世界で学んだ格闘術『リベンジャ流柔術』の一つ、『青龍の構え』を取る。

 手の爪を立てて、曲げた腕を頭上に、もう片方の腕は曲げて安元軍団に手を向ける、姿勢を低くしたその構えは口を開けた龍のようにも見れた。

「なんだ?その構え、バカじゃねぇか?」

「か、構ってられねぇよ」

「行こう、安元くん」

 安元を支え立ち上がらせて、その場を去ろうとするヤンキーたち。


「待てぃっ!」

 突如、木々を揺らす大声を出すエイジ。

 安元軍団は戦意消失した様子で恐る恐る振り返る。


「おい、そこのベソかいてるお前、参ったしたか?」


「は?」四人が気の抜けた返事をする。

「人に喧嘩売っといて泣きべそかいて帰る男があるか。最後ぐらいビシッとケジメをつけろ」

 安元が支える仲間の腕を払う。

 構えを取ったエイジから2メートルほど離れた所で対峙する。


「……オレは――負けてない。 来いよ、鉄板野郎」

 瞬間、エイジは安元の視界から消える。


「なにっ!? ――ボゴォッ!」

 下から顎を掴まれ、そのまま持ち上げられ安元の視界は空を見上げた。

「ひっ!? ま、待って……!」

 そのまま、後ろに地面へと頭を押し倒され始める。

 この勢いで地面へ激突したら頭蓋骨を超え、脊髄まで衝撃が走るだろう。安元はそれを理解した、その瞬間。

「ま、参ったーー!!」目に涙を浮かべながら降参宣言をする。

 だが、それでも地面への直滑降は止まらない。


「安元くん!? 頭からいったぞ!?」

「死んだ?」

 エイジは安元の袖を掴み、もう一方の手は安元の顎を捕まえていた。


「あぅっ……オレ、生きてる?」

「安心しろ、寸止めだ」

 地面から1センチのところで安元の頭は浮いていた。

 エイジが袖を引っ張って、支えていたからだ。


「寸止め……? そうか……転校生、いや、エイジ君。オレの負けだ」

「あぁ、手を負傷しながらも挑むお前のガッツ。感動したぜ」

 安元の顔に先ほどまでの覇気はない、それどころか清々しい顔をしていた。

「……負けるってこんなに気持ちいいもんなんだな」

 安元を立たせ、ケガをした手を掴む。

「少し痛むぞ? みんなも目をつぶってくれ。あんまり見るもんじゃない」


 みんなが顔をそむけ、目を瞑るのを確認してホーリードラゴンの治癒能力を使って安元の骨折した手を治す。


「あ、あれ? 手が痛く……ない?」

「あぁ、脱臼してただけだからすぐにハマったよ」

「そうか……ありがとう」


「そんな、あの安元君が負けた……?」最強と信じてた安元の完全な敗北に戸惑うヤンキー達。

「俺も今の事は正直飲み込めきれていない、明日エイジ君に改めて話を聞いてもらいたい」

「あぁ、わかったよ。ゴリ元君」

「……安元だ」


 こうして、エイジと安元軍団の戦いは終わった。


「勝利です。 おめでとうございます。 経験値が少しあがりました」

「嬉しくないよ、この世界で経験値あげたって意味なんかないよ。

 腹に鉄板敷いて、短剣やナイフ、はてはボウガンなんか出てきて死闘を繰り広げるもんだと思ったのに」

 唇をとがらして、冷たい視線で安元軍団の背中を見送る。


「この国の荒くれ者はあの程度の様ですね。……マスター寂しいのですか」

「寂しくない。強さとは孤独だってリベンジャ師匠が教えてくれたんだから」

「……マスター」

「いや、ごめんごめん。 気分転換に旧校舎に行ってみようか! コレクタースキルがそこに行けと囁くんだよ」

「いいですね、きっと素敵なものが見つかるはずです」


「それから、貴方にコレクタースキルはありません」

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